no.37
「あれ、びしょびしょ」
そう言った宮川の手元を見るとテーブルに置かれた冷えた缶の下が濡れていた。
私が持っている缶も濡れている。
私は席を立って、部屋の後ろに置いてあるティッシュボックスをとりに行った。
やはり席を立った川上とすれ違う。
私はティッシュボックスを取ると、1枚ずつティッシュを配りながら戻ってくる。
ふっと見ると川上が宮川に耳打ちしているのが見えた。
「そっか……」
と言いながら指で頬をポリポリしている宮川。
なにを話したんだろう。
川上の視線が私に移り、にっこりする。
なに?
戻ってきた川上は
「はい、ありがと」
とティッシュを一枚引っ張って座った。
私も座ってティッシュを一枚、宮川のコーヒーの下に敷いて、自分のにも敷いた。
「そんじゃ、俺達、今日寄りたいところがあるからさぁ、これで帰るわ」
高田と山内が立ちあがった。
「じゃ、川上、俺達も帰ろう」
「そうね」
大里と川上が立ちあがって高田が大声を上げた。
「あーっ、おまえ達、なになに。付き合い出したの?」
「えーっ、ふたりもぉ」
山内が素っ頓狂な声をあげた。
「悪い?」
川上が照れてる大里の横ですまして言った。
「いや、いいじゃん。じゃさ、テント3つ、押さえよう。せっかくみんなペアになったんだしさ」
「それいい!」
きゃ~きゃ~騒いでいる二人に川上が言った。
「ちょっとそれ、まずいんじゃないの」
「別にいいじゃない。そのほうが私、絶対いいも~ん。ね、俊平。川上さんも固いこと言わないの。それとも嫌なのぉ~。付き合ってるのにぃ」
「そういうんじゃないわよ。好きにして。大里君、いこ」
「ああ」
先に大里と川上が出ていってしまった。
「あ~ん、怒んないでよぉ、川上さ~ん」
「大丈夫だよ。別に嫌だって顔はしてなかったって」
「そっかなぁ」
「おまえら、浮かれすぎなんだよ」
「だってぇ、楽しいほうがいいじゃない。ただそう思っただけなのに」
しょげてる山内。
大人っぽい顔立ち。スタイルもいいし……。
と、なに見てるのかな、私。
「おい、基樹も別にいいだろ」
「別にそれでいいよ」
「おーっ、ほらな、基樹たちもOKだってよ、由美。落ち込んでないで行こうぜ」
「ね、ね、二人もそれでいいってことは既に……」
フガッ。
急に明るい顔をして話し出した山内の口を高田が塞いだ。
「なにすんのよぉ、俊平!」
「おまえさ、アリスの前でやめろよ」
「あら、だってもうこういう話してもOKなんでしょ。でも、アリスも大人になったのねぇ。きゃ~~~っ」
なんかみょ~に「大人」というところを強調されて言われるとムッとする。
「おい、由美!」
「嬉しいんだよぉ。宮川君については別に驚かないけど、アリスがぁ~~~っ」
二人でなにやら盛り上がってる。
「勝手にやってろ、ブァーカ」
宮川が笑いながら言った。
「じゃ、こいつうるさいから行くわ。おっさきー」
そう言って二人も出ていってしまった。
テントだの、キャンプだのって何の事だろ。
別のこと考えてて、話し聞いてなかった。
「俺達も帰るか」
「うん」
帰りながらなんの話しだったのか聞いてみた。
「ああっ、おまえがジュース買いに行ってる間にさ、生徒会の6人で夏休みキャンプに行こうって話しになってさ。俊平の叔父さんがキャンプ場やってるってんで、そこでやることにしたんだ。おまえも行くだろ」
「うん」
キャンプかぁ。
いいかも。
「で、人の話、聞いてないでなに考えてたわけ?」
顔を覗きこまれてそっぽ向いちゃった。
「川上から聞いた。沙耶が男とキスしてたってな」
えっ、話しちゃったわけ?!
「で、なんでおまえが落ち込むんだよ。あいつだってもう大人だろ。キスくらいするさ。俺達だってしてんだしさぁ」
そう言いながら頬にチュッ。
「あ~、人に見られちゃうでしょ」
「いいじゃねーか、別に」
よ、よくないっ!
「あいつらはあいつらでうまくやってるってことだろ」
「わかってる。そうじゃなくて、自分がよくわかんないの。嫌だとかって言うんじゃないし……。でもみんな大人、大人って言って、なんだか……」
「おまえってほんと、ヘンなとこで悩むな。まっ、おまえらしいって言えばおまえらしいけどさ。よーするにおいてかれた気分ってやつだろ? まわりばっかり進んでって、自分はなんかおいてけぼり、くらってるって」
「そ、そう。そんな気分……」




