no.33
「は~い、俺からも言わせてもらっていいかなぁ」
先生が手を上げた。
「じゃ、センセ、バトンタッチ」
服部は席に戻って、変わって担任が教壇に立つ。
「まっ、姫さん、座れや」
「ほら、アリス」
「うん」
もう、ハンカチがびしょびしょだよ。
「さて、まぁ、生徒側からのここ数日の流れは今、服部が言ったとおりだ。んで、大人側、学校側の流れだか……まず金曜日にはそのちゃちな内容の紙があちこちに張り出されていた。それを処分。とりあえず、休んでいる二人の所在確認。一人暮らしのはずの宮川は自宅にはいない。そして桐原の家にふたりともいたことが確認された。実はそれはもう既に俺と、宮川の担任は知ってた。二人が休むって連絡を桐原の父親から受けていたからな」
ざわざわっ。
「だが、どういう状況で宮川が桐原の家にいたかなどの詳細についてはわからなかった。電話を入れてみるとちょうどご両親のほうからも話したいことがあるということで金曜の午後、来てもらったんだ。それで事実関係ははっきりした。そしてご両親が二人を応援したいということも聞かされた。学校のほうでもできればそうして欲しいという意向も」
パパとママ、学校に来て、そんなことまで言ったんだ。
「でもそれからが大変だった。おまえ達が言うように大人は擦れてるからな、そんな簡単に答えは出せなかった。職員会議が開かれて、いろいろと協議がなされた。だが賛成・反対はそれぞれ正当な意見を言っていて、まとまらない。そんな中、おまえ達のストライキ。しかも全生徒を動かしたストライキだ。こんなこと前代未聞だった。俺たちもショックだったな。会長と副会長の恋が全生徒をひとつにまとめちまった。たかが子供の恋愛ごっこって思いもあったのかもしれないな」
「たかが恋愛ごっこで悪かったなぁ、おっさ~ん」
「まぁ、怒るな。でもそうじゃなかった。世の中に擦れた大人達より、おまえ達のほうがずっと純粋に恋ができるんだな。余計なものがないだけに全力で恋ができるんだ。その恋がおまえ達を支えて、これだけのことをやらかした。すごいパワーだったよ。本当に大人達は完敗だった。おまえらはすごいパワーを持ってる。それを教師だから、大人だからといって奪うことなどできない。結論はふたりのことを認める、だ」
「おーっ、俺達の勝ちだよなぁ」
「そうだ。おまえ達の勝ちだ。だがそのパワーを間違った方向で使おうとすれば俺達も全力でぶつかる。羽目を外すな。せっかく獲得した権利を失うな。いいな。それを守るのはおまえ達だ」
「センセっ、かっこいいこと言う!」
「ホントだぜ」
「いやいや、照れるなぁ」
わははははっ。
先生の一言にみんな大笑い。
「まっ、こういうことだ。お姫様。おまえ達がたかが風邪で死ぬ騒ぎをしている間に、おまえ達がこいつらを一致団結させちまったんだよ。後にも先にもこんな生徒会長と副会長はおまえらだけだろうな」
「私、なにも知らなかったんです。だって、急に熱出して倒れちゃってどうしていいかわからなくって。大騒ぎしちゃって。私達、なにもしてません。私なんて、特に……」
し~ん。
えっ、なにかおかしな事言っちゃったかな……。
「やだ、アリスってば、誰もふたりのこと疑ってないし、別に付き合ってるのになにかあったって文句言わないよ」
「えっ?」
みんながニヤニヤしてる。
や、やだ。
ち、ちが~う。
そういうこと言いたいんじゃなくって……。
「やだ、あの、そうじゃなくて、私も先輩もなにも知らなくて学校でそんなことあったなんて……みんながこんなにがんばってたなんて知らなくて……だから私達がみんなに何かしたとかそんなことないし……」
気持ちが高ぶってうまく言えない。
「そんなことないよ」
そう言って立ちあがったのは、今まで話したこともなかった桜田さん。
「そんなことないよ」
「おい、桜田。その理由を言わなくちゃな」
「はい。先生」
きりっと顔をあげて、まっすぐ私のほうを見てる。
「桐原さん、変わったでしょ? 最初、このクラスであなたを見たとき、こんな言い方、とても失礼だけど、勉強さえできればってタイプの人に見えた。話しにくそうな人だなって。でもそのくせ気になっていたの。私も自分から進んで人に話しかけるってことしなかったし……っていうか、話しかける勇気がなかったの。でも桐原さんが変わっていくの見てて、なんだか勇気が沸いてきた。あんな風に笑えばいいんだ。あんな風に泣けばいいんだって」
「おーい、泣き喚くのまで真似しないほうかいいぞ」
わははははっ。
「そ、それは私には無理だけど……」
「おい、間に受けるな、桜田」
どわっはっはっ。
「う、うん。でね、私も少しずつ変わろうって思った。怖いって思ったらなにも始まらないんだって。桐原さんのように少しずつ、話せる人を増やしていこうって。だから桐原さんのお陰なんです」
なんだか、とってもすごいことになっちゃったなぁ。




