no.9
******
パンパーン!!
『第四十八回 聖桜高校 体育祭』
校長のあくびが出そうな話が終わって、生徒代表の宣誓が終わり、体育祭は始まった。
「俺達も仕事がんばろうぜ。今回成功すれば、これからだっていろんな企画が通る。楽しく過ごさなくっちゃな。せっかくの高校生活!」
「うん!」
競技が始まるともう私は大忙し。
終わった順にペアがどんどん押し寄せる。
獲得点数を手元の表に書きこんでいく。
息つく暇もない。
でもペアで息を切らせてやってくる人達の顔を見ていて、なんだか幸せになれた。
みんな輝いてる。
付き合ってるペアばかりじゃないけれど、競技を一緒にやってるってことでなんだか充実してるみたい。
「お疲れ様。獲得点数を教えてください」
点数の書きこまれた紙を差し出す手が震えてる。
私は顔をあげて差し出された手の主を見た。
涙を一杯にして頬を高潮させて……。
「一位だったの。一位……」
涙がぽろっと流れて落ちた。
その表情に釘付けになってしまった。
「バカだなぁ。泣くことないだろ。3年C組の佐々木・野村組です。点数よろしくお願いします」
男子のほうが照れて言う。
「あっ、は、はい。点数……」
私は慌てて、彼女から視線を得点表に移した。
「ありがとう。素敵な体育祭。最高の思い出になるわ」
ペンを持った手が震えた。
もう一度見上げると彼女は涙を拭いて、きらきらした瞳をまっすぐ隣にいる彼に向けていた。
二人が去っていった後、点数を書きこんで涙が溢れた。
「よっ、どした?」
肩に手が置かれた。
宮川の声が風が吹くように頭上を抜けていく。
今更涙を拭いてもバレバレだし、なんで不意打ちにこう出てくるのかな。
「どした?」
私は頭を振った。
だって説明不可能だよ。
こんな気持ち。
あんな風にありがとうって言われて、どうしていいのかわからなかった。
「なにか、言われたのか?」
私は言葉にならなくて、ただ頭を振るだけだった。
「気にすんなよ。この体育祭の企画は俺が勝手に言い出したことだからな」
そうじゃない。
みんな嬉しいんだよ。
楽しんでるんだよ。
でも涙がどんどん出てきて言葉が出ない。
「ほれっ、涙拭けよ」
ぐいっと顎を上げられて、タオルで私の顔を乱暴にごしごし拭く宮川。
ばか、余計涙とまんなくなっちゃうじゃないよ。
うっ、うっく……。
「気にすんなって」
「ち、違うの。みんな楽しいんだよ。幸せなんだよ。よかったよぉ~」
私は宮川のタオルで顔が隠れてるから、こんなことが言えたんだと思えた。
見られていたらきっと恥ずかしくて、こんなこと言えやしなかった。
「そっか、よかったな。それやるから、ちゃんと涙拭けよ」
顔から離れたタオルは、目の前に差し出されたままだった。
思わず恥ずかしくて、そのタオルで顔を隠した。
ポンと大きな手が頭の上に置かれた。
「よかったな」
静かで穏やかな声。
こんな風に誰かの声を感じたことはなかった。
「そんじゃ、俺、次の用意あるから」
「あっ、タオルっ!」
「いい、やるよ」
「でも私自分のありますから」
「そんじゃ、そっち俺もらう」
うわっ!
すっと近づいた宮川の顔にびっくりして、椅子ごと倒れそうになる。
それを咄嗟に支えてくれた宮川の顔が私の真横になった。
髪が頬に触れる。
ちょっと汗ばんでいるみたい。
「今のおまえ、かわいいよ。じゃ、がんばれよ」
耳元で囁かれた。
宮川はテーブルの上にあった私のタオルを取ると、走り出していった。
カーッ!!
体中の血が逆流してる。
むちゃくちゃ熱い。
めまいがする。
や、やだ。
こんなヘンな私。
泣き顔も見られちゃったし。
気持ちがぐちゃぐちゃで何がなんだか……。
「すみませ~ん、点数お願いします!」
「あっ、はい」
訳のわからない感情はとりあえず置いといて、仕事をしなくちゃならなくなった。
お昼の時間まで、もうまったく暇がないくらいに忙しかった。