no.40
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計画遂行。
「ね、先輩。うちで勉強しない?」
「ダメ。試験終わるまでは行かないって約束だろ」
「でもね、わかんないとことか、先輩がいたら教えてもらえるかなぁって」
「おまえでもわかんないとこあんのかよ」
「ノートはちゃんととってあるの。でも授業だけで頭に入るほどよくないもん。だからずっとちゃんと予習復習してトップ守ってきたんだよ。でもここんとこずっとさぼってたから。別にもうトップにこだわってるわけじゃないけど、先輩と付き合うようになって成績が落ちたって言われるの悔しいし……」
ちらっと宮川の顔を見る。
前髪を掻きあげた。
「しゃーねーな。んじゃ、見てやるよ」
「やったぁー」
「まじめにやれよ」
「うん」
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家に帰るとママが宮川の姿にパーッと嬉しそうな顔になったのがわかった。
「まぁ、今日は寄っていけるの?」
「私の勉強みてもらうの」
「そう、よかったわね。ね、宮川君、食事していくでしょ?」
「すみません、お世話になっちゃって」
「いいのよー。アリスの勉強みてもらうんだから、遠慮しないで」
やった!
うまくいってる。
部屋に入っていつものごとくコーナーテーブルを部屋の中央に引っ張る宮川。
いいなぁ、やっぱりこの光景。
「で、どこからやる?」
座った宮川が言った。
「えっ、あ、いいよ。先輩、自分のやってて。私、分からないとこ出てきたら聞くから」
「俺は試験の前に慌てて勉強なんてしねーの。ほら、貸してみろ。範囲はどこだ」
私が出した数学の教科書を引っ張った。
私は机の上にある教科毎の範囲の書かれたプリントを手渡す。
宮川はそれにちらっと視線をやってから教科書を開いた。
「じゃ、とりあえずこれやってみろ」
「う、うん」
ノートを広げて書き始める。
「ちょっと待った。それでも答えはでるけど、この公式当てはめてやったほかうが早い」
教科書の次のページに出ていた公式をさして言った。
あっ、そうか。
これがあったんだ。
なんだか早速勉強はじめちゃったけど、まっいいか。
結局食事する以外はしっかり勉強みてもらったのだった。
でも要領の悪い私がひとりでやるよりずっとスムーズに進む。
さすが先輩だ。
「それじゃ、な」
玄関まで来てママが気付いたのかリビングから出て来た。
ラッキー。
作戦第二段。
「ね、先輩。もう少しだめ?」
「もう遅いからだめ」
「もっと一緒にいたいのに」
「こら、わがまま言うな。明日もみてやるから、な」
「う~ん……」
「じゃ、お邪魔しました」
「あっ、気をつけて帰ってね」
先輩がドアの向こうに消えたら、私は階段を走りあがって部屋に飛びこんだ。
よっし、これで今日は成功っと。
お風呂入って寝よっ。
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翌日、作戦2日目。
今日も数学……。
やっぱり先輩がいて勉強してるほうが楽しい。
みっちり勉強教えてもらって、お帰りの時間。
「数学はもう大丈夫だろ」
「うん、じゃ、明日は英語お願いしてもいい?」
玄関で会話しているとママが出てきた。
「ごめんなさいね、宮川君。この子ってばわがままばかり言って」
ママが言った。
「いえ、がんばってるから」
靴を履いて立ちあがった宮川。
目に入った宮川の暑くて引っ張り出したシャツの裾を握り締めた。
クイクイッ。
ちょっと引っ張ってみる。
「ほら、アリス、離せ」
「アリスちゃん、だめよ」
手から力を抜いたらスーッとシャツは手から擦りぬけていった。
なんだか苦しい。
先輩の顔が見られない。
どうしちゃったんだろう。
今日も昨日のように「もっと一緒にいたい」って言わなくちゃ。
「じゃ、おやすみなさい」
パタン。
ドアが締った。
言うはずだった言葉が出なかった。
「アリスちゃん、わがままばかりしちゃだめよ」
そんなことわかってる。
わかってるから……。
「ママなんて大嫌いっ!!」
どうしてそんな言葉が口をついて出たのかわからない。
「アリスちゃん?」
「ご、ごめんなさい」
私は階段を途中まで駆け上がって躓いた。
「っい……」
「アリスちゃん!」
涙が溢れ出した。
痛い……。
ぶつけた足より胸が痛い。
なにやってんのかな。
これじゃ、ちゃんと計画進められない。
明日はがんばらなくちゃ。




