35話
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アーネストと共にカルヴァード公爵家へ戻ると、エントランスに見覚えのある女性がいた。彼女はフェイとティナと何やら話をしていたが、エントランスに近づくロゼッタたちに気が付くと、大きく手を振った。
「ロゼッタ! 会いたかったわ」
「お、お姉様!?」
レイン領にいるはずのアリシアが、ロゼッタに駆け寄って勢いよく抱きついた。
彼女の顔は最後に見たときよりも血色が良く、秋風に靡くハニーブロンドの髪はサラサラとしていて、とても健康的だ。
ロゼッタが状況を飲み込めず、パチパチと目を瞬かせる。
するとフェイが現れ、アーネストに一礼をした。
「お帰りなさいませ。アーネスト様、アリシア嬢が予定通り到着しました」
「わたしは聞いていないのですが!?」
抗議するが、フェイはにっこりと笑うだけだ。
アーネストはアリシアを見て、舌打ちを鳴らす。
「……チッ、もう来たのか……」
「公爵様の手配してくださった馬車のおかげですわ」
アーネストとアリシアの間に、バチバチと見えない火花が散ったように見えた。
ロゼッタはオロオロと二人を見比べる。
「ど、どうしてお姉様がカルヴァード公爵家に!?」
「何故って、公爵様のご厚意でここに住まわせていただくことになったの。楽師の仕事は王都に集中しているし、レイン領からは通うのは大変だろうって。ロゼッタがもう少しだけここで働くみたいだし、姉としては心配だったから来てしまったわ」
「そうだったのね。でも、わたしがカルヴァード公爵家でまた働くことになったのを、なんでお姉様が知っているの?」
カルヴァード公爵家で働くことになったのは、つい先ほどのことだ。
いくらなんでも、遠く離れたレイン領に伝わるまでが早すぎる。それに、アーネストとアリシアも初対面のようには見えない。疑問が浮かぶばかりだ。
「先日、公爵様がレイン男爵家に挨拶をしに来たのよ。大切な令嬢をお預かりしたいからって。そうそう。お父様とお母様は、ロゼッタの判断に任せると言っていたわ」
どうやら、あらかじめアーネストはロゼッタがカルヴァード公爵家で働きやすいように、根回しをしてくれていたようだ。
「良かった。しばらくは、カルヴァード公爵家で働かせてもらうことになったの」
「やっぱり、私の言った通りになったわね」
そう言ってアリシアは、アーネストに含みのある視線を向ける。
「……くっ、今に見ていろ」
「ふふん。思い通りにはさせないわ」
「体調が悪くなったのら、今すぐに帰っていいんだぞ」
「愛する妹の顔を見たら、元気がみなぎってしまったわ。ここに住まわせてくださってありがとう、公爵様」
「……強引にねじ込んだくせに」
コソコソとアーネストとアリシアは囁き合い、打ち解けているように見えた。この分だと、得に問題なく生活できそうだ。
「アーネストとお姉様、仲が良いのね」
「「それは絶対にない!」」
ふたりは声を揃えて叫んだ。
「お姉様、身体はもういいの? 楽師の仕事を再開するって言っていたけど……」
「ロゼッタが送ってくれた薬で大分体調が良くなったのよ。今は楽師の仕事に復帰して、自分で薬代を稼いでいるところ」
アリシアは元気よく笑った。ロゼッタも釣られて笑みを零す。
「無理してない?」
「大丈夫よ。無理のない範囲でやるわ。今は薬代を稼ぐので精一杯だけど、病気が完全に治ったら、ロゼッタにとっておきのプレゼントを贈るわね」
「楽しみにしているわ」
「可愛いロゼッタ」
アリシアはそう言うと、ロゼッタの頬を優しく包んだ。
「辛くなったら、すぐにわたくしに言うのよ。あなたが幸せになれないなら……わたくしは誰が相手だろうと戦うから!」
「あ、ありがとう、お姉様」
気迫のこもったアリシアの言葉に、ロゼッタはたじろぎながらも頷いた。
「そんなことにはならない!」
痺れを切らしたアーネストが、ロゼッタとアリシアを強引に引き離した。
「ひゅーひゅー! ライバル登場だね、旦那様」
少し離れた場所から、ティナが囃し立てた。
「……もう、我慢ならん。ロゼッタ、中に入るぞ。お前の雇用契約書を新たに結ばなくてはならないからな」
アーネストはロゼッタの手を握ると、そのまま歩き出した。
「末永くよろしくね、アーネスト」
「ふん、こちらの台詞だ」
キュッと握った手に力を込めると、ロゼッタはアーネストの隣に並んで幸せそうに微笑んだ。
三時の御茶の時間に、カルヴァード公爵家はアプリコットの甘酸っぱい香りで包まれた。そして昔のように、人々の笑顔が満ちていく――――




