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ありす☆らぶ  作者: 湖森姫綺
7/156

no.7

「すみません。ママ、強引で」

「いや、いいんだけど。悪かったな」


「いいえ」

「おいっ!」


 ビクンッ!


 その、大声いきなり出すのやめて欲しい。

 心臓に悪い。


「な、なんですか?」

「返事はハイはうん。イイエはううんだ。俺の前ではそうしろ」


 ふぇ~ん。

 だからなんでよぉ~。

 沙耶、助けてぇ。


 こんなのはじめてだ。

 こんなうろたえなくちゃならない相手なんて、はじめてだぁ。


「わかったか?」

「はいっ」

 に、睨まれた……。


「おまえ、ほんとはバカだな。今言ったこと忘れてる。返事はうん!!」

「う、うん」

「よし」


 なんなんだぁ~!

 さっき優しいって思ったのは訂正、訂正!!


「続き行くぞ!」

「う、うん」


 ぎこちない返事で続きが始まった。

 私が改めてペアになっていない女子の名前と、書きこまれた名前を読み上げる。


 この子達、みんな片思いなんだ。

 なんだかやっぱり切ない。


 片思いの子たちの組み合わせが出来上がった頃、ママが夕食ができたと嬉しそうに言いに来た。

 三人での食事。

 なんだか緊張する。


 宮川は結構おしゃべりだ。

 ママはもちろんいろんなことを聞いてくる。

 それに結構面白く答える宮川。

 ふたりは和気藹々と食事をしている。


 私はなんだか疎外感。

 でもいつもあまり話さないし、同じかな。


「ところでアリスちゃん、髪どうしたの?」

「あっ、これ、俺がこのほうがいいって言ったんですよ」


「やだぁ、いつも私が言ったって聞かないのに。もしかしてメガネも?」

「はい。メガネは必要なときだけ掛ければいいですよね」


「そうそう。普段から掛けるほど悪くないんだから」

「でも宮川君はすごいわね。この強情なアリスちゃんを簡単に動かすんだから」

「えっ、そうなんですか?」


 あはははっ。

 勝手に盛り上がっててよ。

 私は席を立った。


「あら、アリスちゃん、もういいの?」

「ごちそうさま。私、先に続きやってますね、先輩」


「あっ、じゃ俺も」

「あら、おかわりはもういいの?」


「もう腹いっぱいですよ。お母さんの料理、うまいから遠慮なくいただいちゃって。ごちそうさまでした」

「まぁまぁ、嬉しいわ。じゃ、続きがんばってね」


 私は部屋に入って、とりあえず散乱しているアンケート用紙をまとめて封筒に入れた。


「あ~、うまかった。くるしっ」

「お世辞なんて言わなくて、いいんですよ」


「お世辞じゃねーよ。俺、いつもコンビニ弁当ですませてっから、こういうの久々なんだ」

 ……そうだった。

 宮川は一人暮しなんだ。


「いいな、おまえ。毎日こういう飯食えてよ。もっと大事にしろよ」

「うん……」

「やけに素直だな」


ドキンッ。


「そ、そんなこと……」

 ないと言えない。


 思わず頷いちゃったもんな。

 視線を泳がせてごまかした。


 残りの仕事が終わったのは10時近かった。

「やっほーっ、やっと終わったぞ。お疲れさん!」


 宮川はバタリと後ろに寝転がって伸びをした。

 私はできあがったペアを書いた用紙をまとめる。


「悪かったな。勝手に俺とおまえは出場しないって決めちまってよ。おまえ、ペア組みたい奴いたんじゃねーのか」


 えっ?


 私は持った名簿を落としてしまった。

 宮川のほうにひらりと一枚。

 それをこちらに差し出しながら、まっすぐ見つめる宮川。


「わ、わた、し……」

「いたのか?」

 思いっきり首を振った。


「そっか。よかった。それじゃっと」

 そう言いながら起きあがって、ペア表の最後に自分の名前と私の名前を書きこんだ。


「俺とおまえがペアってことで。競技参加はしないけどな」

 そんなこと書かないでって思うのに、ほんわかするのはなんでだろう。


「じゃ、これは明日おまえ持ってきてくれるか?」

「はい……じゃなくて、……うん」


 睨まれて言いなおす。

 なんだかヘンだけど、自分でやっていて、おかしさがこみ上げた。


「そんじゃ、これは俺が処分しとくからさ」

 アンケートの入った封筒を持って宮川は立ちあがった。


「おっ、おわっ!」

 持った封筒からバサバサッと中身が床に零れ落ちた。

「おっとー、逆さまだったか。わりぃ」


 二人で散乱したアンケートを集めた。

 近づいた宮川の顔にドキッとした私は、固まってしまった。


「アリス、明日からその髪で来いよな。メガネも授業だけにしろ。いいな」

 まっすぐ見つめられて、固まったまま動けない。


「返事は?」

「は、……う、うん」

「おまえっておもしろい奴。早くなれろよ、返事の仕方」


 宮川は散々ママにまた来るようにと言われて、帰っていった。


 部屋に戻った私は脱力。

 こんな疲れた日は今までにない。

 宮川にかかわるようになって、完全に振り回される毎日。


 ベッドに倒れこんでテーブルの上のペア表が目に入った。

 一番下に書きこまれた二人の名前。

 

 なんでこんなことするの?

 私に気を遣うことないのに。

 私がこういうことに興味を持たないって知ってるはずなのに。


 コンコン。


「ママよ、入るわね」

「なに?」

「ねぇ、宮川君、本当にいい子ね。ちょっと来て、こっちに座って」


 ママは鏡台の椅子を引っ張り出すと言った。

 だるい体を持ち上げて椅子に座る。


「せっかく宮川君が言ってくれたんだからね。かわいくならなくちゃ。あなたの髪、ウェーブがあるから、このままじゃ邪魔になるでしょ。両サイドだけ結びましょ。随分、伸びたわねぇ。もう少しで腰、かなぁ」


 ママは私の髪をときながら幸せそうだった。

「明日の朝、またやってあげるわ。お風呂入っちゃいなさい」


「うん」

「まぁ!」

 驚いたママに私のほうが驚いて顔を上げた。


「なに?」

「なんでもないのよ」


 やさしい笑顔で鏡の中の私を見つめるママ。

 ヘンなの。

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