喰いしんぼ
毎日23時投稿予定です。一応。頑張ります。
「フィナ、フィナか。キミにしては良い名前じゃないか。」
くすくす、と口を手で覆いながら蓮は静かに笑う
「俺にしてはってなんだよ」
「キミは命名のセンスが昔から悪かったじゃないか。オークをブタゴリラって呼んだり犬にネコってつけようとしたりしてただろ?」
「よくそんな昔のこと覚えてるな…」
恥ずかしくなってぽりぽりと頬を掻きながら答える。
「まるで昨日のことのように思い出せるさ、あの日々のことは。」
「まぁ……たしかにな、いろいろなことがあったが楽しかったよ。」
「ボクは今でも楽しいけどね、結局ボクはいつだって”ケ・セラ・セラ”さ」
「蓮はほんとに変わらないな、そこがいいところでもあるけど」
「人生は楽しい!世界はいつだって美しい!それでいいじゃないか。そうだな……キミが一緒にいてくれればもっと楽しいだろう。なんてったってキミとボクだからね!」
ニヤリ、と芝居がかった口調と顔で蓮はいつもこのセリフを言う
「でもそれ俺だけじゃなくてみんなに言ってるだろ?」
「あらあら、嫉妬かい?可愛いものだ。」
「そんなんじゃないよ、ただそう言ってるのをよく聞くだけさ。」
こうして話しているとフィナは「ヴァ」と小さく鳴き、大きく口を開けた。
「ほら、キミのお姫様が食事をご所望のようだよ?」
「食事?ああ、そうか…竜は雑食だよね?生肉でいいかな?」
「いや、生まれたばかりの竜は親から魔力を貰って成長するんだ。そんなことも知らずにキミは竜を飼おうとしてたのかい?」
蓮はジト目で俺を睨む。
「いや、まあその、そうなるな。で、でも一応本は買ったんだ!ほら!」
そう言って本屋で買ってきた『白痴にして盲目でもわかる!竜の飼い方!』を取り出す。
蓮はそれをいかにも胡散臭いものを見る目で見た。
「なんだい、それはグリモアかなにかかい?」
確かに表紙も題名もそれっぽいが…
「違うよ!多分……」
蓮は俺からその本をひったくってパラパラとめくる。
「まあ、題名はあれだが書いて有ることはまともだな……つまらん」
「つまらなくて結構だ。それは飼育のための本なんだから」
「まあとにかく魔力を与えるのがいい、炎なら炎龍、水、氷なら氷竜、雷なら……という風に成長の方針が決まるからな、よく考えるといい。」
「ふうん、そんな風になってるのか。」
「ああ、そもそも竜種……特にこいつみたいな真竜種は火山や雪山など限界域に住んでるからな、最初に与えられた魔力によって成長方針を決めるというわけだ。」
「へぇ~、でもこいつの将来を俺の一存で決めるって言うのもなぁ……」
グリグリとフィナの頭をなでながら言う。気持ちが良いのか「クルルルル…」と小さな声で鳴いて可愛い。
「とはいえな、それもまた親の仕事と言うやつだ。炎竜や雷竜は育てるのが大変だぞ?火とか吐くし下手すれば大火事だ。それに土龍(モグラとかぶるため土の竜のみこの表記が一般的)もやたらと床を掘ろうとするからやめたほうがいいな。」
「まあ確かに……そうだ!じゃあこうしようじゃないか」
言うが早いか俺は火と雷と土以外…つまり氷、木、風、光、闇の属性を宿した魔力球を浮かべる。
「おいおい、どうする気だい?と聞くまでもないか、全くキミというやつは馬鹿というか考えなしと言うか……」
「ほら、フィナおいで?ここから好きなものを選ぶといい。これが君にとって初めての決断だ。悔いの無いように選びなさい。」
フィナは待ちわびたごちそうを品定めするように魔力球に近寄ってクンクンと鼻を鳴らしながら選んでいる。
「なんて生まれたばかりの仔に話しても無駄か。」
氷と風が気になるのかくるくるとその周りを回っている。
「そうでもないさ、竜とは聡明な生き物だ、きっとキミの気持ちも理解しているさ。」
かと思うと闇の魔力球をじーっと見つめていたりする。
「だといいけどね。」
10分ほどフィナの品定めを眺めていたが、急にフィナが大口を開けた。
(お、決めたかな?)と思い見つめていると、闇以外の4つの魔力球を一気に口に入れた。
「「あ」」
「クルルルル」と満足げに鳴いた後ゴロンと横になるフィナ。
「え…?ねえ、これってどうなるの?蓮」
「さぁ…?環境から複合的に2属性を得ることがあるが……まあお姫様は満足げだしいいんじゃないか?対抗属性同士じゃないし最悪は魔力中和でどうにかなると思う……けど。」
「とにかく暴れだしたり苦しそうにしなければ大丈夫だ、定着する1周間後まで様子を見ようじゃないか。」
「そ、そうだね…気持ちよさそうに寝てるし、多分大丈夫かな?」
「こういった例は先程も行ったが無いわけじゃあない私もまた一週間後に様子を見に来るよ。」
そう言うと蓮は立ち上がり、帰りの準備を始めた。
「え?蓮もう帰るの?」
「ん?ああ、キミの顔も見れたしね、聞きたいことは聞けたし。」
「えぇ、せっかく来たんだ、もう時間も遅いし今日は泊まっていきなよ。」
「うーん……ま、それも悪くないか、じゃあお言葉に甘えて泊めて貰おうかな」
その日は結局夜更けまで呑みながらいろいろなことを話した。
大体は真帆さんや宗介の話だけど、それもまたとても久しぶりの経験だった気がした。