no.42
******
翌日、元気がなかった私を昼休みになって、体育館の後ろまで引っ張ってきた沙耶。
「アリスってば私達、友達でしょ。そんな顔されてるのになにも話してもらえないのつらいよ」
「ごめん」
「なにがあったのか、ちゃんと話して」
「うん……」
私は自分が妙な計画を立てちゃったこと。
寂しい振りをするだけでよかったのに、本当に寂しくてたまらなくなったことを話した。
「もう、アリスったらおバカなんだから」
半分涙をためて沙耶が言った。
「寂しいのわかるよ。私だって沖野君と別れて家に帰るとき、すっごく寂しいし。お兄ちゃんが一人になって寂しいって思うのと同じでアリスも随分我慢してたんじゃないかなって思うよ。今まで感情とかってずっと押し殺してきて、やっとアリスは心に正直になったばかりだし、そういう感情をうまくコントロールできなくて当たり前なのよ」
「沙耶……」
「座ろう」
二人並んで座った。
屋根があって濡れないけど、手を伸ばせば梅雨のしとしと雨が手に触れる。
「一緒にいられたらいいのにね。好きになったらずっと一緒にいられたらいいのに」
「沙耶……?」
「私も寂しいもん」
「ごめんね、私のことばっかりで」
「ううん」
みんな同じなんだ。
好きになったらずっと一緒にいたいって思うんだ。
でもみんな必死で我慢してるんだよね。
寂しいって気持ちがうまくコントロールできなくて、そんなんじゃまた泣いてしまいそうで、この日、私は宮川が迎えに来る前に教室を出た。
今、会ったらきっとまたわがままを言ってしまう。
どんどん情けない自分になっていきそうで……。
家に帰ると今日は宮川が一緒じゃないんだと気付いて、ママはがっかりしていた。
けれど、そのことは一言も言わず、部屋で勉強を始めた私にコーヒーを持って来てくれた。
「あまり無理しすぎないでね」
そう言って部屋を出ていった。
ごめんね、ママ。
なんだか教科書を開いていても頭に入らない。
誰か来たのか下で話し声が聞こえた。
コンコン。
「入るぞ、アリス」
先輩!?
やだ、なんで来たの?
「先に帰る奴がいるかよ。ちゃんと試験終わるまで面倒みてやるって言ったろ」
そう言いながらコーナーテーブルを引っ張ってくるとストンと座った。
「ほら、それもってこっち来い」
「う、うん」
「昨日のつづきな……おいっ、これ、間違ってる。助動詞は……」
普通にしなくちゃ。
昨日、あんなに心配かけたんだから。
普通に……。
私は必死に宮川の言っていることに耳を傾けた。
「……このtoはここ?」
「そうそう」
こうしている時間が幸せ。
それをずっと欲しいって思うのはとてもわがまま。
わかっていることなのに……。
ちらっと宮川のほうに視線を移すと自分の教科書を開いて眺めていた。
やっぱり私、先輩のお荷物になってるかな……。
朝から降っていた雨がいつのまにか止んでいた。
コンコン。
「アリスちゃん、今日パパ早く帰ってきたから、お夕食早めでもいいかしら?」
「うん」
「じゃ、あと30分くらいたったら、降りてきてちょうだいね。用意しておくから」
そう言ってママは行ってしまった。
パパ早いなぁ。
いつもはもっとずっと遅い。
夕食を一緒にとることも少ないもん。
「じゃ、あと30分でここまでね」
「えっえ~~~~~っ」
それって無理だと思うんだけど。
しゅんっとしたけど、知らん顔の宮川。
やるしかないか……。
目の前で膝の上に乗せた教科書に視線を落としている宮川。
見つめていたい。
なんかすっごくそう思えた。
ひょいっと顔を上げた宮川。
きぇ~~~~~、ボーッと見てたのばれたかな。
なにか言われるって思ったけど、なにも言わずにまた教科書に視線を落としてしまった。
な、なに……。




