no.68
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「おはよう、アリス。悪いんだけど、英語のノート見せてくれ。俺、今日当たりそうなんだ」
「いいよ」
池上に言われてノートを渡した。
「サンキュ」
「ねぇ、アリス。あんまり池上君にノート貸さないほうがいいよ」
沙耶に言われた。
「どうして?」
「だって毎日のように借りに来るじゃない」
「うん。サッカー部の練習きつくて夜疲れちゃうんだって」
「だったら男子に借りればいいでしょ」
「でも、ほら、転校してきて間もないし」
「本人転校生って感じじゃないわよ、ほらっ」
確かに既にたくさんの友達に囲まれてる。
それでもやっぱり貸してと言われれば、嫌だとは言えないし。
「なんかさぁ、池上君、ちょっとアリスに近づきすぎのような気がするんだよねぇ」
「なに、それ」
「うん、まぁ、アリスなら大丈夫だと思うけどね」
なんのこと?
それからしばらくして沙耶の言ったことがわかるような気がしてきた。
ノートを見せるだけじゃなく、休み時間にもわからないところやなにやらで話しかけてくる。
「これ、ここんとこ、わっかんねーんだよな」
ドキッ。
横に座って大接近。
池上の髪が頬に触れた。
その接近のまま、こっちを見られたから慌てて私は顔を離した。
「ここ」
「あっああ、あのね、ここは……」
平静を装って説明する。
でも手が震えてしまう。
次の授業が終わった後、私はまるで逃げるように教室を出た。
トイレまで着いて来ないよね。
でも教室に戻ってくるとなにやらひそひそとみんなが話していた。
「……だからお兄ちゃんには私から注意するように言っとくよ。皆でできるだけアリスを守ろうね」
「なに、私がどうしたの?」
と沙耶の後ろから声を掛けると皆慌てて散ってしまった。
「なんでもないの。気にしないで」
「なんか感じ悪いよ、沙耶」
「ごめんねぇ。どうもアリスって危なっかしいから。皆でアリスを守ってあげようねって話してただけだよ」
ふ~ん。
「あっ、そうだ。お兄ちゃんに頼まれてたクリスマスダンパの会場押さえられたよ。グリーンパークホテルの大広間」
「うっわぁ、すごい。それじゃ、放課後、先輩に報告しなくちゃね。でも沙耶のパパだけど、先輩のパパでもあめわけでしょ。そのホテル持ってる会社の社長って。だったらなんで先輩の名前は伏せなくちゃならないの」
沙耶に先輩の名前は出さないで学校で借りるということで話したと聞いて気になっていた。
「う~ん。まぁね、やっぱり仲、よくないし。それに夏の終わりにお兄ちゃん、アリスの家に引っ越してたことばれちゃって。大喧嘩したのよ。バイト先に乗りこんで。その後だから余計ね」
もともと仲がいいとは思ってなかったけど、学費や生活費をもらってるって聞いたから、それなりの付き合いはしているのかと思っていた。
けれど夏の終わりにそんなことがあったなんて知らなかった。
「ほら、アリスがバスケ見に来た日あったでしょ。あの日」
……。
なにか気になることあったような……。
よく思い出せないけど。
「そうなんだぁ。先輩とパパ、仲良くできたらいいのにね」
「うん。でもパパが折れそうにないから、ちょっと無理かな」
いろんな事情があるんだろうから、私はそういうのに首を突っ込める立場じゃない。
先輩が話してくれるまでそれについては触れないことにしていた。
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生徒会室を出て、宮川と二人で帰る。
校舎から校門までは必ずグラウンドの横を通る。
そのグラウンドでは池上がサッカー部の練習をしていた。
ちょこちょこ声を掛けられて、ドキドキなのだ。
宮川が一緒にいようが平気で話しかけてくるもんね。
で、今日も話しかけてきた。
「あーっ、アリス、今帰り? もうちょっとでこっちも終わりなんだ。一緒に帰らないか?」
明るい顔で言わないで欲しい。
先輩が一緒にいるのがこいつの目には入らないんだろうか。
いきなり後ろから宮川に抱きしめられた。
「あのさ、こいつは俺と帰るのが決まりなの。君はまだ転校してきて間もないから知らないんだろうけど」
頭の上で宮川の声がした。
「知ってますよ、俺。アリスと会長さんが学校公認のカップルだって」
えっ、知ってたの?
「じゃ、あんまりこいつにちょっかい出さないでくれないかな」
「でも、人が一生一人の人を愛するとは限らないでしょ。しかもまだ俺達、高校生だし。たくさん恋してたくさん思い出作ったっていいんじゃないですか?」
平気でこういうこと言える人だったのね、池上君って。
「だがこいつは今、俺とカップルなんだっ」
声から相当怒ってるってわかる。
「それでも俺、アリスが好きだから。それじゃ、俺、練習あるから。アリス、またな」
そう言って池上は走っていってしまった。
「なんなんだ、あいつは。本当に沙耶が言った通りだな」
「えっ、沙耶が何か言ったの」
「転校生がおまえにちょっかい出してるからしっかりおまえを捕まえてろってさ」
……なるほど。
そういう話をしてたのか、この前。
「でも関係ないよ。私、先輩だけだも~ん」
そう言って抱き着いてしまった。
だって先輩って嫉妬してくれてたりするんだも~ん。
うふふっ。




