no.43
30分はあっという間だった。
宮川がパサッと見ていた教科書をテーブルに置いた。
「そろそろ30分になるから下行くか」
なんか今日はちょっと感じが違って見える宮川。
気になって仕方がない。
「先輩……」
「なんだ?」
「ね、先輩」
「だからなんだ」
立ち上がった宮川に詰め寄った。
絶対ヘンだよ。
全然こっち見ないもん。
どうして?
嫌いになっちゃったの?
わがままばっかり言ってるから。
鬱陶しくなっちゃったの?
「行くぞ」
「うん」
******
「今、できたところよ。さぁ、座って」
ダイニングに入るとママが言った。
「すみません。いつも」
宮川がそう言って座った。
パパは新聞を広げていて、なにも言わない。
「ほら、パパ。もう新聞置いて」
「ああ。すまない」
そう言ってかさかさと音を立てて、新聞をたたんで置いた。
「どうだ、勉強の進み具合は」
「うん……」
私は頷いただけ。
言葉がつながらない。
「アリスちゃんが誰かに教えてもらうのって始めてなのよ。塾とかも嫌いで行ったことないの」
「そうなんですか」
……。
なんだかいつもみたいに会話がつながらない。
パパもちょっと様子が違うみたいに見えるし、ママもいつもより元気がないような……。
どうしてこんな風になっちゃうのかな。
やっぱり私がバカなことしたからだよね。
ご飯を一口、口に入れたものの、お箸をくわえたまま、動けなくなっちゃった。
みんなを振りまわして、困らせて。
どうしてこんなことしちゃったんだろう。
みんなで笑って楽しくなくちゃ、ダメなのに。
私が、私が……。
「私が……」
「どうしたの、アリスちゃん……」
私は手に持ったお茶碗とお箸を置いた。
「私がみんなの楽しい時間を壊しちゃったの。バカな計画なんて立てるから、だから罰が当たったんだ」
「なにを言ってるんだ、アリス」
パパが眉を寄せた。
なにか怒っているときの表情だよね。
きっとわがまま言ってばかりの私を怒ってるんだ。
「私が、私が壊しちゃったの!」
叫んで立ち上がった。
「アリス……」
隣に座っていた宮川が腕を掴んだ。
「や、離して。あんな計画立てなかったら、こんなことにならなかったの」
「計画ってなんのこと、アリスちゃん。一体どうしちゃったのよ」
「アリス……座って、ご飯食べよう。せっかくお母さんが作ってくれたんだ。冷めるよ」
宮川が優しく言った。
優しくしないでよっ!!
「いや、いやぁ! 私が悪いの。私が、私が壊しちゃったの!!」
涙が込み上げてきた。
感情が昂ってるのがわかる。
震えがとまらない。
「宮川君、悪いがアリスをリビングに連れて行ってくれ。ママも来なさい」
「じゃ、これちょっと……。えっとコーヒーでも入れるわ」
「いいから」
「はい」
リビングのソファに座らされて、でももう気持ちがせき止められなくなってた。
「アリス、ちゃんと最初から話しなさい。計画だの、なんだのって皆にはさっぱりわからないよ」
「あの、お父さん、今は……」
宮川が隣で言った。
「いいから、君も黙って聞きなさい。アリス、話さなければわからないんだよ」
宮川が手を握ってくれた。
こんなことしてる私でも勇気付けてくれるの?
握る手に力が入った。
ここまできたら話すしかないんだと思えた。
ママとパパが話していた会話を聞いたこと。
パパやママが先輩を気遣っていること、でも先輩も遠慮があるだろうし。
だから私が寂しがってる振りをすればパパやママはそれを見て、理由にして、先輩にここに住んで欲しいって言えるし、先輩もそれなら仕方ないって思ってくれるかもしれないと思って、計画を立てたことを話した。
「……寂しい振りするだけでよかったのに。なのに、だんだん本当に寂しくなってきて……どんどん寂しくなってきて、ずっと一緒にいたくて。でもそれがわがままだってわかるし、本当のことなら言っちゃいけないってわかってて……でも苦しくなってって、みんな困らせてるのもわかってたし。でもどうしていいかわからなくなっちゃった……」
うっ、うっく……。
「ごめんなさい。私が余計なこと言い出したからいけなかったのよね」
ママが言った。
「ママのせいじゃないよ。私が、私がバカなこと考えたのがいけないの。私がバカだったの。こんなに寂しくなるなんて思わなかったんだもん」
「本当にバカだな。まったくアリスには困ったもんだ」
「パパ……」
「振りをするつもりが本当になったってところが今のおまえらしいよ」
パパが言った。
「君は知っていたのか? アリスがこんなことしてること」
「はい」
えっ?
先輩、今なんて答えたの?
「今日ですけど、教室に迎えに行ったらもう帰った後で、それで妹に聞いたんです。そしたら全部話してくれて。今、アリスの口から話したことすべて」
「そうか。すまなかったな。君も辛かったろう。女というのは基本的に感情が先に立つような仕組みになっているからね。こんな娘だがこれからもずっとみてやってもらえるかな?」
「もちろんです!」
「一生ってのは長いよ。しかもまだ君は若いしね」
「わかってます。これからもずっと、一生アリスの側にいてやりたい」
「そこまで覚悟を決めているなら、ここに来てくれないか」
「パパ……」
ママの声が震えてる。
「結婚はまだできないにしても、一緒に暮らすことに問題はあるまい」
「はい」
えっ、それじゃ、先輩はうちに来るってこと?
パパの顔を見た。
「これで話はまとまったな」
どうして、どうしてこんなに簡単にいっちゃうの?




