no.60
宮川のキスの嵐。
くちびるが触れるところが熱くて、その熱が体全体に伝わって、どんどん熱くなる。
バイト始めて疲れてるのに邪魔しちゃいけないって本当に二人の時間がなかった。
ずっとこういうのなかったんだよね。
その分ってまさか約1ヶ月分ってこと……まさかね……。
でもキスの嵐が続く。
体が熱くて仕方ない。
宮川の息遣いが荒くなってきて、少し怖くなってきた。
それでも妙にその熱の中にいることが気持ちよくて、ずっとこうしていてとつぶやく心があることに気がついた。
信じてるから、好きだから、どんどん気持ちが膨らんで……。
幸せな気持ちも大きくなるけど、不安もあったり、いつもふらふらしちゃう心。
でもそれは宮川がいるから。
ここにいるから。
「アリス……アリス……」
なんだかいつもの先輩と違う。
ドキドキが激しくなっちゃった。
「今度はアリスからキスして……」
「えっ?!」
「……キスして……」
先輩、やっぱりちょっと……ううん、全然違う。
やっぱり疲れてるのかな。
無理してるんじゃないかな。
私、わがまま言っちゃったのかな。
疲れてるのに。
でもやっぱり側にいたいんだもん。
「私、私……ただのお荷物になりたくない。こんな厄介なお荷物でも先輩がずっと側においといてやるって思えるようなお荷物でいたい」
訳わからないこと言っちゃった。
でも先輩が好きだから、本当に好きだから。
抱きしめた先輩の顔。
すーっとくちびるを頭の上に……あっ、あの時と同じ。
包丁で指を切ったあの時……。
先輩はあの時、私の頭にキスしたんだ……。
好きって気持ちがどんどん大きくなったら、抱きしめたくなるんだよね。
先輩。
髪に頬にそしてくちびるに……。
私からの好きの証。
先輩、受け取って。
「アリス……」
しっかりと抱きしめられた。
でも私が宮川の前に立膝になっているから、宮川の顔はしっかり私の胸の位置。
ドキドキがまた激しくなる。
どうしよう、このまま……でも……。
心が迷ってる。
「ばぁ~っ!!」
へっ?
宮川がいきなり私の顔をみあげて言った。
な、なに?
「おまえの胸って気持ちいー。キスもおいしっ」
「せ、せんぱい!!」
「あはははっ、たまにはしてもらおう。うん」
「ちょっとー」
背中に回された腕をほどこうとしたけれど、ギューッとされて、また宮川は胸に顔をうずめてしまった。
いきなり恥ずかしくなっちゃったじゃないよ。
なんなのよ!!
「……もう少しこのままでいさせてくれ……」
先輩、なにかあったの?
それともふざけてるの。
わからないよ、先輩……。
でも先輩がそうしていたいっていうんなら言う通りにする。
いつも抱きしめてもらうのが私ばかりなんてずるいもんね。
私も先輩を抱きしめてあげたい。
頭に顔を近づけるとシャンプーの香りがした。
さらさらの髪。
気持ちいい。
「アリス、おまえの部屋行かないか」
「えっ、なんで」
宮川は胸に顔をうずめたまま続けた。
「なにもしないよ。ただ一緒に眠りたいだけだ」
一緒に寝るだけならここでもいいじゃない……とボッ。
なに考えてるんだ。
「こっちはまだ一緒に使わない。まだ……。一緒に寝るだけの時はおまえのところがいいんだ」
なにもそんなもの分ける必要ないと思うんだけど……。
と、ちょっと待って、寝るだけの時は私のとこってことはただ一緒に寝るだけじゃないときはこっちってこと?
カーッ。
一気に部屋の湿度、上がったかも……。
「おまえの部屋、だめ?」
「いいけど……」
「やっほーっ、やっりぃ~」
なんか、やっぱりおもちゃにされてる気がしてきた。
「そんじゃ、いこっ」
はーっ。
そのあっかるい笑顔はどうして作れるの。
さっきまでのはなんだったのよぉ。
手を引っ張られ、宮川の部屋を出て、となりの私の部屋に入った。
スタンドの明かり以外はまだついていないので、ドアの側のスイッチに手を伸ばした。
「いいよ、つけなくて。どうせ寝ちまうんだ」
「えっ、もう寝ちゃうの?」
「そう。一緒に寝たいんだ」
はいはい。
わかりました。
もう好きにしてくださいな。
先にベッドに横になった宮川の横に座った。
「先輩。タオル掛けないとお腹冷えるよ」
そう言ってタオルケットを宮川のお腹と自分のお腹に掛けてから横になった。
「アリス、頭上げて」
「ん?」
私が頭をあげるとスルッと頭の下に腕を入れた。
「乗せていいぞ」
「しびれちゃっても知らないよ」
「そのしびれも心地いい」
腕枕なんてちょっと恥ずかしい。
でもすっごく落ち着くね。
「おやすみ、アリス」
「おやすみなさい」
でも見つめられてて、ずっと見つめられたままで。
「先輩、目を閉じてよ」
「俺はおまえが眠ってから寝るの」
「なんで」
もう片方の手で前髪を掻きあげた。
「……見ててーんだよ、おまえの寝顔」
先輩照れてる。
「おやすみなさい、先輩」
もう一度そう言ってから私は宮川の手にキスした。
その手が頬に添えられた。
あったかいよ、先輩、ありがとう。
いつかきっと変わるから。
先輩をすべて受け入れられるように変わるから……。




