表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ありす☆らぶ  作者: 湖森姫綺
9/156

no.9

 ******



 パンパーン!!


『第四十八回 聖桜高校 体育祭』

 校長のあくびが出そうな話が終わって、生徒代表の宣誓が終わり、体育祭は始まった。


「俺達も仕事がんばろうぜ。今回成功すれば、これからだっていろんな企画が通る。楽しく過ごさなくっちゃな。せっかくの高校生活!」

「うん!」


 競技が始まるともう私は大忙し。

 終わった順にペアがどんどん押し寄せる。

 獲得点数を手元の表に書きこんでいく。

 息つく暇もない。


 でもペアで息を切らせてやってくる人達の顔を見ていて、なんだか幸せになれた。

 みんな輝いてる。

 付き合ってるペアばかりじゃないけれど、競技を一緒にやってるってことでなんだか充実してるみたい。


「お疲れ様。獲得点数を教えてください」


 点数の書きこまれた紙を差し出す手が震えてる。

 私は顔をあげて差し出された手の主を見た。

 涙を一杯にして頬を高潮させて……。


「一位だったの。一位……」


 涙がぽろっと流れて落ちた。

 その表情に釘付けになってしまった。


「バカだなぁ。泣くことないだろ。3年C組の佐々木・野村組です。点数よろしくお願いします」

 男子のほうが照れて言う。


「あっ、は、はい。点数……」

 私は慌てて、彼女から視線を得点表に移した。


「ありがとう。素敵な体育祭。最高の思い出になるわ」


 ペンを持った手が震えた。

 もう一度見上げると彼女は涙を拭いて、きらきらした瞳をまっすぐ隣にいる彼に向けていた。


 二人が去っていった後、点数を書きこんで涙が溢れた。


「よっ、どした?」

 肩に手が置かれた。


 宮川の声が風が吹くように頭上を抜けていく。

 今更涙を拭いてもバレバレだし、なんで不意打ちにこう出てくるのかな。


「どした?」

 私は頭を振った。


 だって説明不可能だよ。

 こんな気持ち。

 あんな風にありがとうって言われて、どうしていいのかわからなかった。


「なにか、言われたのか?」

 私は言葉にならなくて、ただ頭を振るだけだった。


「気にすんなよ。この体育祭の企画は俺が勝手に言い出したことだからな」

 

 そうじゃない。

 みんな嬉しいんだよ。

 楽しんでるんだよ。

 でも涙がどんどん出てきて言葉が出ない。


「ほれっ、涙拭けよ」

 ぐいっと顎を上げられて、タオルで私の顔を乱暴にごしごし拭く宮川。


 ばか、余計涙とまんなくなっちゃうじゃないよ。

 うっ、うっく……。


「気にすんなって」

「ち、違うの。みんな楽しいんだよ。幸せなんだよ。よかったよぉ~」


 私は宮川のタオルで顔が隠れてるから、こんなことが言えたんだと思えた。

 見られていたらきっと恥ずかしくて、こんなこと言えやしなかった。


「そっか、よかったな。それやるから、ちゃんと涙拭けよ」

 顔から離れたタオルは、目の前に差し出されたままだった。


 思わず恥ずかしくて、そのタオルで顔を隠した。

 ポンと大きな手が頭の上に置かれた。


「よかったな」

 静かで穏やかな声。

 こんな風に誰かの声を感じたことはなかった。


「そんじゃ、俺、次の用意あるから」

「あっ、タオルっ!」


「いい、やるよ」

「でも私自分のありますから」

「そんじゃ、そっち俺もらう」


 うわっ!


 すっと近づいた宮川の顔にびっくりして、椅子ごと倒れそうになる。

 それを咄嗟に支えてくれた宮川の顔が私の真横になった。

 髪が頬に触れる。

 ちょっと汗ばんでいるみたい。


「今のおまえ、かわいいよ。じゃ、がんばれよ」

 

 耳元で囁かれた。

 宮川はテーブルの上にあった私のタオルを取ると、走り出していった。


 カーッ!!


 体中の血が逆流してる。

 むちゃくちゃ熱い。

 めまいがする。

 

 や、やだ。

 こんなヘンな私。

 泣き顔も見られちゃったし。

 気持ちがぐちゃぐちゃで何がなんだか……。


「すみませ~ん、点数お願いします!」

「あっ、はい」


 訳のわからない感情はとりあえず置いといて、仕事をしなくちゃならなくなった。

 お昼の時間まで、もうまったく暇がないくらいに忙しかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ