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13話


「……ふう。やっとできたな」



 初めての料理は二十分ほどで完成した。


 途中、すり下ろし器で指を怪我するなどトラブルはあったが、とりあえず人間が食べられる料理を作れたはずだ。



「旦那様、ちゃんと料理はでき――嘘ぉ! あたしより、まともなものを作っている!?」


 桶いっぱいに氷を抱えてきたティナが、アーネストの持つ小さな小鉢を見つめて声を上げる。



「うるさいぞ。ティナのような料理を作る方が難しいんだ」



 小鉢の中には、すり下ろしたリンゴと蜂蜜、そして少量の生姜を混ぜ合わせたものがあった。幼い頃、アーネストが風邪を引いた時に母が食べさせてくれたものを参考に作ったのだが、とても近いものができたと思う。



「私は彼女の元へ戻る。お前は氷枕を作ってくれ」


「拳を使うのは得意だよ!」



 ティナは腕まくりをして元気よく答えた。



「……アイスピックを使え。拳で砕いた氷なんて、気分が悪いからな」



 アーネストは眉間に皺を寄せると、ロゼッタのいる客室へと戻る。


 客室に入った瞬間、アーネストをモワッとした熱気が包み込む。


 真夏のような暑さに、アーネストは怪訝な顔をした。フェイを探して部屋を見渡せば、暖炉の傍でゴソゴソと不審な動きをする彼がいた。



「な、何をしている!?」



 アーネストが問いかけると、フェイは不思議そうにクビを傾げた。



「おや、アーネスト様。そんなに叫ばれては、ロゼッタ嬢が起きてしまいますよ?」


「それはそうだが……そうじゃなくてだな。これは一体何事だ!」


「何って、アーネスト様に言われた通りに部屋を暖めて、ロゼッタ嬢の額に濡れタオルを乗せたのですが?」


「物には限度があるのを知らないのか!」



 このままでは、身体に熱が篭もりすぎてロゼッタが余計に苦しんでしまう。


アーネストは急いでロゼッタにかけられたブランケットを剥がした。幸いなことに、部屋が暖まってから時間はあまり経っていない。ロゼッタは汗をかいて相変わらず苦しそうだが、容態が悪化することは避けられたようだ。



「ん? なんだ額だけ尋常じゃない汗が……いや、水か?」



 ロゼッタの顔には、ダラダラと水が流れていた。その原因は、シーツを濡らすほどに水気たっぷりの濡れタオルだった。


 アーネストは素早くロゼッタから濡れタオルを取り、濡れたシーツの上に厚手のバスタオルを引いた。



「……私、何かやらかしました?」



 自覚のないフェイをアーネストは半目で見る。



「タオルはビチャビチャ、部屋はサウナ並みに暑い……お前は病人を殺す気か」


「すみません。今まで人生、自分の好き勝手生きてきて誰かの世話は初めてだったんです。計算や書類の偽造は得意なんですけどねぇ」


「……お前たちは人間として大事な物が欠落している気がする……」



 ティナといい、フェイといい、自分の幼馴染みの使用人は、どうしてこうも一般的な感覚から外れているのだろうか。貴族の自分よりも生活力がない気がする。



「もういい。私が彼女の世話をするから、フェイは私の仕事を片付けていてくれ」


「かしこまりました」



 現在、このカルヴァード公爵家でロゼッタの看病ができるのは自分だけだと確信し、フェイを部屋から追い出した。


 アーネストは燃え盛る暖炉に近づくと、薪を散らして火の勢いを弱める。これでもうこの部屋が必要以上に暑くなることはないだろう。



「……やっと落ち着いたか」



 安堵の息を漏らすと、アーネストはベッド脇の椅子に座る。


 ロゼッタの呼吸は先ほどよりも安定していたが、ブランケットを勢いよく剥がしたせいで夜着が乱れて、白く程よい肉付きの足が露出している。


 アーネストは顔を背けると、素早くブランケットをロゼッタに掛けた。



「お、おいっ。起きるんだ」



 ゴホンッと咳払いをすると、アーネストはロゼッタの肩を揺らした。



「ん……誰?」


「私だ」



 ゆっくりとロゼッタの瞼が上がり、ぼんやりとした碧色の双眸がアーネストを捉える。すると、彼女はブランケットに潜ってしまった。



「……わたしは大丈夫だから。お姉様のところへ行って」


「君の姉? なんの話だ」



 アーネストはブランケットをロゼッタの顔が見えるぐらい捲ると、彼女の額にそっと手を当てた。



「やはり、まだ熱が高いな」



 ロゼッタは高熱で意識が朦朧としているのか、カルヴァード公爵家にいることを忘れているらしい。



「わたしは平気だって言っているでしょう。だから、お姉様のところへ行って」



 ぷうっとリスのように頬を膨らませるロゼッタを見て、アーネストは溜め息を吐いた。病人の相手は難しい。



「……君の姉は今、とても体調がいい。だから、私が君の傍にいても問題ないだろう?」



 適当な嘘を吐くアーネストを見て、ロゼッタは潤んだ瞳ではにかんだ。



「嬉しい!」



 ロゼッタは幼子のように声を弾ませた。


 それをアーネストは呆然と見つめる。


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