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ありす☆らぶ  作者: 湖森姫綺
4/156

no.4

 ******



「すごいことになっちゃったね、アリス」


 沙耶がご飯を口に運びながら言った。

 すらっとした指できれいなお箸の持ち方だなぁ。


「体育祭、ペアかぁ。このアンケート用紙、私、もう書く人決まってるんだ」

「えっ?!」


 私は持っていたスプーンを落とした。

「や、やだ。そんなに驚かないでよ」


 真っ赤になって、沙耶は視線を教室の後ろのほうに移した。

 そこには数人の男子がいる。

 音楽雑誌のようなものを広げて騒いでいる。

 あの中の誰かなの?


「だ、だれ?」

「沖野君なんだ。あのね、実は中学から好きだったの」


 ああ、そっか。

 沙耶は中学からここだったんだよね。


「沖野君ってね、バスケうまいんだよ。すっごくかっこいいの。今度一緒に見に行こうよ」

 伏目がちに言う沙耶がなんだかすっごく可愛く見えた。


「そうかぁ、沙耶はいるの」

「アリスは誰にするの?」


 昨日、宮川に言われた言葉を思い出す。

「俺とおまえはテント番な。俺は進行やんなくちゃならないし、ペアの点数集計はおまえがやれ」


 なんだかほっとしたんだよね。

 そう言われて。

 だってペア組むなんて嫌だった。

 

 出場できるのは7種目。

 でもその中には二人三脚とかもある。

 

 好きな人とやる人はいい。

 でも私はそういうの嫌だった。


「あっ、私はテント番と点数集計しなくちゃならないから出場しないの」

「なに、それ?」


「ほら、かなりのペアの数でしょ。集計やらなにやらでやっぱり出場して集計もやってって無理だから。宮川先輩と私は仕事」


「やだぁ、そんなの。私、お兄ちゃんに掛け合ってあげるよ」

「いい、いい! そんなことしないで。私はそのほうが楽でいいから、ね」



 ******



「そんじゃ、行くか」

 

 宮川と私はそれぞれ茶封筒を持ち、一年の教室からアンケート用紙を集めた。

 宮川の封筒には男子。

 私の封筒には女子。


 出さない人もいると思っていたけれど、ほとんどの人がちゃんと四つ折りにされた用紙を封筒に入れていく。

 みんな好きな人いるのかな。

 ちょっと意外だった。


 最後の教室ですべてアンケート用紙を集め終わるとみんなの前で封をした。


「これで他の奴らに見られることもない。誓約したとおり集計は俺とアリスがやる。安心してくれ」

 そう言って教室を出て、生徒会室に行った。


「さて、あとは集計だけだな」

「あの、先輩。これ、今日一日どうするんですか?」


 朝のホームルームで集めてきたわけだから、今日一日はしっかり管理しなくちゃならない。

 間違って人の目に触れるようなことがあったら大変。


「そうだな。おまえ預かれ。俺よりおまえのほうが信用あるだろ」

 と、いうわけで私はこれを今日一日、持って歩く羽目になった。

 みんなの思いが詰まった封筒、なんだかこちらまでドキドキしてしまう。



 ******



「その中に入ってるんだね、みんなの気持ち」

 沙耶が昼食になっても肌身離さず持っている封筒を見て言った。

「そうだね。なんだか落ち着かない」


 6限は音楽だった。

 音楽教室に移動する。

 もちろん封筒も抱えて。


「よっ、アリス。なんだ、もしかして一日それ抱えてんのかよ」

 階段ですれ違った高田に言われた。


「そりゃそうよね。大切なみんなの思いが込められてるんだもん。なくしたりしたら大変だわ、ね。アリス」

 一緒にいた山内も言う。


「おまえの言い方、アリスにすっげープレッシャーかけてんじゃねーの」

「あっ、ごめんごめん。そんなつもりじゃないからね」


 ふたりは笑いながら手を振って行ってしまった。

 思いっきりプレッシャーじゃないよぉ。

 手が震えてきちゃった。


「気にしなくて大丈夫よ、アリス。もうあと1時間じゃない。そしたらさっさとそれ持って帰っちゃえばいいんだし。家に置いとけば問題ないでしょ」


「そうだよね」



 ******



 授業が終わってぐったりしていた。

 こんなに緊張した一日はなかった。

 早くこれなんとかしてほしい。


 一日中、みんなの視線がこの封筒を追ってる。

 こんなのきつすぎるよ。


「おーい、アリス!!」

 宮川の声がして、教室の後ろのドアを振り返る。


「あっ、お兄ちゃん」

 沙耶が手を振った。


「よ、沙耶。おい、アリス。それさっさと集計しちまおう」

 えっ、でも土曜にやろうって言ってたじゃない。

 時間かかりそうだからって。


「今日、やるんですか?」

「ああ、さっさとペア決めちまったほうがみんなも安心するだろ」

 宮川は長めの前髪を掻きあげて言った。


「ね、ちょっとアリス……」

「なに?」


「あれね、お兄ちゃんの癖なの。前髪掻きあげてる時って照れてるんだよ。きっとアリスがそれ持ってて落ち着かないのに気が付いてるんだよ」

 

 沙耶が私の腕を引っ張って、耳打ちした。

 私は宮川に視線を移した。


「な、なんだ。今日はまずいか」

「いいえ、大丈夫です」


「そんじゃ、俺の部屋行くぞ」

「えっ?」


「あっ、じゃ、私もいいでしょ。お兄ちゃん」

「おまえはだめ。これは俺とアリスしか見られないから、二人でやんないとなんねーんだからな」


 ひ、ひとり暮らしの宮川のところに行けるわけないじゃない。

 いくら生徒会の仕事とはいえ困る。


「あ、あの私の家でやりましょう」

「そっか、そんじゃ、お邪魔しよう」


 うっ、思わず言っちゃったけど、うちもやだなぁ。

 生徒会室でやろうって言えばよかった。


「い~な、お兄ちゃん。アリスのお家行けて。ずるい」

「仕方ないだろ。生徒会室でやってるって知ったら、みんな落ち着かないだろ。それに時間かかるし」


「私も行きたいな」

「わがまま言うな。ほら、そんじゃ行くぞ、アリス」


「は、はい」

 私は慌ててカバンを持ち、封筒二つを抱えた。


「かせ、俺が持ってやる」

 宮川は私が抱えた封筒をスーッと抜き取った。


「そんなに力んでたら筋肉痛になるぞ」

 知ってたのかな。

 私が一日これを抱きしめてたこと……。

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