no.92
私は自分の部屋から本を1冊持ってきた。
……でも隣で読むの恥ずかしいかな。
全然ジャンル違うよね。
「おまえ、それ、なに?」
ふぇ、見ないで。
慌てて隠す。
「見せろ!」
すぐに取られてしまった。
宮川は手にした本をまじまじと見る。
真っ白なドレスを着た少女が描かれた表紙。
「……シンデレラ……かよ……」
「……一番……好き……なの……」
「ヘンな奴」
「わかってる。でも汚いバカなシンデレラって言われて傷ついた私が、それでもこれは大好きなの」
隣でペラペラっとページをめくって見ている宮川。
挿絵もあってとてもきれいな本なのだ。
「ほら。おまえらしいよ。そーいやー、おまえの本棚の下のほうって、こんなような本ばっかが並んでたな。小さい時のをとってあるのかと思ってたけど、今も読むんだ」
「うん。童話とかって好きなの」
「安心して読めるって?」
「そうかも……」
「寒くないか?」
えっ?
忘れてた。
すけすけのネグリジェだったこと。
「だ、大丈夫。部屋、あったかいし。あっ、私これ、読むから、先輩、続き読んでね」
「ああ」
宮川は本を手にしてまた読み始めた。
本に視線を落とした横顔、すっごくいい。
じーっと見つめていると。
「な、なに?」
「えっ、な、なんでもない」
慌てて私は自分の本を開いた。
び、びっくりした……。
気持ちを落ち着けて本を読み始める。
何度も何度も繰り返して読んだ本。
……かいそうなシンデレラ。
継母にいじめられて、皆ドレスの用意したり楽しそうなのに、ひとり汚い洋服着て、掃除させられて……なんでお父さんは気がついてくれないのかな。
こんな風にされてるのに。
ぐじっ……。
「おまえ、泣いてんの?」
えっ?
宮川に声を掛けられて本から顔をあげた。
「なに、泣いてんだよ。ったく」
そう言って頭を引き寄せた。
やだ、涙、余計に出ちゃう。
「本の中の話だろ」
「だってだって……かわいそう……」
私ってば何言ってるんだろう。
「だけどシンデレラって最後には王子様と結婚するってやつだったんじゃない?」
「そうだよ。魔法使いのおばあさんがね、かぼちゃの馬車とドレスを出してくれて、王子様のパーティーに行けるの。そしてね、王子様に見初められるの」
「よかったじゃないか」
「うん。でも魔法は12時までで消えちゃうの」
「魔法だからな」
「でもね、王子様は残されてた靴でシンデレラを探し出してくれるの。それで汚い服で掃除とかさせられてたシンデレラと結婚するんだよ」
「魔法は魔法だから消えるけど、シンデレラってやつは消えない。シンデレラはシンデレラ。どんな服を着てたってな。だろ?」
「うん……そうだよね」
「ははっ、おまえってほんとかわいいやつ」
あまり真剣になってしまった自分が恥ずかしい。
「こういうので感情出せるのっていいよ。ほんと、おまえっていい」
「なんかバカにされてるみたい」
「そんなことない。いーんじゃねーの。俺、そういうの好きだよ。大抵の奴がなくしてく感情だよ。俺にももうないかもしれない。でもおまえは持ってる。大切にしろよ、そーゆーの」
「う、うん」
宮川は立ってCDを消した。
「アリス……もう寝ようぜ」
「えっ、あの……私、もう少し……」
本を前に座っていた私の肩に手が置かれた。
「もう少し……読んで……」
「ダメ……」
後ろから抱きしめられる。
「で、でも、これからいいところで……」
「俺達もこれからいいところ」
なに、言ってるの……。




