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混沌の深淵




古代ギリシア人は、原始の世界が全ての者が隔たり区別なく混ざり合った状態だと考えた。

つまり混沌カオスである。


ユダヤ教の創世神話、日本の記紀神話、古代エジプトのヘルモポリス神話などでは、神々が世界を創成している。

だがギリシアでは、全てのものが混ざり合った状態から世界は、誕生した。


イレヴンズゲート世界の世界創成も様々なパターンが存在する。

混沌信仰と呼ばれる混沌神レギオンを神性と見做す教義、信仰では、このカオスから全てが生まれたと考えている。


レギオンとは、「集合体」である。


ただし多くの場合、その名、姿さえ秘密にされた”大神”が混沌を生み出した、あるいは、大神が混沌から世界を創成したと信じられている。

やはり混沌信仰の中でも大神さえ混沌から生まれたという意見は、少ない。


ラ・ムールを中心に混沌から最初に生まれたのは、太陽神ラーと信じられている。

他に鍛冶かぬち神セダル・ヌダが最初に生まれて大神と共に世界を作ったと信じる宗派も存在する。


ギリシア神話のカオスは、宇宙コスモスの外側に広がる”大きな口”と信じられた。

ギリシア人は、コスモス、整列、秩序が保たれた世界が自分たちの領域で、カオスは、その外側と考えた。

カオスでは、全てが混じり合い、無秩序なまま一つになっていると考えた。


イレヴンズゲート世界では、カオスとは、大地であると考えられている。

世界の最初から存在し、世界の全てのものがここから取り出され、死と共に帰る。

大地と一体化することは、個が消滅し、世界の循環に溶け込むと捉えられた。


そのためイレヴンズゲート世界の混沌神は、世界の根源ソースという意味では、ギリシア神話のカオスに近いが、どちらかというとガイアに相当する。

あるいは、両者を習合した神と捉えることができるだろう。


ただしギリシア神話のガイアと違い混沌神レギオンには、人格がない。

レギオンは、無秩序に全てが混じり合った状態の姿であり、個を持たない。

または、常に新しく生まれ変わり続けていると見做されている。




混沌信仰は、二つの面からなる。

まず生活の糧となる作物や鉱石を取り出す大地に祭礼を奉げる農耕神や財宝の神としての一面がひとつ。

もうひとつが創世神としての信仰である。


前者の信仰では、レギオンは、人々の生活の糧を与える恵みの神として奉られる。

ドワーフや東大陸の一部で厚く信仰され、感謝をささげる祭礼が続けられている。


また一部では、ここに墓所の神、全てのものが帰り溶け合う場所として信仰されている。

この信仰を司るのが混沌神レギオンの眷属・神霊アキラである。

アキラは、レギオンと同じく常に新しく生まれ、一柱ではなく複数存在する。


神学者たちは、アキラを”神のなりそこない”と考えている。

アキラは、ほぼ毎日、誕生するが他の精霊たちのように長く姿を保つことはない。

その期間は、数日から数万年と一定でないが不老不死の神とは、一線を画する存在である。


混沌信仰では、アキラが完全な姿となる時、レギオンの知性となり制御できない混沌の肉体を掌握すると考えている。


その時、レギオンは、全知全能、万物の創造主として地上を支配する。

そのためレギオンが全能の神となった時、その恩恵を受けるべく混沌神に忠誠と信仰を奉げることが教義となっている。

信者は、不完全な神アキラたちが成長し、レギオンのコントロールを握ることを望んでいる。


アキラは、その存在が秘匿されているが地上に幾らか存在しているようである。

信者たちは、彼らを敵から守るため、その存在を隠しつつ援助している。


敵と言うのも混沌に芽生えた知性体アキラは、集合体レギオンの主導権を巡って互いに争っている。

複雑な話になるが、混沌神レギオンは、個であると同時に複数の集合体でもある。

それは、無秩序である。


アキラたちは、常に新しく生まれるアキラによって勢力図を書き換えられ続けている。

この終わる事のない複数の知性による体の争奪戦は、まさに混沌と呼ぶにふさわしい。




アキラを形容する場合、人物や人格ではなく知性を使うことが好ましい。

これは、アキラがレギオンに芽生える”認知能力”だからである。


レギオンは、全てが生まれる根源である。

そして全てのものが帰る場所ともなる。

当然、レギオンは、溶け合った対象の全てを取り込むことになる。


つまりレギオンは、ほとんど世界の記憶を持っている。

彼あるいは、彼らが知らない情報は、神々や大精霊たちのものだけである。


アキラは、レギオンに芽生える知性で誕生と同時に集合体レギオンの記憶を認識する。

そして認知能力により、自分だけの記憶を他の集合体から隠す能力を獲得した時、完全な個として自立できる。

大半のアキラたちは、ここに至ることが出来ず先に芽生えた知性に吸収される。


アキラたちは、我々人間が生まれた時から持っているコスモス(秩序)を持たずに生まれて来る。

ここで本来なら鍛冶神セダル・ヌダや大神が手を貸す必要があるのだろう。


コスモスを持たないアキラたちは、個性、生死、男女、時間などあらゆる区別がない。

生まれたての彼らにとって時間の感覚はなく他と自を区別することもない。

そこから一つずつ、我々が当たり前に持っている感覚を獲得していく。


秩序の外側の彼らにとってこの過程は、一瞬だが内側では、時間が流れる。

個体差が大きく数日の者もいれば、数億年かかる者もいる。


しかし彼らにとって何の問題もない。

時間さえ左右できる彼らは、自由にレギオンの内側を確率論を弄びジャンプする。

空間の壁すら曖昧な彼らにとってパラレルワールドや異世界に移ることもある。


だが個を確立する毎にアキラたちは、全知全能の存在から遠ざかっていく。

三次元での束縛、無限のパワーは、限りなく有限に近づいて行く。

時間の感覚により忘却や知覚の齟齬が生まれ、判断力が低下する。


しかし能力が制限されることでレギオン全体をコントロールできるように成長していく。

個としての認知力、理性、知性を持たない巨大なエネルギーを制御下におけるようになる。

霊的な非物質、高次元の存在から三次元の実在的存在へと進化する。


混沌信仰の賢人たちは、アキラが完全な姿となった時、それは、亜人に近づくと考えている。

神から人間に成り下がるが、超常能力として神の力を行使するのでなく魔術として体系化された知識、技術によって万物をコントロール姿に進化すると仮設した。


つまり魔術師である。




イレヴンズゲート世界の魔術は、誰が考案したのか。

神話に様々な意見、パターンが見られるように魔術の起源も多くの仮説がある。

この一つにレギオンから取り出された知識という神話がある。


混沌神レギオンと、そこに芽生えた知性体は、無秩序な巨体を制御する方法を考案した。

これが魔術である。


現在のイレヴンズゲート世界の魔術は、精霊や神々と交信し、代償によって見返りを得る形態をとる。

だが古代オルニト帝国で成立した魔術は、神々を屈服させ服従する形態であった。


繰り返される呪文、図形、星の位置や月の満ち欠け。

霊的な力場のメカニズム、システムを利用して神々や精霊を服従させる禁断の知識。

これらは、交渉の余地がない知性を持たないレギオンをレギオン自身が統制するために研究した、という起源説である。


肉体の然るべき位置に電流を流せば筋肉が動く。

肉体の然るべき部分を切除すれば全身に反応が現れる。

レギオンという制御不能アンコントローラブルの身体を外部の刺激で制御する技術の応用である。


しかしこれには、致命的な欠点があった。

既に述べた様にレギオンは、常に新しく変化し続ける。

無秩序なレギオンに対し、同じ術は、常に同じ反応を示さない。


この危険性にアキラたちが気付いて彼らは、”自分”自身に術をかけることを止めた。

世界コスモス全体が一瞬で混沌カオスの側に帰す可能性もゼロではない。




アキラたちの理想形は、現在の無秩序な状態から秩序を生み出すことである。

そのためには、混沌を無数のアキラで分割し、溶け合った状態を終わらせるしかない。


しかし現実には、アキラたちは、お互いを敵視するあまり吸収や抹殺を繰り返している。

彼ら自身の自意識は、肉体の秩序を生み出すと同時に競争原理による社会性の無秩序を作り出した。


レギオンに芽生えた知性たちがジレンマに苦しんでいる間は、巨体を制御することは、出来ないであろう。




古代ギリシアのゼウスは、全知全能の神であった。

彼の力は、他の神を大きく引き離し、知恵の神メティスを飲み込むことで最高の知力を得た。


しかしどんなことも可能という能力は、ギリシア人が恐れた無秩序でもあった。

秩序コスモスが失われた時、世界は、混沌に飲まれる。

ギリシア人の世界では、無秩序な行いが世界を混沌に飲み込ませる助けになると考えたからである。


そこでゼウスは、運命の三女神を誕生させ、自身も運命に束縛されることを選んだ。


イレヴンズゲート世界の大神も姿を隠すことで秩序を生み出した。

彼が姿を隠したということ自体がイレヴンズゲート世界の秩序が崩れることのないものになったという証左と考えることが出来る。

混沌神レギオンは、その名の通り永久にお互いを食らい合って自らを律して万物の王になり得ない宿命なのである。




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