no.41
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作戦3日目。
「どした、今日は元気ないな」
「なんでもないよ。ね、ここは……」
「それは……」
説明されているのが頭に入らない。
沙耶にも今日は元気ないって言われちゃったんだよね。
でもこんな計画立てたなんて言えなかった。
ちょっと後ろめたいし。
「……わかったか?」
「えっ、あ、うん」
「聞いてなかったろ。なに、考えてるんだよ」
「あっ、なんでもないの。ちょっとボーッとしちゃって」
「じゃ、も一回説明してやるからちゃんと聞けよ」
「はい!」
しっかりしなくちゃ。
今日はちゃんと計画進めるんだから。
時々顔を出す押しつぶされそうな不安を払いのけて、勉強した。
「じゃ、今日はここまで」
はーっ。
「疲れたのか?」
「う、ううん」
でも実はちょっと疲れた。
集中しちゃうと結構平気なんだけど、なんだか気持ちが切り替えられなくて疲れちゃった。
「無理するなよ。トップじゃなくなったって、誰も文句なんか言わないぞ」
「そうだね。でもやれるだけやらなきゃ」
話しながら下に下りた。
気にしていたのかすぐにリビングからママが出てきた。
「なんだか毎日家庭教師してもらってるみたいでごめんなさいね」
「いえ、俺のほうこそ、毎日食事させてもらってすみません」
そう。
誰も遠慮することない。
私の為、なんだから。
わがままな私のため……。
「それじゃ」
そう言って玄関を出ていく宮川。
ドアが締りそうになって、私は駆け出していた。
「アリスちゃん……!」
気がつくとまた宮川のシャツの裾を握り締めていた。
玄関のドアが背後で開いたままなのがわかる。
中の明かりがはだしの足元照らしてて……。
「アリス……」
宮川の困ったような声が降ってきた。
私、なにやってるんだろう。
私の中に寂しいって言葉が一杯になって、ぐるぐる回ってて、いくら払いのけても、消えなくなって……。
演じるだけのはずだったのに、いつのまにか一杯になっちゃった思いに押しつぶされそう。
「アリス……」
ごめんね、先輩。
先輩を困らせるつもりじゃなかったのに……。
見上げて先輩の目が悲しそうだった。
私は家の中に飛び込んだ。
ママに声を掛けられたけど、溢れ出した涙見られたくなくて、部屋に飛びこんだ。
後ろから追ってくる宮川にも気付いた。
「アリス、おい、アリス、ここを開けろ」
一瞬鍵をかけるほうが早かった。
ドアの向こうで宮川が叫んでる。
「宮川君……」
「あっ、すみません。俺、もう少しいいですか。今日アリス、なんだかヘンだったし、ちゃんと話してみますから」
「迷惑ばかり掛けてごめんなさいね」
「いえ……」
「じゃ、アリスちゃんのことお願いね」
「はい」
ママが降りていくスリッパの音がした。
「アリス、ここを開けてくれないか……」
静かに宮川の声がした。
私は鍵を開けてドアに背を向けた。
まだ涙が止まらない。
後ろで宮川が部屋に入ってきたのがわかる。
バサッとカバンが置かれて後ろから抱きしめられた。
「アリス……」
私ってばバカだ。
寂しがるアリスを演じればよかっただけなのに、私自身がそのまんま寂しくなっていくなんて。
こんなことになるなんて……。
うっうっ……。
寂しくて、寂しくて、ひとりおいて行かれるのがたまらなく辛くて……結局自分のことばかりになってる。
ふぇっ、ふぇっ。
これ以上、私ばかり泣いててもいけないのに、本当に泣いちゃだめなのに……。
「アリス!」
ぐいっと正面を向かされた。
やだ、見ないで、見ないでよ。
また強く抱きしめられた。
「我慢するなよ。泣いていいから……」
「うっ、あっ、うっあ~~~」
声を上げて泣いた。
思いっきり、泣いた。
もう止められなかった。
私の頭を抱え込んでいる宮川の腕の温かさ、胸の熱さが伝わってくる。
しばらく声を上げて泣いたら、なんとなく落ち着いてきた。
宮川はそんな私を抱きしめたまま、ベッドにもたれて座った。
「なにがあったんだ、アリス。こんなに泣きたくなるまでひとりで抱え込むなよ」
宮川の暖かい言葉に自分か情けなくなった。
こんな計画立てて、みんなを振りまわして、本当に私ってバカだ。
「話せないこと?」
「……そうじゃないけど……」
でも情けなさ過ぎて、こんな計画立てたなんて言えなかった。
今はただ一緒にいたかった。
「もう少し一緒にいて。ただそれだけでいい」
「アリス……」
私が言った言葉がどんなにわがままで自分中心かってわかってる。
でも今は押しつぶされそうな寂しさをなんとかしたかった。
「甘えんぼっ。わかったよ。一緒にいてやる。ほんとうにかわいい奴」
そんなんじゃないよ。
かわいくなんて全然……。
抱きしめられたまま、静かに時間が流れていく。
遠くでどこかの犬が吠えてる。
「ずっと一緒にいてやりたい。ずっと一緒にいたいよ。だけどそうもいかないだろ。お母さんに心配かけるから、少し我慢しないとな」
「ごめんなさい……」
「謝るなよ。こんな気持ちにさせたのは俺だもんな。俺がもっと大人だったらずっと一緒にいてやれるのかもしれない。でも俺はまだ……これからいろいろやって、おまえをしっかり支えられる大人にならないと……。そうなるまで待っててほしいんだ」
「……なんだかプロポーズされてるみたい」
くすぐったくなるような言葉にそんなことを言ってしまった。
「そのつもりで言ってるんだけど」
前髪を掻きあげてた。
言ってて照れてる。
クスッ。
「やっと笑ったな」
一緒にいるから笑える。
ひとりじゃないから。
「さて、こうしててお母さん下で心配してるし、そろそろ帰るから。おまえは見送らなくていい。また泣かれたら困る。俺、お母さんに挨拶してくから。今日はもう寝ろ」
「うん」
宮川は帰っていった。




