no.5
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「まぁまぁ、お客様なの」
家に友達が来ることなんてなかったから、ママは大喜び。
この反応はもう想像ついていたけれど……。
「突然お邪魔します。宮川基樹です。生徒会の仕事ですみません」
意外だったのはしっかり挨拶した宮川だった。
「いいえ、それじゃ、アリスちゃんのお部屋にどうぞ。あとでお茶の用意していきますね」
な、なんで私の部屋なのよ。
リビングでいいじゃない。
と私が焦っている間にママは、宮川を私の部屋がある二階へと連れていってしまった。
あの部屋、見られたくない。
やっぱり家にしようなんて言わなきゃよかった。
「なにやってるの、アリスちゃん。早く」
階段の上からママが満面の笑みで言った。
返す言葉もない。
「それじゃ、私はお茶の用意……」
「あっ、お母さん、お構いなく」
バタバタと下りていくママに声をかける宮川。
この辺はそつなくこなすんだなぁ。
しかし、ここからの反応が怖い。
宮川なんて言うかな。
「入っていいか?」
「あっ、どうぞ」
もうここまで来たら仕方ない。
笑われて元々だ!
ガチャッ。
窓にはフリルが幾重にも重なったカーテンがかかり、なんと今時天蓋付きのベッド。
花柄のクッションがあちこちに。
テディベアーや人形が飾られて、部屋はパステルピンクで統一されていた。
一瞬、宮川の足が止まったのに気が付いた。
笑われる……!
「へぇ、結構かわいい部屋なんだな。なんにもないさっぱりしたの、想像してたけどさ。そんじゃ、やるか」
えっ、笑わないの?
「これ、ちょっと借りるぞ」
「あっ、は、はい」
宮川はコーナーテーブルを引っ張って部屋の中央に置くと、そこに封筒をポンッと置いて座る。
そして入り口に突っ立ったままの私を見上げた。
「あっ、おまえ着替えるか? 俺、出ててやるぞ」
「い、いいです。このままやりますから」
「そっか。じゃ、早くやっちまおうぜ」
「は、はい」
私はカバンを机の上に置くと、宮川の向かい側に座った。
「名簿、先生にもらってきたんだ。これにどんどん希望を書きこんで後から組み合わせようぜ。おまえ女子のほうやれ」
「はい」
宮川はてきぱきと男子の封筒からアンケート用紙を出して、それぞれを広げながら揃えていく。
私も封筒を開けた。
なんだか手が震える。
この紙にみんな思いを書いてるんだよね。
いたっ!
封筒の口がさっと私の人差し指をかすって、痛みを感じた。
「どした?」
「あ、あの、封筒で……」
「どれ、見せてみろよ」
右手を取られて、私は心臓が止まるかと思った。
「いい、いいです。大丈夫」
「おっ、血がにじんでる。でもこれくらいなら大丈夫か。舐めときゃ治る」
そう言って、傷口をペロリと舐めた。
ひゃ~~~~~~~っ、なんってことすんのよ~~~~~~!!
「痛いか?」
私は必死で頭を振った。
お願いだから早く手を離して。
「気をつけろよ」
そう言って、やっと手を離してくれた。
顔が上げられない。
こんなこと平気でやる宮川なんて大嫌い!
私は唇をかみ締めて、動揺している自分を隠すように封筒の中のアンケート用紙を出した。
でも四つ折りにされたそれを広げる手が震える。
傷が熱くて……。
コンコン。
「冷たいお茶、持ってきたわよ。どうぞ」
「すみません、お母さん。本当にお構いなく」
「いえいえ。それ、なんですの?」
「あ、生徒会の仕事なんです」
「生徒会のお仕事って……なんでアリスちゃんがやってるの?」
や、やばい。
言ってなかったんだ。
「いやぁ、ちょっと公表できない内容なんで、会長と副会長だけで作業しなくちゃならなくて」
え~~~っ、言っちゃだめ!
と慌てて振り返っても遅かった。
ママの視線が痛い~っ。
「会長と副会長って……」
「は? 俺が会長でアリスくんが副なんですよ」
「副って……」
あ~っ、もうだめ。
ママの怒りが込み上げてるのがわかる。
「あれ、アリス、言ってなかったの? 生徒会に入ったこと」
あっけらかんと言ってくれちゃったわね。
むっか~っ。
「アリスちゃん、生徒会入ったの? どうしてそんなものに。いつも言ってるでしょ。お勉強はしなくていいって。女の子はそんなものできないくらいがかわいいのよ。どうしてこう可愛げのないことばかりするの。ママ、悲しいわ」
宮川がどうしたんだって顔をして見ている。
「ママ、悪いけど、仕事終わらなくなるから話は後にしてくれる?」
「えっ、あっ、ごめんなさい。お客様なのよね。えっとまぁ、いいわ。今回は許してあげる。こんな素敵な会長さんの側にいられるんだし」
「ママ!」
「あっ、ご、ごめんなさい。じゃ、がんばってね」
パタン。
「あのさ、俺、余計なこと言っちゃったかな」
前髪を掻きあげて宮川が言った。
「いいです」
「ほんとわりぃ」
「いいですってば。いつもならもっと小言言われるんですけど、先輩がいるからあまり言われずにすんだし」
「でもおもしろいお母さんだな。女の子はできないくらいがかわいいっか」
あははっ。