第十六話 急転直下
「管理者権限でパスコード67414510で復帰できますよ」
必死に復元を図ろうとしている研究員たちが可愛そうになったので復帰方法を教えてあげる。
「田中さん、このやり方は逆効果になるとは考えなかったのですか?」
「……ようやく形になってある程度テストプレイを行って是非水鏡さんにプレイしてほしくて、気がついたら攫っていました……」
この人は昔からそういう傾向がある。
素晴らしい技術者なんだけど、思いついたら止まらなくなる。
ライバル会社にいる俺の能力をどこからか聞きつけて、普通に面会を求めて来て、その場に普通に社外秘の図面を持ってきて俺にチェックさせた強者だ……
Life社と生誕社はライバル会社だ、と言っても、世界で一位と日本で二位ぐらいに差がある。
生誕社は逆転をかけてLife社が諦めたフルダイブ式、脳波双方向性影響式デバイスの開発を進めている。
どうしても安全面での基準がクリアできないためにLife社は早々に見限って、その結果世界規模のシェアを手に入れることが出来た。
「僕はこんな性格ですからいいですが、実際にはものすごく不安でしたよ」
「ゲーム自体はどうでしたか?」
「最高でした!」
「ですよねー、やっぱりダイブ式だからこそ活かせる物ってすごくあると思うんですよ。
今回特に力を入れたのは、ゲーム式な動かしている。って感覚から、動いているっていう生きていればあたりまえのことが当たり前にゲームの中で行われて、それにたいしてプレイしている人間がゲームをしていることを忘れて没入する。むしろゲームの中にいることを忘れてもう一つの人生を過ごしてもらいたいという熱い想いを濃縮して、あっでも今回のゲームは水鏡さんが好きそうなゲームの題材をいろいろと詰め込みつつ今までになかった没入式ならでは観点で楽しんでもらおうと一生懸命……」
始まってしまった……こうなるとなかなか止まらない。
肯定しても、否定してもダメだ。
相手が話したいことを話し終わるまで待つしかない。
田中さん、本当に、本当に優秀な人なんだけど、突っ走りだすと止まらない……
今回のコードも絶対に社外の、いや、たぶん超上層の人間しか知っていてはいけない物なのに、俺に持ってくる書類に普通に乗ってたりする。
いろんな問題行動も彼女の素晴らしい才能と能力によって帳消しされているんだろう。
まさか誘拐されてテストプレイをさせられるとは思わなかったけども……
あれから一時間まだ田中さんは話し続けて、今回の生誕Ver6.76の良さを語っている。
確かに過去の様々な問題点がクリアされていて、見た感じエラー部分も存在していない。
もしかしたらこれは、本当に素晴らしい製品が出来上がったのかもしれない……
何よりも、自分自身がプレイしてみてすっかり時間を忘れてプレイし続けてしまった……時間を忘れて……時間を……
「あーーーーーーーーーーー!!!!」
「さらには安全性が、っと水鏡さんどうされましたか?」
「か、会社に休み、勝手に、無断……」
「まだ水鏡さんを拉致してから1時間しかたっていませんよ?
あら、私が話し出して一時間半ですから2時間半というのが正確な時刻ですね」
「え!? それはおかしい、内部では……短く見積もっても数か月は!」
「そうですか、そのお話を聞きたいのですね。今回フルダイブ式にして数々の実験を繰り返して、実際の時間経過よりもはるかに長い時間を体感したように出来るその名もタイムジップ機能の開発に成功したんです。やっぱりダイブ式だとゲームへの没入感が高すぎて、時間経過があまりにも早く感じてしまうんですよね。実生活がある以上なかなか長時間のゲームプレイが出来ない方がほとんどだと思うんですけど、それを可能にするのがタイムジップシステム。これを使えば、ちょっと疲れるし実時間で1時間が限界ですが、一時間で七年の体感時間を内部空間で体験することが出来るのです。これにはかなりの安全マージンを測って実験に実験を重ねた数値ですが、それでも実際には一時間一年くらいにした方が数時間プレイが可能で負担も少ないのでお勧めです。また、この機能の目玉は、試行や作業、ぶっちゃけ私がここまでこの機械の開発が進んだことの理由にもなりますが、現実時間以上の長期間の時間をダイブした先の世界で確保することが可能になるんです。すごいですよねこれ、実際にこのシステムがきちんと認められれば人間史における生産性を劇的に増加することも可能なんじゃないかと自負しております。そもそもこのタイムジップ機能の開発は偶然から始まっており……」
また田中劇場は始まってしまったが、その会話の内容やそのあたりに無造作に積まれている極秘資料から探ると、Liveどころではなく、世界を変える発明であることがわかる。
企画書の随所に水鏡さんならきっと、とか、水鏡さんが好きなものに使うと、など、病的な自分への執着が書かれていて、ちょっと怖い。これもすっかり慣れてしまった。
この目の前にいる天才は、何を血迷ったのか、俺のストーカーだ。
何度も両社の間で話し合いがもたれたが、実はLiveでも田中さんの技術や知識を大量に利用しているために、まぁ水鏡が我慢すれば両社OKだよな。という酷い扱いになっている。
昔かったブルドッグの生まれ変わりだと信じられて、男女として大好きだそうだ。
俺の脳力は男女の好きの2京倍好きだそうだけど……
相変らずの田中節は続いているが、本当にこの生誕は凄い。
いや、凄すぎる。
Liveと生誕が組んでこの生誕を発表すれば、完全に世界中のシェアを独占できるだろう。
そう確信するほどの物が今、自分の目の前にある。
俺はいつも通り上司へと報告して指示を仰ぐ。
俺の落とした爆弾はLive社中を大騒ぎにさせ、結局そのまま田中さんに付き合いながら、明日の朝Live生誕両社のTOPを交えた会談が開かれることになった……




