no.93
「それ以上のこと教えてやったろ」
「えっ?」
それ以上のことって沙耶が言ってたそれ以上のこと?
「あれ、まだ気がつかないの?」
なんだろ、えっとえっと……。
必死で考える。
いつ教えてもらったんだろう。
「本当にニブいな、おまえは」
「えっ、あの、いつ……」
「今夜も教えてやるから……」
へっ?
ベッドに寝かされて……宮川は部屋の電気を消すとベッドのライトを着ける。
「あの、なんなの、ちゃんと教えて。私、わからなかったの?」
「……いや、ちゃんとわかってる……」
余計わからなくなった。
キスされる。
ちょっと、ちゃんと教えて!
「今、感じた?」
「えっ?」
ネグリジェのボタンを外されてキスの嵐。
体が熱くなって気がヘンになりそう……。
「……感じるだろ……」
耳元で囁かれる。
そういうこと答えるの恥ずかしいよ。
「おまえが今感じてること。それがそうだよ」
えっ?
宮川はそう言ってパジャマを脱いで抱きしめてきた。
「頭でわかってたって、それはただ知識としてわかっただけだろ……」
「ん……」
「人間だけ……なんだよ。……こうして感じられる……のは」
「う……」
「愛し合って……本当に……しる……こと……」
もう宮川の言葉は耳に入ってこなかった。
「……基樹……」
******
布団の中で食べる朝食ってとってもおいしい。
「今日のはどう?」
「うん、すっごくおいしーです!」
「俺はおまえが一番おいしい」
いきなり肩にキスされた。
きゃっ。
はははっ。
「もぅ、ふざけないでよ」
幸せな朝。
ずっとこうしていたい気分になるね。
「ただいま~っ、アリスちゃ~ん」
突然ママの声がした。
慌てて布団の中に隠れる。
ま、まずい……。
まだなにも着てない……。
「ヤベッ。帰ってくんの、昼頃って言ったよな」
宮川は布団に乗ったままのお盆を机の上に移しながら小声で言った。
「う、うん」
私は布団に隠れたまま、答えた。
「アリスちゃ~ん、まだ寝てるのぉ。お土産、買ってきたのよぉ。起きてぇ」
うわぁ~、私の部屋の前で叫んでる。
「ママ!」
パパの声までしてきた。
本当にまずいよ。
どうしよう……。
「ママ、お土産は後でいいよ。お茶にしよう」
「えっ、でも……」
「気をきかせなさい。ほらっ、下行くぞ」
顔が熱くなる。
パパ、なに言ってんのよ。
「えっ、え~~~~~」
ママの叫び声。
もうドキドキ。
「ママ! 早く来なさい」
「は、はい!」
パタパタと降りていく足音が消えるとし~ん。
ドサッと宮川がベッドに腰掛けた。
私はそ~っと顔を出す。
「行った?」
「みたい……」
ふぅー。
びっくりしたぁ。
宮川は大きな手を口に当てて言った。
「バレたかな……」
「えっ?」
そ、そうだよね。
パパってばあんなこと言ってたし。
体の中でざわざわとして……。
「アリス、おまえそ~っと部屋に戻って着替えろ。俺、ちょっと下に行ってくる」
「え、でも……」
「これ、用意したから台所、そのままなんだ」
あちゃ~っ。
宮川はお盆を持って出ていった。
私は静かにドアを開けて部屋に戻る。
ドキドキだよぉ~~~っ。
急いで服を着た。
でも、バレてるって状況は困ったなぁ。
なんでこんなに早く帰ってくるのよ!
コンコン。
ひぃえ~~~~~っ。
「アリス、出かけるぞ」
宮川の声だった。
慌ててコートとマフラーを手にして部屋を出る。
「少し散歩してくるって言ってきたから」
「う、うん」
ふたりで外に出た。
今日はちょっと空気が冷たい。
火照った頬に冷たい空気がひんやりした。
「ママたち、どうしてた?」
「なにも言われなかったよ。バレてるみたいだったけど……」
やっぱり……。
「すぐ顔見せるのやだろっ」
だから連れ出してくれたんだ。
「ありがとう、先輩」
「いや、俺もやっぱちょっと気まずいしよっ」
そう言って前髪を掻きあげた。
「ママたちってばお昼頃帰ってくるって言ったんだよ」
「ああ、なんかゆっくりしてくるはずだったんだけど、気になって早く帰ってきたって言ってた」
気になってって……。
「おまえが考えてるよーなことじゃないだろ。料理は俺がしたのかって聞かれたし。おまえ、大切にされてるってことだよ」
そっか……。
なんだかちょっと後ろめたい気がする。
不思議な気分。
「寒くないか。そこでコーヒーでも飲んで行くか」
「うん」
近くの喫茶店に入ってコーヒーを飲む。
「あ~あ、でもこれでまたしばらくお預けなんだよなぁ。俺、欲求不満になりそう……」
「ば、ば、……バカなこと言わないでよ」
「正直な気持ちだけどっ」
「先輩のエッチ!」




