no.89
「よし、それじゃ」
そう言っていきなり掛け布団ごと抱きしめられた。
「きゃ~~~っ。コーヒーこぼれちゃうよ」
「あっ、わりぃ」
「それ、よこせ」
そう言って私の手からマグカップを取って、机の上に置くと掛け布団に包まれた。
「なに?」
「ちょっとがまんしろ」
持ち上げられて下になっていたタオルケットを引っ張る。
「ほいっと」
くるくるっとタオルケットを丸めた。
「これ、洗ってくるから、おまえはそのまま、な」
「えっ、ちょっとそれ……やだよ、自分で洗う!」
「いいの。俺はこういうこともやりたいの。ほれ、おまえはこれ飲んでろ。くれぐれもそのまま、だからな」
そのままってとこを強調して出ていってしまった。
恥ずかしいじゃないよ、そんなの。
でも正直、体を動かすのはちょっとまだ辛いかな……。
******
コーヒーを飲み終えて、思いっきり手を伸ばしてマグカップを机の端に置いた。
ふぅー。
とうとう大人になっちゃったりしたんだよねぇ。
気がつくと手が首筋をなぞってる。
や、やだなぁ、私って。
本当はものすごいエッチだったりして……。
自分でやってて、顔から火が出そう。
でもこんな風にみんな大人になっていくんだよね。
「うっ……な、なんか、やっぱりこのままって寒いかも……」
布団に入っていても何も着ていないとなんとなく寒い気がした。
周りをきょろきょろ。
えっ?
昨日着ていたネグリジェが綺麗にたたまれて、向こうの壁際にあるチェストの上にあった。
な、なんであんな遠くにあるの。
しかもしっかりパンティも乗ってたりする。
「洗濯終了!」
宮川が戻ってきた。
布団にもぐりこんでいた私を覗く。
「おいっ、どした?」
「うん、ちょっと寒いかなって……」
「俺があっためてやろーか?」
「きゃ~~~っ、もうやめて……」
「バカ……あっ、これ着る?」
ネグリジェを差し出して言った。
首を振る。
だってこんなに明るいのにそれは着れないよ。
「んじゃ、これ貸してやる。着てろ」
そう言って宮川は、自分が着ていたトレーナーを脱いで私の頭にスポッと被せた。
「えっ、でも……」
「着てたやつのほうがあったかいだろ。俺はこっちの着るからいい」
そう言ってチェストから別のトレーナーを出して着た。
「早く着ろよ。あったかいうちに……」
「う、うん」
袖を通す。
本当にあったかい……。
そして先輩の香りがするよ。
でもすっごく大きい。
指の先も出ない。
「ぶかぶか……」
「ホントだ。おまえちーさいからなー」
ドキッ。
なんか小さいって言葉にひどく反応しちゃう。
思わず胸隠してたりして……。
「クラスで一番ちいさいの、おまえだろ」
「違うもん!」
「じゃ、何番目?」
「2、2番目……」
「あはははっ、1番も2番も大してかわんねーよ」
「先輩が大きいんだよ」
「俺、187だぜ。おまえ、いくつ?」
「……150……」
「ちーせー」
ぷん。
どうせ小さいですよ。
「でも俺はそんなおまえがいい。抱き上げても軽いしよ。座って抱いてたって全然平気だし。大きかったら重てーだろ」
そ~か~。
椅子に座ってて抱っこされてるのって、結構気持ちよかったりするんだよね。
ボッ。
きゅるるる~。
へっ?
「おまえって、なんでこんなにちーせーのに食うの?」
「お、お腹が勝手に空いちゃうんだから、し、仕方ない、でしょ」
恥ずかしい。
お腹が鳴る音なんて……。
「待ってろ、今、なんか作ってきてやるよ」
ふぇ~ん、恥ずかしいよぉ。
お腹のバカ!
しばらくして宮川は、パンにサラダを挟んで持ってきてくれた。
「ほら、空腹なお姫様へのご馳走だぞ」
布団の上にお盆ごと乗せて、宮川は横に座った。
「食えよ、うまいぞ。俺が作ったんだからな」
そう言ってひとつぱくりと口にした。
私も取って食べる。
「うん、おいしいっ」
「だろ?」
こんなになんでもやってもらって、本当に甘えてばかり。
「ありがとう。先輩」
「いーの。俺はやりたいからやってる。甘えてたいんだろ。俺はおまえのそういうとこ、好きだからそれでいいんだよ」
「うん、うん……」
涙出てきちゃうよ。
「こら、なに、泣いてんだよ」
「……幸せだから……」
「ブァーカ。ほれ、マヨネーズついてる」
宮川は私の口の端を指で拭くと、その指をぺろり。
「うめっ」
本当に幸せだよ。
先輩が素敵だから……。




