no.30
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土日の連休が入って、宮川もすっかり元気になった。
「じゃ、今晩は快気祝いだな」
みんなで食卓を囲んでママの自慢料理を食べた。
「本当にお世話になりました」
改まって宮川が言った。
「もういい。アリスが世話になったからね。その傷で」
「やだっ、パパ、もうそれは言わないでよ」
宮川が学校での大騒ぎをパパに話しちゃったから、パパってば、そればっかり言って恥ずかしいったら……。
「でも、本当に宮川君のお陰よ。アリスが変われたのも。どんどん素敵な娘になっていくわ」
ママは涙まで浮かべて言った。
そうだよね。
先輩のお陰で、私すっごく変われた。
どんどん自分が好きになる。
楽しい食事が終わって、明日から学校だからと私達は早めに寝るように言われた。
「アリス、本当にありがとな。おやすみ」
頬にチュッとしてくれた。
元気になって部屋を別々にされて、ちょっと不服。
でもこんな近くにいるんだもん。
贅沢言ったら罰があたっちゃうね。
「うん、おやすみなさい」
私は自分の部屋に入った。
明日になったらもう先輩はいないけど、それでも大丈夫。
このベットに確かに先輩寝てたんだも~ん。
私ってばちょっとやらしいかな。
えへへっ。
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「学校は楽しいわよ。ふたりともいい友達がたくさんいて幸せね」
「なに言ってるのよ、ママったら」
「あらやだ、そうね。それじゃ、気をつけてね」
「はい、お世話になりました」
「じゃ、ママ、行ってきま~す」
二人で一緒に登校なんて最高。
「先輩、元気になってよかったね」
「そうだな」
「なんだかすっごく久しぶりに学校行くみたい」
学校が近づいてきて、ワクワクする。
こういう気分で学校に行くのなんて多分はじめて。
「アリス~~~、おにいちゃ~~~ん」
沙耶が手を振ってる。
でもなんでこんなところにいるんだろう。
「おっ、どうした、沙耶。こんなところで」
「待ってたんだよ。学校入るの、ちょ~っと待ってて欲しいんだ」
「なんでよ。私、早く学校行きたい」
「あと、5分だけね。待ってね」
ヘンなの。
「それにしてもお兄ちゃんもやりますねぇ、なかなか」
「なんだよ、その厭らしい目は!」
「だってだって~、アリスの両親に認められちゃったら、もうゴールイン近しってことでしょー」
「やだ、沙耶ってば、何で……」
「なんでそれを知ってるかってぇ? よく聞いてくれました。二人が学校休んでる間にまぁ、いろいろあったんですよぉ。それは追々話すとして、心配になっちゃってさぁ。それで電話して、ママさんに聞いちゃったのよぉ」
やだ、ママったら沙耶から電話があったなんて一言も言ってなかった。
「でさぁ、電話したとき二人で寝てたんだってぇ、きゃ~~~っ」
「おっおい!」
げっ、ママってば話しちゃったの。
「アリス、先輩が起きられるようになるまで絶対一緒にいるぅって、きゃははっ」
やっぱり~っ!
「ちゃかすなよ、もういいだろ」
「あっ、庇った庇ったぁ。アリスの幸せ者ぉ~~~」
「ったく」
「お~い、沙耶。こっちOKだぜ」
沖野が走ってきた。
「は~い。じゃ、行こう」
「ねぇ、沙耶。なにがあるの?」
なんだかとっても不安になってきた。
沙耶がいろいろ知ってるってことは、きっと学校のみんなにいろんな噂が広がっちゃったってことだよね。
一体どんな風に噂されてるの?
怖い……。
歩き出したけれど、すぐに足が止まっちゃった。
「どした、アリス」
振りかえって、宮川が訊ねた。
「だって、だって、怖いよ。やっとクラスのみんなと友達になれたって気がしてた。それなのに今行ったら、それがみんななくなってたらどうするの。私、前なら全然平気だった。でも、今はそんなの嫌だもん。みんなと友達でいたいもん」
ママだって出掛けになんかヘンなこと言ってた。
もしかして、あれって、何があってもがんばりなさいってことかもしれないし……。
俯いていた私の視界に宮川の靴が見えた。
目の前にいる。
ふわっと頭を抱きしめられた。
「なにがあっても、俺が守ってやる。沙耶もいる。もし友達になったばかりのやつらが、今そうじゃなくなってたら、また友達になればいい。だろ?」
「う、うん」
「涙止まるまでこうしてるか?」
「泣いてないもん!」
ムキになって顔を上げた。
左目にキス。
「ここにちょっと涙見つけ」
もぅっ!
「こらーっ、お兄ちゃん、そんなとこでいちゃついてないで、早くきなさ~い」
沙耶の声が聞こえた。
「ほら、行くぞ。手をつないでってやるから」
怖いけど、なんだかがんばれそうな気がしてきた。
先輩の手、おっきくてあったかいんだもんね。
それに沙耶があんなに笑ってくれてるもん。
それだけでいい。




