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11話


「特製オートミールになります!」


「オートミール? これが……」



 ティナがオートミールは何故か鮮やかなピンク色で、その上には飾りなのかザク切りにした黒いハーブが盛られていた。


 ロゼッタとアーネストは、ティナの料理の才能に身震いをした。



「早く食べましょう」



 フェイの一言で、ロゼッタたちはバゲットサンドを食べ始める。


 アーネストはカタカタと震える手でスプーンを持ち、青い顔でオートミールを口に運ぶ。



(……なんかいじめているみたいで気分が悪いわね)



 アーネストにも食事を作った方がいいのではないかと思ったロゼッタだったが、すぐにその考えを捨てた。


 先ほどのアーネストの強い拒絶を思い出したのだ。



「んー、チキンも美味しいけど、焼きたてのパンとシャキシャキのレタスの相性も抜群ね」



 ティナは頬に手を当てながら、幸せそうな顔で言った。


 するとアーネストが彼女に厳しい目を向ける。



「……そんなに美味しい訳がないだろう」


「意地っ張りだね、旦那様は」


「うるさい。危機感のない奴らめ」



 そう言ってアーネストはオートミールをかきこむ。


 その姿をロゼッタがぼうっと見ていると、アーネストと視線が交わる。



「……どうしたんだ。食べないのか?」


「あ、いいえ。すぐに食べます」



 自分のバゲットサンドを見たら、まだ一口しか食べていなかった。



「もしや、何かやましいことでも――」


「ええっ、目の前でそんなマズそうなもの見せつけられたら、食欲が失せるに決まっているじゃないですか」


「ティナの言う通りですね」


「お前たちが言うな」



 ロゼッタは三人の会話を聞き流しながら、黙々とバゲットサンドを口にする。

味はあまり感じなかった。



    ☆



 朝食の後。ロゼッタは馬の世話をするために、厩舎へ来ていた。


 後ろを振り返ると、空気ことアーネスト・カルヴァード公爵がまだロゼッタを観察していた。



「こんなところまで付いてこなくていいのに……」


「私の勝手だろう」



 そう、勝手だ。この城では、アーネストが王様。彼が何をしようとも、咎める者はいない。


 観察されることを早々に諦めたロゼッタは、馬を放牧させて厩舎の掃除に取りかかる。テキパキといつもの通りに動いていると、アーネストが僅かに驚いた顔を見せた。



「君はこんなことまでしていたのか」


「確かに、侍女の仕事ではありませんね。やはり、本職の世話人の方が馬たちにとってもいいと思いますが」


「……検討しよう。今は難しいが、近いうちに……」


「あ、ありがとうございます」



 素直にロゼッタの意見にアーネストが耳を傾けてくれたのは初めてだったので、ロゼッタは動揺する。


 それを悟られないように、ロゼッタは急いで厩舎の掃除を終わらせた。



「あら、もう戻って来たの?」



 牧草を餌箱に補充していると、馬たちが厩舎へ戻ってきた。


 そしてウルウルとした目でロゼッタのエプロンのポケットを見つめる。



「さすが。気づいたのね」



 ポケットからニンジンを取り出すと、ロゼッタはそれを公平に馬たちへ食べさせる。すると、アーネストがそれを恨めしそうに見ていた。



「……餌やりをしてみますか?」


「……いいのか?」



 ニンジンを食べたい訳ではないと思って聞いてみたが、どうやら正解だったらしい。


 アーネストは無表情でニンジンを受け取ると、そのまま馬に食べさせた。




 次にロゼッタが馬たちをブラッシングしていると、アーネストが眉間に皺を寄せて、不機嫌そうにこちらを見ている。



「……ブ、ブラッシングをしてみますか?」


「いいのか?」



 ダメ元で聞いてみると、アーネストはブラシを受け取って怖々とした手つきでブラッシングをしていく。


 その顔は相変わらず凶悪だったが、馬たちが大人しくしているので、敵意はないらしい。



「旦那様は、馬の世話がお好きなんですか?」



 何気なくロゼッタが聞くと、アーネストは少し考え込む。



「好き……というのは分からない。乗馬はするが、世話は初めてだからな。思えば、そんなことをする時間はなかったからな」



 何があったのか、どんな子ども時代だったのか……ロゼッタは聞いてみたい衝動に駆られたが、すぐに心の中にしまい込む。


 アーネストは酷い人なはずなのに、心のどこかでそれを疑問視する自分がいた。





 午後になり、ロゼッタが洗濯を初めてもアーネストは飽きずに観察していた。


 さすがのロゼッタも呆れた目を彼に向ける。



「今日は帰れとわたしに言わないのですね」


「観察しに来たと言っただろう。だが、君に帰って欲しいというのは、私の変わらない思いだ」


「そう、ですか」



 なんだか頭がぼうっとする。


 思考の纏まらなくなったロゼッタは、石けん水に手を突っ込んだまま制止した。



「それにしても君は、そんなに冷たい水にずっと手を入れていて寒くないのか?」


「いえ、全然。むしろ熱いぐらいですけど」



 おかしい。もう秋だというのに、真水を冷たく感じないなんて、感覚が鈍っているとしか思えない。


 ロゼッタが勢いよく立ち上がると、ぐらりと視界が歪んだ。



「だ、大丈夫か!?」



 よろめくロゼッタをアーネストが咄嗟に受け止める。


 そしてロゼッタは漸く自分の身体の異常に気がついた。それと同時に不安な気持ちがせり上がってくる。



「……酷い熱だ」



 アーネストはロゼッタの額に手を当て、顔を顰める。



「へ、平気です。なんでもありません。だから――――」



 だからどうか、わたしを一人にしないで




 ロゼッタはアーネストのシャツの裾をきゅっと握りしめ、意識を失った。









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