古代オルニト帝国の成立
古代オルニト帝国は、伝説によると8万年前に成立した。
通常、一つの土地に住む集団は、各々の集団の指導者によって統制された。
それは、司祭であったり血縁で集団を統率する指導者であったり様々だった。
そこには、共通のルールが作られ、破るものは集団から排斥されたことは想像に難くない。
遊牧民族と農耕民族では、遊牧民族の方が実力主義や合理的な考え方が強いと言われている。
これは、集団の規模が少ないため迷信的な権威が弱くなるからである。
指導者は、集団から話し合いなどで選ばれた。
鳥人たちは、広範な行動範囲を持ち、既知世界全土に広がった。
空を飛ぶ彼らの活動地域は、人間や他の亜人とはスケールが根本的に違った。
また移動する集団の規模も遊牧民族と違い、大きくなっていった。
有力な鳥人の指導者たちは、東大陸のオルニト高原に集まった。
そこで彼らは、全ての者が服従する法律を制定し、一人の指導者に世界が統制されることを決定した。
そのために「オルニト法」と「オルニト皇帝」という二つの制度が制定された。
これが古代オルニト帝国の起源である。
しかしその実態は、帝国という言葉の意味する社会体制とは違った。
まずオルニト帝国には、領土=徴税地という概念が存在しなかった。
次に領域を保護する軍隊も存在しなかった。
オルニト帝国とは、帝国=インぺリウム=命令の意味である。
帝国は、皇帝の命令とオルニト法が効力を発揮する地域と見做された。
皇帝は、軍隊を指揮して敵を倒す者ではない。
皇帝は、各地の争いを調停する者。
その程度の存在であった。
このように書くと皇帝の権威は、弱いように思われる。
普通、帝国には中央集権体制、軍隊と官僚組織が必要である。
しかしオルニト皇帝には、それらは無用であった。
オルニト皇帝は、地球の言葉で「トラトアニ」に翻訳される。
これは、アステカの神官王のことである。
オルニト皇帝は、強力な霊能力者であり神々を従えることが出来た。
神と交信し、神罰を下すことのできる人間だったのである。
そのため軍隊と官僚を維持する徴税制度も不要だった。
初代皇帝インは、神々を「御封地」と呼ばれる特定の場所に鎮守させた。
これにより神々が特定の王を庇護しても一定の地域から外には出られないようにしたのである。
全ての神々を服従させるオルニト皇帝だけが全ての地域を統制できた。
これほど強大な権力を神々が一人の人間に集束したことには理由があった。
まず彼が神々をも従えられる魔術の知識と霊力を持っていたこと。
次に世界を安定させる指導者が、やはり必要と認めたこと。
そして最後に敵がいたためである。
全ての生命の源、世界樹から最初に生まれたハイエルフの王ディオマーは、自分が全ての生物の家長であると考えた。
誰よりも早く生まれ、長老でもある自分を全ての者は、尊敬し、服従するべきだと主張した。
オルニト帝国は、反ディオマー同盟として起こった。
帝国は、オルニト法を受け入れ、ディオマーと敵対する地域の同盟軍でもあった。
それがディオマー王に対抗するため、同盟より強い結束を表すため帝国と呼称された。
しかし帝国は、エリスタリア半島と一部の地域を除く既知世界のほぼ全土に及んだ。
幾ら鳥人たちが飛べるといっても世界各地の情報伝達には、限界があった。
また皇帝は、世襲制ではなかった。
全世界を統べる者は、世界樹を除く主要な神々を従える霊能力が必要となったからである。
そんな霊能力者が都合よく現れることはなかった。
長期政権も望めず、連帯すら困難なのが現状。
そのため帝国は、世界政府ではあったが大きな強制力はなかった。
オルニト帝国は、広大な地域を統制する小さな政府であった。
しかしオルニト法という共通のルール、そして共通言語、オルニト文字を使用した。
現在、共通語以外で残っているのは、ラ・ムール語(猫人)と大延帝国の獣字など一部である。