no.39
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フーッ。
一区切りついて、顔を上げるともう12時だった。
そろそろ寝ようかな。
喉、乾いたから飲み物でももってこよ。
私は下に降りていった。
リビングにまだ電気がついている。
今日はふたりとも遅いな。
まだ起きてるんだ。
「アリスもかわいそうだけど、それよりもっと宮川君のほうがつらいと思うのよ」
あっ、ママの声。
なに話してるんだろ。
ガラス越しに覗いてみるとソファに座って新聞を広げているパパ。
その横に立っているママの後姿が見えた。
なんか入りづらい雰囲気。
「これまで平気だった一人の生活も今はつらいと思うの。あんなに嬉しそうにご飯食べて、話して。なのに家に帰ったらひとりきりなのよ」
ママの言葉が胸に突き刺さった。
そう、先輩は今ひとりでいるんだ……。
「男なら平気だよ、そのくらい」
「そうね。多分うちに来ることがなかったら全然平気だったでしょうね。でも今はそうじゃない。うちでご飯食べたり、風邪引いて寝こんでたり、人がそばにいるって楽しさを知っちゃったんだもの。そうしたのは私たちだもの」
「責任を感じてるってわけ? でもだからって彼に家に来いって言ったって、彼は承知しないだろ」
「そんなことわかってる。だからなんとか家に住めるように説得できないかなって考えてるんじゃない」
「結局、君は自分が寂しいんじゃないのか?」
「そういう気持ちがないとは言わないわよ。でも帰ってくるアリスの姿見たりするとそれもつらいし。みんな一緒の楽しい時間を知ったら、寂しさも知っちゃうのよ」
二人の沈黙が空気を張り詰めていく。
「余計なことはしないほうがいい」
「パパは宮川君がうちに住むことには反対なの?」
「反対はしないさ。かえって目が届くからそれはそれでいいかもしれない。でもね、彼自身の問題だ。俺達がここに住んでくれと言っても彼は遠慮するだろうな。それが男ってもんだから」
「だから、そこをなんとか……」
「もうこの話は終わりにしよう」
パパが立ちあがった。
私は慌ててスリッパを手に持って階段を駆け上がった。
そっと部屋に入って、ペタンと座りこんだ。
また私ってば自分のことばかり考えてた。
寂しいのは先輩のほう。
家に帰ったって迎えてくれる人もいない。
食事だってひとりでしてる。
なんで私ってば自分のことばかりになっちゃうんだろう。
涙が止まらなくなった。
自分の情けなさと宮川の一人の姿が寂しすぎて……。
先輩がここでずっと過ごせたら……ずっと過ごせたら……一人で寂しい思いしないですむんだよね。
でもママたちが言ってたようにここに来てっていったって、先輩はきっと来ないよね。
どうしたら……。
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翌日、しっかり寝不足の顔をして学校に行った私を沙耶が見抜いた。
「アリス、なに悩んでるの?」
じーっと私の顔を見つめて答えを待っている。
私は正直に昨夜のことを話した。
「そうかぁ。確かにお兄ちゃん一人で寂しいよね。でもお兄ちゃん、そういうこと言わないから。アリスが自分のことばかり考えてたって落ち込むことはないんだよ。みんな、そんなもんだもん」
「そっかなぁ」
「そうそう。でもね、お兄ちゃんがアリスの家に一緒に住んでたら寂しい思いをしないですむっていうのは確かかも。ただほかのプレッシャーも生まれるだろうけど」
「なに、ほかのプレッシャーって」
「う~ん、うまく言えないけど、アリスのうちに婿入りするっていうかぁ……」
「なによ、それ」
「まっ、いずれするんでしょ。でもね、そうなるといい加減な気持ちではいられないでしょ。将来のこととかも。それにお世話になるばかりでもそれって負担になるし」
そうだよね。
私たちが来て欲しいってただそれだけの思いでも、先輩はそんな中でお世話になっているって重荷になっちゃうかもね。
「まっ、お世話になるかわり、アリスの世話するんだろうけどさ」
「ちょっと~、また子供扱いする!」
「ごめん。ごめん。でもそれでパパとママとしてはお世話してお世話されてちゃんと公平でしょ。どちらかが負担に思う必要はないもん」
「じゃ、私のために先輩が家に来てくれればいいんだよね」
私がひとりじゃ寂しい、ずっと一緒にいたいって言ったらうちに来てくれるかな。
「アリス、なに考えてるの?」
「ううん。なんでもない。話、聞いてくれてありがとね、沙耶。ところで沙耶もうまくいってるんでしょ。沖野君と」
「まぁね、実はね、バスケのお手伝いしてるの」
「そっかぁ。楽しそう」
「よし、私もがんばろっと」




