no.57
パパと宮川の会話が聞こえた。
「まったくアリスには困ったもんだよ。僕は父親なんだよ。その父親に向かってあれはないだろう」
「そうですよねぇ」
「父親の前であの格好はないだろう」
「そうです。俺もかなりショックです」
なんで宮川がショックなのか……。
「男としてみてもらってない気がしてきました」
えっ?
「そうだそうだ、父親の前で好きな男に抱きついてるってのもなんだが、女という自覚もまったくないな、あれは」
「そう思いますか、お父さんも」
「まったく君もとんでもない娘を好きになったもんだ」
「はぁ~」
「君も男だしなぁ。たまらんだろう」
「はぁ~」
なんか父親と娘が付き合ってる彼の会話とは思えない。
ママを見ると優しく微笑んでる。
「あれでもね、パパは寂しいのよ。アリスちゃんが他の男の子にとられちゃって。でもいつかはそうなるものね。娘なんだから」
「うん……」
なんだか久々のママの手料理だけど、喉を通らない。
「そうだ、君にいいものをやろう」
そう言ってパパがリビングから出ていった。
なんだろう。
「パパ、なにとりに行ったのかな?」
ママが妙な顔をしている。
「ママ?」
「いえ、まさかねえ……」
なんだかママったらプルプル震えているような……。
「おー、ほら、これからの為に君も一応持ってたほうがいいだろう」
なにを渡したんだろう。
リビングとダイニングの間にある開いたままのドアから二人を見た。
なにか箱のような……なんだろ、あれ。
「ねえ、ママ……」
ひぃっ、ママが怒ってる。
マジで怒ってる。
「パパぁ~。いくら男同士だからってあんなもの……」
お箸を噛みながら、プルプル震えてる……。
「お父さん、これ!」
「ああ。まぁ、父親の僕からってのもなんだけどね。でもね、まじめな話。君も男だし、好きな女と一緒にいるわけだし。アリスがいくら子供でも、な」
「あの、でも……」
「いいから持っていなさい。君らがどういう付き合いをしようと文句は言わんよ。ただまだ子供ができるのは困るだろう。二人とも高校生だ。それにこれからのことを考えたら、まだまだやることがあるはずだからね。子供を持つのはそれからでも遅くはない」
「は、はぁ」
パパったら、一体なに言ってるのよ!
「しばらくは子供ができないようにしてもらわんとな」
「わかってます。子供ができて、そのことで悩むようなことになったら苦しむのはアリスだから。あいつに辛い思いはさせたくないです」
「わかってるようだね。やはり君はしっかりしてるよ。君にアリスを預けることにして正解だったな。さぁ、もう一杯どうだ」
「はい、いただきます」
カーッ。
二人でなんて話してるんだか。
聞こえてるんだよぉ。
ママをちらっと見てみると、まだなんとなく怒っているように見える。
けれどさっきほどじゃないみたい。
「ママ?」
「なんでもないわよ。まったく男って……」
?
1時間くらいたったころ、二人は酔いつぶれてしまっていた。
「もぅ、なにも食べてないのにパパッたらガンガン飲んじゃうから……」
「あぁあ、先輩もぉ~」
「パパはママがベッドに運ぶからアリスは宮川君部屋に連れていって。大丈夫でしょ?」
「わかった」
ママはフラフラになっているパパを連れてリビングを出ていった。
「先輩、ね、先輩、起きて。部屋に行かなくちゃ」
「うん? ああ、アリス……」
「ほら、立って。部屋に行こう」
「ああ、そうだな。あっ、お父さんからもらったんだ、これ」
「もうそんなのいいから」
私はフラフラッと立ちあがった宮川を支えながら2階に上がった。
一体なにをもらったんだか知らないけど、振りまわしてないでよ。
危ないったら。
「あっ、ちょっとこっちじゃないよ。先輩の部屋はあっち」
「いいの、いいの、ここで」
「ここは私の部屋!」
でも私の力なんて本当になんの役にも立たない。
「ちょっと先輩!」
倒れこむように私の部屋に入ってしまった宮川。
「あーっ、もう、先輩!!」
勢いあまって開いたドアが今度は反動で思いっきり音を立てて締った。
ひぇっ。
と、とりあえず先輩を……あ~~~っ私のベッドに寝てる!
「先輩、ここは私のベッド。先輩のはあっちだってばぁ」
体を引っ張ったけどびくともしない。
逆に腕を掴まれて宮川の体の上に倒れてしまった。
「アリス……アリス……」
ちょっ、ちょっとお酒臭い……。
離してよっ!
と、体を離そうとしたら、今度は勢いよく宮川が体を上にしてきた。
先輩~~~~~っ!!
「アリス……」
虚ろな目でじっと見詰められる。
なんだか酔ってる先輩って色っぽいかも……。
ってそんなこと考えてる場合じゃない!
「アリス……」
うわぁ~~~、来た!
宮川のくちびるが私の唇に重なる。
柔らかい感触、いつもより熱い。
そしてなに、これ?
なにかがすーっと触っていく。
何度も何度も……くちびるをなでていく、そして中に入ってきて……。
先輩、気が変になりそうだよぉ。
もうやめて……。
でもくちづけは終わらない。
意識がどこかにいってしまいそうで、でも不思議と苦しくない。
先輩……。
くちびるから首筋にキスが移動して……。
もう体中が熱くなって力が入らない。
首筋に当てられた唇がものすごく熱い。
宮川の息遣いも聞こえて……。
でも、そろそろ離れてくれないと本当に意識がぷっつり消えそうで……。
「先輩……もう……」
搾り出した声。
震えてる。
「先輩……」
でも宮川は動かなかった。
全然……。
ちょっと……先輩……。
重い……。
意識が浮上してきてその重さに気付く。
「先輩?!」
な、なに、もしかして寝てる?!
う゛~~~~っ、しょっ!
力を込めて宮川の体をのけた。
いたたたっ。傷が……。
ドサッと横になった宮川は寝息を立てていた。
な、なんなのよ~。
信じられない。
まったく!




