転生エルフと無能な少年
ちょっと入浴中に浮かんでしまって……。
私はエルフである。
名前はバンブー=ベル。
ぴっちぴちの423歳というエルフにしては若い部類である。
……おい、ババアって言った奴ちょっと来い。私の超絶爆裂魔法で木っ端微塵にしてやるから。
運が良ければ、友人が「クリ●ンのことかーーーーっ!!」って感じに覚醒してくれると思うから。
ん? 何で、ドラゴ●ボールネタを知ってるかって?
それはあれだ。
私は俗に言う、転生者という奴なのだからだ。
だから、私超TUEEEEEEEEEEEEEEEE!! な感じだぞ?
何? 私の前世を知りたい?
仕方ない、教えてやろうではないか。……おい、逃げようとするな。話ぐらいさせろ。
……うむ、では話そうか。
生前の私は、所謂普通の何処にでも居るOLの竹林鈴子だった。
しかも、北陸地方で勤めるOLだ。
そして生粋のオタクだった。……もちろん、腐っていないからね?
腐ってはいないけれど、高校時代は授業中に米麹を掻き混ぜることをしてたり、塩漬けのナスをコマ切り、味噌作ったりする農業科に通ってはいたけれど……って、別に関係ないか。
そうそう、通っていた高校は今では立派な市役所に……市役所ぇ。あの体育館が市役所……。
え、そんなこと知りたくねぇって? 分かってるわかってる。
私自身ちょっと米食べたいなー、味噌汁飲みたいなー、和食食べたいなーって思うときはあるのよ。
だってさぁ、この世界のご飯って基本パンなのよ? しかも、イースト菌とか天然酵母とか見つけていないからかガッチガチの黒パン。
硬いったらありゃしないわ。ありゃ鈍器よ鈍器。
とと、また脱線してたわね。
えーっと、何の話だっけ?
…………ああ、死んだ理由ね。
あれは、冬の1月中旬のことよ。
その前日に、街にはドカ雪が降っていて……道にも屋根にも大量の雪が積もっていたわ。
だから屋根に上って雪すかしをすることにしたのよ。
え? 雪ってのはなんだって? ああ、この地方は雪が無いんだったわね。
簡単に言うと……、空から降ってくる白くて冷たいものね。
一個一個は小さいし、手に置いたらすぐに水になって溶けるのよ。けど、数が数だともう重くて仕方ないって感じになっちゃうわけ。
そのまま放っておいたら、重みで家がペッチャンコになっちゃうじゃない。
だから、時折屋根に上って雪すかしをするの。
でも、このさいに気をつけないといけないことって、足を滑らせることなのよね……。
……もう分かってると思うけど言うわ。
私は、雪すかしの結果、屋根から落ちて地面に落ちて頭を強く打った上にその上に大量の雪が雪崩れの如く落下してそのまま誰にも気づかれずに死にました!
しかもさ、誰かが見つけたならまだ良いわよ? 最悪なことにね、死んだ私に追い討ちをかけるようにして除雪車のダンプカーが道路の雪も纏めて突っ込んだのよ。
分かる? 死者への追い討ちってもんよ! で、それから数日ほどまた吹雪いて、晴れた日に除雪車が溜まった雪を集積場に持っていくって段階でようやく見つけられたの……。
それを神さまと何とも言えない表情で見ていたんだけど、物凄く愛想笑いと言うかどういえば良いのかわからないと言った雰囲気のまま「ど、どんまい……」って言ってきたのよ!
ぜえ、ぜえ……。
お、落ち付けぇ、落ち着け私ぃ……びーくーる、びーくーる。
………………。
…………。
……ふう、落ち着いた。
まあ、そのお陰か次の転生先がグンタイアリの一匹になるところだったのが、別世界でのエルフという選択肢を加えられたのよね。
エルフ……、オタクの夢よね。長寿で美人、そして弓の名手か魔法の名人。
だけどそこで終わるわけには行かないのがオタクでOLの見せ所!
神さまとキチンと、KOUSHOWをしてただのエルフでは絶対にありえないほどの魔力を宿らせることに成功。
でもって、頑張れば頑張るほど成長していくようにもしてもらったわ。
ちなみに神さまは尻の毛一本ももう出ないとでも言うようにシクシク泣いていたけど、気にしない!
そして、私、バンブー=ベルが生まれたわ。
それから私は宿らせた魔力を有効に活用するために、魔法を必死に覚えたの。
一番難しかったのは詠唱ね詠唱。
厨二感丸出しな、『炎よ、鋭い矢となり、敵を討て!』とか『黄昏よりも云々』な感じの詠唱が精神年齢23のOLには厳しかったわ。
だから、もちろん創ったわ。短縮詠唱と無詠唱。
様はイメージよイメージ。
心の中で炎の渦をイメージして解き放つと、激しい炎の渦が出て……死ぬかとも思ったけど、大丈夫だったのよね。
で、短縮詠唱は広めても問題は無いと考えたから……、自重しなかったわ。
ある程度の年齢……100歳ぐらいになってから、200年ほど諸国を漫遊しながら短縮詠唱を広めたら、流行る流行る。
その結果、私は『魔導女王』とか『革命者』なんて二つ名を貰ったの。
後は悠々自適に暮らそうかなー、何て思ってるとさぁ、魔王襲来よ魔王襲来。
『我こそは、魔王モスバラ! 地上の人間たちよ、恐怖の恐れ戦くがよい!!』
何て、バックに大魔王とか居そうな魔王が襲来してきたの。
……言わなくたって分かるでしょ?
勇者と名乗る若輩者が女戦士と女僧侶(ともに美人)を侍らせて、私に手を貸してほしいって言ってきたのよ。
正直面倒臭かったわ。だけど、手伝わなかったらより面倒臭そうな気がしたのよね。
だから手伝ったんだけど……、この勇者とんでもない種馬なのよ。
私は靡かないようにしていたんだけど……、行く町行く街で様々な女性引っ掛けて種を落としていくのよ?
……あ、これ世継ぎ争い怖そう。
正直そう思ったわね。
まあ、私には関係ないか。そう思うことにして、魔物を退治しまくったわ。
で、最終的に魔王モスバラを倒したわ。
勇者? 満身創痍だったわ。
私? ケロッとしていたわ。
魔王への決め手? 勇者の一撃ってことにしておいて。……その前に私が、結界内に魔王を閉じ込めて中で5連発ほど核爆発を起こしたけどね。
で、魔王の裏で手を引いていたのは大魔王だったって話になろうとしてたんだけど、「タ、タンマ! お腹痛いから、100年ほどトイレに篭る!!」なんて言って来たのよね。空中投影で。
恐怖に歪んだ表情で私を見ていたけれど、気にしないわ。
その光景を何とも言えない表情で一同見てたんだけど、大魔王は来ないって分かったからか勇者は城へと凱旋したの。
私?
「何時か来る大魔王の脅威に備えて力を溜めておきます」
「そ、そうか……、気をつけてくれ……。そ、そなたは勇者の仲間であるから何時でも来てくれ」
とか、密偵から聞いた話に顔を蒼ざめさせる王様を見ながら、私は住処に戻ったわ。
あ、とりあえず勇者たちとか汚い欲がある奴は来れないように完璧に結界を敷いておいたの。
時折、純粋な願いを携えて現れる子供とか少女とか居るけど、そのときには手を貸したわね。
で、80年ほど経って勇者が死んで、元々泥沼だった跡目争いが更に酷いことになって殆どの子供たちも殆ど死んだりしたと聞いたから、久しぶりに王都に行ったのよね。
そしたら、思わぬ拾い物。
その拾い物は、王都の魔法学校に足を踏み入れたときに見つけたんだけど、何というか捨てられた子犬感が出ていたわ。
事実、その子は10にも満たないほどの年齢だと思われる子で、ケンカをしていたのかぼろぼろだった。
だけど、それ以上にそれが纏っている気配が凄かったの。だから、案内をしてくれていた校長に訊ねたのよ。
あの子は誰? ってね。すると……。
「ああ、あれですか、あれも勇者がどこぞの街で仕込んだ種が生き延びて、それが産んだ子供との間に生まれた子供らしいですよ」
「……なるほど。けど、勇者の血を引いているなら、凄い力を秘めているんじゃないの?」
「そう思って入学させたのですが……、魔力測定で計るとたったの3ですよ、3! 赤ん坊よりも少ないって何でしょうね!!」
「ふーん、そう……。ところで校長、あの子、私にくれない?」
私のその言葉に校長は驚いた顔をしたけれど、もう入らないし処分に困っていたからか、快く返事を返してくれた。
なので、私はすぐにその子を捕まえると住処へと連れ帰った。
もちろん、小脇に抱えてだから、暴れていたけど気にしない。周囲の反応も気にしないさ。
「な、何だよ、お前はっ!? お、おれをどうするつもりだよ!?」
住処に連れ帰ったその子は怯えつつも、怖くないぞっ! と威嚇するように、私をにらみつけた。
その態度が可愛らしくて、私は笑いそうになったけれど、我慢した。
そして、その子に私は尋ねた。
「キミは強くなりたいかい?」
「あ、当たり前だろっ!! お、おれだって強いはずなんだ! なのに、あいつらみんなおれを馬鹿にして……!」
私の言葉に反応するように、怯えていた表情を悔しそうに歪ませ……拳をギュッと握り締めていた。
……だから、私は優しくそれを口にした。
「だったら、私が強くしてやろう。ただし、私の言うことをキチンと聞くことが大事……だけどな。それでも良いか?」
「…………わかった」
「うん、交渉成立だ。改めて名乗るけど、私はバンブー=ベル。ただのエルフさ。キミは?」
「デック……。デック=ノボー」
で、木偶の坊って……。
まあ良い、名前が木偶の坊だとしても、持っている物は一級品だ。
そう思いながら、私は改めてデックの体を覆いつくすほどの魔力を見る。
光り輝く魔力の光……、覆いつくしているだけでも魔力は一万はあるだろう。
……たぶんだけど、あの国の魔力測定器が測る魔力は何もしていない状態から、魔力を出した状態を計るといった物なのだ。
運が悪いことに、このデックの覆う魔力は常時発動しているのだ。
その結果、始めに計測している状態から魔力を出したということで、残り魔力である3が測定されたのだろう。
1万跳んで3。それが今のデックの魔力量なのだ。
ここからどうやって成長していくのかが楽しみだ。
「よろしく、デック。たぶん、キミは私の言うことを馬鹿みたいに思うときがあるだろう。だけど、私はキミを絶対に強くしてみせる。だから、頑張ろう」
「…………うん」
優しく笑う私を見たデックは驚いた表情をしたが、すぐに顔を赤くしてこくりと頷く。
そんな彼を見ながら、私は彼の育成計画を考えるのだった……。