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竜のいる日常  作者: 柳都
2/6

されど凡人は農家となる

 「んん~っ」


朝起きても特に卵に異常はない。

今日はいつもの畑仕事以外特に予定はないのでさっさとこなして役所へ向かおう。

しかしいない間に卵が孵化してしまっては困るので向かいの詩織さんあたりに事情を説明して少しの間見ていて貰おう。


午前9時

このくらいの時間というのは専業主婦にとって忙しい時間なんだろうかと思案するが玄関でいつまでも突っ立っているほうが迷惑というものだろう。


ピンポーン


呼び鈴を押し少し待つといつもの明るい声が聞こえてくる。


「あら~、勇君じゃない!この間はわざわざお野菜ありがとね~勇君の作る野菜は美味しいしウチとしても助かるわ~」

詩織さんは恰幅の良い主婦だ。昔竜を飼ったことがあると話していたのでこの件に関しては適任だろう。


「それはどうもありがとうございます。今回は豊作だったので。喜んでもらえて嬉しいです。」


「いえいえ、こちらこそ!というか勇君のところはいつも豊作じゃない!うらやましいわ~」

うちなんてね…と世間話に花を咲かそうとしている詩織さんには悪いが多少強引に話をすすめる。


「すいませんがうちに今竜の卵がありまして…役所で申請などしなければならないので少しの間見ておいてもらえませんか?」


「あら!勇君、竜かうの?やっぱり亜竜?」


「あ…いえ、捨て竜らしくて、多分亜竜かなぁとは思うんですが…」


「あらあら、そうなの?わかったわ!誰でもない勇君の頼みですもの、私に任せてちょうだい!」


「すいません、詩織さん助かります。」


「詩織さんだなんて、昔みたいに詩織ちゃんって呼んでもいいのよ?」


「ははは…それは…」


「ふふ、冗談よ。そういうところ変わらないわね勇君は。」

そう言うと詩織さんは微笑む。

「あ、そういえばうちの旦那がまた手伝ってほしい事があるらしくて…」


「あ、はい。じゃあまたお家に寄せてもらいますね。では卵のことよろしくお願いします。」


「ドーンと私に任せてちょうだい!」


こうして話を終え、畑に向かう。

畑の管理自体はそこまで時間はかからない。魔法というのは本当に便利な技術で一度覚えてしまえばかなり応用が効く。雑草などは土魔法で周囲の土を操作して根っこから抜き、風魔法で回収、その後水魔法で水を撒く。


普通免許じゃ無理だが中級免許に通るくらいの魔力量があれば10ヘクタール程度の畑ならすぐに作業が終わってしまう。それこそ1時間もかからないので農業は魔法が入って来て革命的に変わった職業の一つだろう。


これまでの農業と違い、作業量は圧倒的に少なくなったのにもかかわらずライトなどの魔法によって冷害などの被害も極限まで抑えられ、収穫量も安定した。

更にダンジョンの発生による耕作地の大幅な上昇もあって日本の食料自給率は実質的に100%を超えている。

これらの要因から昔は忌避されがちだった農業も今や魔導大学院卒などのエリートの就職先の候補としても有力なほどに地位が上がっている。

まあ要は個人の技能が重要で食いっぱぐれの無い職業になったということだ。


そうこうしているうちに作業を終える。今日は特に害獣被害も出ていないようだ。

少し休んだ後役所へ向かうことにした。昼食は帰りに摂ればいいだろう。


役所につくと見慣れた顔を見つける。


「やぁ、香菜さんお疲れ様」


「おや、勇さんじゃないですか。免許の更新はまださきじゃありませんでした?」

香菜さんは今年公務員になったばかりの新人で俺の友人の真帆さんの研究を手伝っていた(らしい)。

確かに香菜さんには真帆さんを通して何度か会ったことがあるし、街で合えば真帆さんの近況を聞いたりする程度は話していたがそれでも研究の内容は杳としてしれなかった。


しかし香菜さんとの交流はどちらかと言えばこちらで暮らし始めてからのほうが多い。

なぜなら俺は割りと役所に用事があることが多いからだ。

免許の更新、様々な申請、手続き……などなど自営業は面倒なことも多い。

人間関係で苦労しない分気が楽といえば楽だが……


「で、じゃあ今日はどうしたんですか?害獣駆除申請書ですか?それとも魔導回路使用許可手続き?」


「いや、今日はそういうんじゃないんだ」


「あら、珍しい。仕事人間の勇さんなのに」


「別に仕事人間なわけじゃない、入れ込むべきものがなかっただけだよ」


「ふぅん、じゃあその勇さんは何に入れ込もうと思ってこんな役所くんだりまでご足労を?」


「まぁ、その…なんだ、魔物の飼育許可を取ろうと思ってな」


「おお~っペットですか!いいですね~、コボルトですか?それともオルトロス?いやいや勇さんのことですしケットシーですかね?」

なぜネコ科系とイヌ科系だけなんだ。

というか俺のことだしってなんだよ。


「いや…その、竜だ」


「竜?ああー竜ですか、少し待っててくださいね」

そう言うと香菜さんは後ろにいる上司らしき人と軽く相談しいくらかの書類をもって戻ってきた。


「えー…とですね、多分ショップからの連絡が来てないってことは捨て竜ですよね?状態は?種類はわかりますか?」


「ああ、捨て竜だよ。状態は…今は卵だな種類はちょっと生まれてみないとわからないな…」


「それだと…収入は安定してて、年齢も勇さんなら問題なし…と、ちょっと免許お借りしてよろしいですか?」

そう言われて大型免許を渡す。


「これなら…うん、大丈夫だと思いますよ、犯罪歴もありませんし真竜種でも十分飼育可能ですね。」


「そうか…よかった」

大丈夫だとわかっていてもこの手の申請は若干緊張する。

特に今回は命がかかっているものだ。先に孵化する判断をしたのは失敗だったかもしれない。


「じゃあこの書類を書いて2日以内に持ってきてくださいね、ここで書いてもいいですが書くこと多いので家で書くことをおすすめしますが」


「ああ、じゃあ書いて持ってくるよ。ありがとう香菜さん」


「こっちも仕事ですからね、ああ、あと暇があるときでいいんで真帆先生に連絡してあげてくださいよ!勇さんが相手しないとあの人の相手するのなんて私と宗介さんくらいなんですから」


「えぇ……うん、まあ考えとくよ。でもそれなら宗介にまかせておけばいいんじゃないか?」


「いまあの人どこだかのダンジョン化した霊峰に挑んでるらしくて連絡つかないんですよ!こうなると実質あの人の相手できるのなんて私と勇さんくらいなんですから…!お願いしますよ!」


「真央じゃだめなのか?あいつもどうせ暇だろ?」


「真央さんは絶対ダメです!完全に水と油ですよ!大戦争必死です!」


「そういえばあいつら一緒にいるのって見たこと無いな…」


「てことでお願いしますよ!ほんと!」


「わかったよ…」


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