no.95
沙耶と並んで歩く。
「はぁ~、着物着せてって思わず言ったものの、これって苦しいよねぇ」
「そう? でも綺麗だよ、アリス。なんだかすっごく大人っぽい」
「えっ?」
ちょっとドキッとした。
大人っぽいなんて言われると思い出してしまう。
「さ、沙耶も素敵。苦しくない?」
「私はお花のとき、いつも着るから」
「あっ、そうか」
神社が近づくと沢山の人。
紛れてしまいそうでちょっと怖い。
「こんな沢山の人が来るんだね」
「ほら、掴まってろよ。おまえ、迷子になりそうだから」
なんかちょっと言い方が冷たいような……。
でも私は宮川の腕にしっかりとしがみ付いた。
後ろを振り返ると沙耶と沖野は手を繋いでる。
4人で初詣して、おみくじ引いて、屋台のお汁粉食べて……とっても楽しい。
「アリス、私達、この辺で……」
「えっ? もう帰っちゃうの?」
「悪いね、アリス」
沖野がすまなそうに言った。
「ごめんね、アリス。また電話するから」
「う、うん。それじゃね」
沖野と沙耶は帰っていってしまった。
朝まで一緒にいたかったんだけどなぁ。
「俺達も帰るか?」
「やだ、もっといたい」
結局、屋台なんかを見て回ったりして随分時間が経ってしまった。
でも気になるのは宮川の機嫌。
どうも家を出たときから悪い感じ。
「先輩、なに、怒ってるの? お酒、取っちゃったから?」
「そんなこと怒ってねーよ」
「でも、不機嫌だよ」
それにずっと私の方を見てくれない。
せっかく先輩の為に着物着たのに……。
手の中にあるくじで当てた小さなぬいぐるみ。
見つめていたら、涙が出そうになった。
頭を振って、我慢する。
こんなところで泣いても仕方ない……。
いきなり宮川が手を掴んで歩き出した。
「な、なに、先輩……」
こぼれそうになっていた涙を拭いて、着いていく。
「先輩、痛いよ。どこに行くの?」
神社の駐車場を抜けて、人気のない公園に入った。
まだ暗くて怖い。
「先輩ってば!」
引っ張られていた手に力を込めた。
「私、やだ、帰る!!」
後ろを振りかえる。
今度は後ろから抱きしめられた。
なんなの?
「アリス……」
「先輩、どうしちゃったの?」
さっき怒ってたかと思ったら、今度はいきなり抱きしめて。
なんだかわからないよ。
「アリスがこんな色っぽい格好するから……」
えっ?
「着物なんて着てくるから……まっすぐ見られなくなった。俺、ヘンになりそうで……」
先輩……。
首筋にキスされた。
「このまま帰りたくないんだ。どこか……二人で……入ろ……」
それってホテルとかのこと?
私が返事をしないでいると。
「アリス……ホテル、行こ」
「いやっ!」
「なんでだよ、俺、もう……」
「嫌だよ、ホテルなんて……」
「いいから、来い!」
今度は腕を掴まれて引っ張られた。
なに、そんなに強引になってるの?
嫌だよ、そんなの。
「先輩のバカ! こんなの嫌だよ。離して!!」
無理やり振りほどいたから、かなり痛かった。
ハァハァ……。
「アリス……」
「いや!!」
涙が溢れてきた。
「わりぃ、俺、やっぱりヘンだよ。ごめん……」
暗くて宮川の表情は見えないけれど、声が震えてる。
「私……着物、自分で着れないの……着れないもん! 帰れなくなっちゃう……」
そう、ホテルが嫌なんじゃなくて、着物だから……。
「ごめん、そうだよな。俺、ごめん」
「うん……」
「そこに座ろう。落ち着いてから帰ったほうがいいだろう……」
涙がまだ止まらなかった。
ベンチに腰掛けた。
宮川は自分の来ていたコートを脱いで私の膝の上にかけてくれた。
「先輩、大丈夫だよ。先輩、風邪引いちゃうから着てて」
「いや、いい」
しばらく黙ってふたり座っていた。
遠くで初詣の人達の声が聞こえる。
元旦にこういうのってちょっと寂しいかも。
1年のスタートなのに……。
落ち着いてきた涙がまた込み上げて落ちる。
やだ、先輩のコートに落ちちゃった。
慌てて拭く。
「アリス……ごめん。もう泣かなくていいから。アリス……」
「うん……」
またしばらく二人なにも話さないまま、時間が流れた。
東の空が明るくなりだした。
いつの間にか公園の街灯が消えている。
「帰ろう。風邪引いちまう……」
「うん、これ、はい」
コートを返す。
肩に掛けてくれようとしたけれど、それを止めた。
「私、着物だから寒くないよ。先輩、風邪引いちゃ嫌だから、お願いだから着て」
「ああ、わかったよ」
二人は何も話さず、家に着いてしまった。
「俺、部屋でちょっと頭冷やしてくるから」
宮川はまっすぐ部屋に行ってしまった。




