no.47
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宮川が越してきて、落ち着いた頃には、夏休みに入っていた。
バスを降りて随分山道を歩いた。
「はーっ、疲れたぁ。まだ着かないのぉ」
山内が後ろのほうで叫んでる。
「あと30分くらいかな。由美、がんばれ」
高田が山内のリュックを後ろから支えながら答えた。
カサカサ、サラサラと風が木々の葉を揺らして音を立てる。
砂利の山道、歩くシャリシャリという音が大きく聞こえた。
雑踏も車のエンジン音も聞こえない。
自然の音だけが包み込んでくれる。
「アリス、大丈夫か?」
額にちょっと汗をにじませて、宮川が言った。
「うん。歩くのは好き。でもちょっとリュックが重いかな」
さすが2泊のキャンプ。
そこそこの荷物が入っているリュックは肩にくいこんで痛い。
「リュック、持ってやるか?」
「大丈夫だよ。あと30分くらいだって高田先輩も言ってるし」
「お~い、そこの看板立ってるとこ、入ってくれ~」
高田が叫んだ。
『神の森温泉』
木製の看板が立っている。
一番前を歩いている宮川と私がその看板の立っている道を曲がる。
すぐ後ろから来る川上と大里の会話が聞こえた。
「温泉もあるのね」
「高田が言ってたよ。すっごくいいお湯らしい。広い露天風呂もあるそうだよ」
「へ~っ、こんな山奥なのにね」
「こういうところのほうがいいところなんじゃないかな」
「そうかもしれないわね。楽しみだわ」
「ああ」
二人もなかなかうまくいっている。
30分ちょっと歩いて、やっとキャンプ場の管理棟が見えた。
リュックを下ろして、そこで高田達が来るのを待った。
「気持ちいいな、さすがここまで来るとさ」
「うん。やっぱり空気が違うんだよね」
「アリスは結構体力あるのね」
リュックを大里に下ろしてもらいながら川上が言った。
頷いて、宮川がリュックのポケットから出してくれたペットボトルの水を飲んだ。
はーっ、おいしっ。
くたくたになった山内を引っ張りながら、やっと高田が到着。
「悪いなぁ。俺、叔父さんに着いたって言ってくるわ」
そう言ってリュックを下ろすと管理棟に入っていった。
「あ~っ、もうくたくたよぉ。これから夕食作りなんてぇ~」
山内がリュックをどさっと置いて座りこんだ。
「由美さんは体力なさ過ぎっ」
「だってぇ、こんな重いもの背負って、2時間も歩いてるのよ。冗談じゃないわぁ」
「一番楽しみ楽しみって騒いでたのはあなたじゃない」
「そうだけどぉ」
川上と山内の会話が微笑ましい。
「おーい、お待たせ。テントの番号は15から17だってよ。一番いい場所だぜ。行こう」
「えーっ、また歩くのぉ」
山内が悲鳴を上げた。
「すぐだよ。テントは叔父さんたちが建ててくれたってさ。ラッキーじゃん。それに川が近いから水遊びもできるぞ」
「あ~っ、痛くなった足、冷やしたい」
皆で笑いながらテントに向かった。
木立の中に共同炊事場とトイレがあって、それを抜けると緩やかに流れる川が見えた。
もうキャンプを始めている人達の声か、木立の中でこだましている。
「ほら、あの3つがそう」
森が途切れたあたりに3つのテントが並んでいた。
「それじゃ、とりあえず一休みしてからにしようぜ」
宮川が言った。
テントをそれぞれ割りふって、リュックを入れる。
テントに入ってみると、結構広いんだなって思えた。
テントってこんな風になってるんだぁ。
「どした?」
「うん、テントって始めてだから」
「なんだ、おまえ。キャンプしたことないのかよ?」
「うん。中学のときにあったけど、バンガローだったもん」
「そっかぁ」
「ね、ね、川行こうよ、ね」
「ああ」
宮川の手を引っ張るようにしてテントを出た。
「あれ、皆いないね」
「休んでんだろ。元気なのおまえくらいだよ」
「えーっ、そうかな」
「そうだよ」
川まで走っていく。
水に手を入れてみた。
「つっめた~い」
後から来た宮川が靴を脱いではだしになるとズボンの裾をまくって足を水に入れた。
「はーっ、きもちいー」
「ほんと、じゃ、私も!」
隣に座って水にぱしゃぱしゃしてみた。
冷たい。
ずっと入れておくとジンジンしてきそう。
入れたり出したりする水音が気持ちいい。




