no.69
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それから数日が過ぎた。
池上は相変わらずで、なんだかんだと話しかけてくる。
少し鬱陶しく感じてきていた。
沙耶達がガードしてくれているけれど、それでも限界はあるわけで。
男子たちもまずいよと忠告しつつ、それでもあっけらかんと「アリスが好きだから」と言い放つ池上に強く出られないでいるようだった。
「池上もかわいそうだよな。アリスを好きになったってどうしようもないのに」
「そうだなぁ」
なんて哀れむ声まで出てきていた。
同情はするけど、私はやっぱり先輩が好きで他の誰かを見るなんてことはできないんだ。
私はなんだか胸が苦しくなるのを感じた。
なんで私なんかを好きになるんだろう。
授業が終わって、急いでカバンを掴むと教室を飛び出した。
「アリス!」
背中で沙耶の声が聞こえた。
ごめんね、沙耶。
早くここから消えたい。
でも3階に上がる階段で後ろから腕をいきなり掴まれた。
「おいっ、待てよ」
池上の声。
「逃げることないだろ」
「逃げてなんてない。クリスマスダンパに向けて生徒会は忙しいんだから」
ほんとうはそんなことはない。
場所が決まってあとはみんなに出すカードを作るだけ。
まだまだ一月近くあるからゆっくりやっていても間に合うのだった。
「話があるんだ」
「話なんて私ない」
「俺があるって言ってるんだよ」
「でも私は忙しいの」
「これで……これでおまえ達の仲を邪魔するのは最後だから。一緒に来てくれよ」
真剣な目だった。
怖い気もした。
けれどこれが最後ってことはこれで諦めてくれるってことだと思えた。
直接、告白されたわけでもないし、今日告白されて、それで私がちゃんと断れば終わりになるんだよね。
池上君も早く私なんか見てないで、ふさわしい彼女見つけて欲しいもんね。
「来てくれるよね。公園で話したいんだ」
「うん」
二人は公園に向かった。
冬が近づいて、今日は特に冷たい風が吹いている。
いつも聞こえる小さな子供達の声もなく公園はひっそりとしていた。
なんだか、ちょっとまずいところに来ちゃったかなと後悔したけれど、それは遅かった。
「アリス、好きなんだよ。最初、会ったときから」
いきなり振り向いて抱きつかれた。
不意を衝かれた格好で身動きが取れない。
ど、どうしよう。
怖い……。
「おまえが会長を好きだってわかってる。でも俺の気持ちも変わらないんだ。少しでもいいから俺のことも見てくれよ。そして少しずつわかってくれよ」
「は、はな、して……」
怖いよ……、先輩……。
「アリス、ねぇ、アリス!」
……!!
くちびるにいきなりなにかが触れて……。
池上の顔が目の前にあった。
キス、されてる。
は、はな、して、よ……。
い、いやぁ~~~~~っ。
「俺、アリスのこと好きだし、あいつよりずっと側にいてやる。あいつと別れて俺と付き合ってくれよ。そしたらあいつとの仲を邪魔してることにならないだろ。だから」
訳のわからないこと、言わないでよ。
「ゃ、や……っ。や、せん、ぱい……たす、けて……」
全然抱きしめられた腕が振りほどけなくて体がガクガク震えていた。
「アリス!」
「いやぁ~~~」
思いきり突き出した両手は池上の胸を突いた。
その勢いで腕が離れて、私の体は放り出される形になって地面に叩きつけられた。
思いきりぶつかったのは後ろにあった水道の角。
額に激しい痛みがあったのだけはわかった。
「アリス、アリス! 大丈夫か、アリス!!」
体を揺すられて遠のいていきそうだった意識がはっきりした。
目の前には池上がいた。
いや……いやだ……。
慌てて放り出されていたカバンを掴むと走り出していた。
無我夢中で走って、気がつくともう家の自分の部屋だった。
体から力が抜けてそのまま座りこんでしまった。
あとはもうなにも覚えていない。




