no.82
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シャーッ。
宮川が窓のカーテンを開ける。
窓の向こうに芝生の広場がぼんやり浮かんでいる。
もう薄暗くなって、誰もいないけれど、優しい街灯がポツンポツンとところどころ緑の色を濃く見せていた。
「きれいだね……」
「そうだな」
窓の向こうを見ていたつもりだったけれど、ガラスに映る宮川に目がいっていた。
スーツを着ているせいか、いつもよりずっと大人に見える。
「アリス……」
「ん?」
「おまえ、本当に綺麗になったよな」
「えっ、や、やだぁ、先輩……」
なに、急に言い出すの……。
「始めて会った時さ、しっかり髪結んでさ、めがねかけて……おかしかったよな」
「そんなこと思い出さないで!」
「選挙のとき、こいつすっげーなって思ってた。演説だってしっかりしてたしよ。噂通り本当になんでもできちまいそーだなって。かっわいくねーって思ったよ」
「あの頃の私はそうだったもん」
「でもさ、始めて行った生徒会室の前でおまえ、ため息ついたろ」
「えっ、知ってたの?」
「見てたんだ。おまえが来て、ドアの前でなかなか入らなくて、なにやってんだって思ってさ」
やだな、見てたんだ。
「何度もため息ついちゃ気合入れなおしてさ。平気な顔してなんでもこなすなんて嘘じゃねーかって。ばっかじゃねーのって思った」
「やだっ、もう!」
「ずっとそうやって学校でパーフェクト演じてんのかってわかっちまって、からかってみたくなった」
う゛~~~~~っ。
「よ~く見てるとわかるんだ。あっ、こいつ今嫌だなって思ったなとか、呆れてるぜって」
「私を見てて、楽しんでたんだ」
「そう」
もぅもぅ、知らない!
「だけどさ、反応がかわいくて、隠さないで素直に表に出せばいいのにってさ。いつのまにか俺がそうさせてやるって思うようになって……」
前髪を掻きあげた。
「沙耶もね、同じようなこと言った。ガードしてないで元のアリスに戻りなよって」
「あいつもけっこーするどいからなー」
「兄妹だよね」
「そうだな」
「私を変えたのは先輩と沙耶だよ。ずっと怖かったんだ。自分の気持ちとか押し込めとけば傷つかないですむって思ってた」
「……汚いバカなシンデレラ……」
「やだ、知ってだの」
「沙耶から聞いた」
「もぅ、沙耶ってばなんでも話しちゃうんだから」
「はははっ。でもさ、感情を無視して自分を守ってるみたいだったけど、こいつ人よりずっと感情の起伏が激しいよなって思ってさ。それ、隠してんの、すっげーパワー使ってんだろうなって。もったいねーって思った」
「私を一番最初にはめたのは先輩だったんだ」
「なんだよ、はめたって。人聞き悪りぃ、言い方」
「怖かったんだからね。どんどん自分の感情押さえられなくなって、怖くて……」
「危なっかしいもんな、少しも目が離せなくってよ。なんでもねーようなことですぐ泣くし。……でもかわいくなったぜ。ホント」
また前髪を掻きあげた。
先輩……。
「今のアリスが一番いい。ずっとそのままでいろよ……」
ずっとこのままでいる。
だからずっと側にいて。
ずっと守ってて……。
涙が込み上げてきた。
「おっ、もうこんな時間。山内の奴、なにしてんだ」
「えっ」
「もうみんな集まってんじゃねーか。行ってみるか?」
宮川がそう言ったところに山内が飛び込んできた。
「ごめん。そろそろ時間なんだけどね、もう少し待ってくれる。はぁー。準備できたら高田君が来るから」
「なんの準備なんだろーねぇ」
宮川はにやりとして言った。
「えっ、きゃははっ、なんでもない。それより二人っきりでな~にしてたのかなぁ」
「なんにもしてねーよ、ブァーカ」
「へぇ、こんなにきれいなアリス目の前にして宮川君、手も出さなかったのぉ」
「うるせー」
またぁ、そういう話になる……。
「アリス、宮川君、かっこいいねー。惚れ直したでしょ」
「山内先輩ってそんなことばっかぁ」
「ふふふっ、だってホントお似合いのカップルなんだもんね。ずっと俊平とラブラブの私も羨ましいくらい」
「おーおーっ、羨んでくれっ」
「先輩!」
すぐ調子に乗るんだから……。
時計を見ると6時を過ぎていた。
「おーい、こっちそろそろだから」
高田が顔を出した。
「はぁ~い。じゃ、行きましょうか」
高田と山内の後を着いていく。
「ね、先輩、なんだろう。ね?」
「さぁな、こいつらなに考えてんだか。心配するな、俺がついててやるから」
「うん」
大広間に入るドアの前で並ばされた。
「ほら、腕組んで」
えっ?
腕まで組んでなんなの……。
ドキドキがだんだん大きくなって……。
中で大里の声が聞こえてる。
でもはっきりしなくて何を言っているのかわからない。
すーっと中からドアが開いた。
「どうぞ」
川上が中から顔を出し、そう言った。
バーンと目の前に広がった光景を見てびっくり。
な、なんなの、これ!




