no.46
宮川が出て行って、しばらくしてリビングからママが出てきた。
「やだ、アリスちゃん。なにしてるの?」
「……力、抜けちゃった……」
「えっ? もぅ、ちょっと立って、ほらぁ」
ママに腕を引っ張ってもらっても足が……足が……。
「ただいま」
おわっ、パパ!!
「なにやってるんだ、こんなところでふたりして」
「えっ、宮川君帰ったら、アリスちゃんったら力抜けちゃって」
「あと何日でもないだろう。少しは我慢しなさい。ママ、ご飯」
「あっ、でもアリスちゃんが……」
「ほおっておきなさい。まったく寂しい寂しいって甘えすぎ」
ち、違うってばぁ。
でも本当のことも言えないよぉ。
とほほっ。
こんなことしてる場合じゃない、勉強の続きしなくちゃ。
私は這うようにして階段を上り、部屋に入った。
******
「やったぁ~っ!」
「終わったねー、アリス」
「うん、うん」
沙耶に言われて頷いた。
「アリスでも試験終わるとそんなに嬉しいの?」
「うん、うん」
和美に言われて、しっかり頷いた。
「そりゃそうだよねぇ。旦那と一緒にいたって全然色気なしだったもんね~。ここ数日」
「うん、うん……ってそれなによぉ」
「だってねぇ、旦那足変わりにしてたでしょ!」
「足変わりって……」
反論できない……。
「でも、あそこまで面倒見られるんだもんなぁ。会長、余程アリスがかわいいんだな」
「だろうなぁ。感心するぜ」
「もぉ、みんなでそんないろいろ言わないでよ!」
あははははっ。
皆も試験終わってほっとしてるんだよね。
このあったかい雰囲気、気持ちいい。
「ね、沙耶、今日一緒に帰れないかな。話があるの」
「うん」
二人でカバンを持って沖野のところに言った。
「今日、アリスとちょっと話があるからごめんね」
「ごめんね、沖野君。沙耶、借りるね」
「ああ。いいよ」
沖野の声、近くで聞いたら、いきなりキスシーンが思い出された。
やだ、顔、赤くなってるかな。
「それじゃね、沖野君。いこっ、アリス」
「う、うん」
「ね、アリス、お兄ちゃんは?」
「あっ、今日は用があるから別行動」
「そっか、珍しいね。で、話って」
「うん、学校出てからのほうがいいから。そこの公園で話そう」
そんな言い方したものだから、沙耶は深刻な表情を浮かべた。
別に皆に隠すことないんだけど、でもやっぱりこそっと話したいしなぁ。
ふたりで学校の近くの公園に行った。
木陰のベンチに座って、来る途中で買った缶ジュースを飲む。
「何かあったの、アリス」
心配そうに覗きこむ沙耶。
「ごめんね。あのね、えっと……」
いざ、話そうと思うと、どこから話せばいいのか分からないなぁ。
「お兄ちゃんと何かあったの? お兄ちゃんがアリスのこと泣かすようなことしたら私が叱るから言って」
「えっ、そうじゃなくてね。先輩、家に来ることになったんだ」
「えっ?!」
「試験終わったら、家に引っ越してくるってことになってて、それで今日は早く帰って片付けしてるの」
「えっえ~~~~~~っ!!」
そんな大きな声出さないで。
誰か来たら困っちゃう。
「な、なんでそうなるの? 試験の前の計画が成功したってこと?」
「あれは大失敗。結局、私、パパとママに話す羽目になっちゃったし。あっ、そうだ。沙耶ってば先輩に話したでしょ」
「えっ、えへへへっ。だってアリス帰っちゃうし、お兄ちゃんは絶対何かあったろって怖い顔するし……」
「まっ、いいけど。で、私がバカな計画立てたって皆にわかっちゃって。でもなんか結局先輩が家に引っ越してくることになっちゃって。試験寸前だったから、とりあえず試験がんばりなさいってことで」
「だからあんなに必死だったわけだ」
「うん。あんまりひどい成績で、やっぱりダメ、なんて言われちゃったら困るし」
「やっだぁ、アリスってばやっぱりかっわいい!! それ聞いたらすごい形相して必死になってたアリスもめちゃくちゃかわいい!!」
う~ん……。
「なんだかごめんね。私ばっかり……」
「なにが?」
「だって、学校公認だっとか、一緒に暮らしちゃうとか……」
「いいの、いいの。アリスはそうじゃなきゃダメなんだから。幸せで笑っててもらわなくちゃ。うん、でもたまにはあの泣き喚きも聞きたいけど……」
「もぅ、沙耶ってばぁ」
あはははっ、きゃはははっ。
なんだか自分だけ幸せになっちゃうようでずるいかなって思ってしまう。
でもこんな風に優しく見ててくれる友達がいてよかったって思う。
「沙耶、ありがとう」
私は沙耶を抱きしめちゃった。
「アリス、ありがと」
沙耶も私を抱きしめてくれた。
幸せなひととき。
「ねぇ、沙耶、沖野君とはどう? うまくいってるみたいだけど」
「うん。まぁまぁかな。普通に恋愛してるかなぁって思える。バスケのマネージャーになることになったし」
「えっ、そうなんだ」
「うん。もういるんだけどね。でももう一人いてもいいって。だから」
「少しでも一緒にいたいもんね」
「うん。私達は私達の形がある。アリス達にはアリス達の形がある。ね」
「うん」
それから三日後には宮川が我が家に引っ越してきて、一緒に暮らすことになった。




