no.29
先輩が元気になった。
笑ってる。
話してる。
ここにいる!!
「アリス?」
「先輩はいつも、いつも強引で乱暴だけど、でも笑ってて、私が泣くと抱きしめてくれて、強いんだから。だから、だからもう絶対あんな風に寝ちゃったりしないで。絶対にダメ。強いんだから、絶対にダメッ!!」
なにを訳のわからないことを喚いているんだろうっと自分でも思う。
だけど口が開いちゃったら、もう止められない。
いつも、そう。
先輩の前だと、めちゃめちゃな自分をそのまま出しちゃう。
恥ずかしいけど、止まらない。
「私はわがままばっかり言って、泣いてばっかりで、先輩の前ではめちゃくちゃヘンで、迷惑ばっかりかけてるんだから。でも、先輩が大好きで、絶対いなくなったりしたら生きていけないんだから。だから、だから……」
はぁ、はぁ……。
「言いたいことは終わったか?」
まだある。
けど言葉が出てこない!
「俺はそういうおまえをかわいいと思う。側にいたいと思う。抱きしめててやりたいと思う。前にもそんなこと言ったと思うんだけどな……」
前髪を掻きあげた。
一晩泣いて、もう涙なんて出ないと思った。
だけどまだまだ溢れてくる。
「アリス……」
伸ばされた手に引き寄せられるようにして抱きしめられた。
「2日分、抱きしめてやるから、もう泣くな」
広い胸。
力強い腕に包まれて……。
やっぱりここが一番心地いい場所。
他に変わりなんてない。
なくなったら生きていけない。
一番大切な場所。
優しく髪をなでる大きな手。
これもなくせない。
「アリス……」
そっと顔を上げると唇が重なった。
柔らかくて、優しくて、あったかい唇。
これもなくせない。
う~ん、でもそろそろ離してくれないとやっぱり息ができないよぉ~~~。
じたばたしたら離してくれた。
「は~っ、く、くるし……」
「おまえねぇ、それ、色気なさ過ぎ……」
苦笑いして言う宮川。
意地悪な言葉だってなくせない。
ずっと聞いてたい。
見つめているとまた抱きしめられた。
「でも最高にかわいいぞ」
耳元で囁かれてくすぐったい。
耳にキスされた。
めちゃめちゃくすぐったい。
額に、瞼に、鼻に、頬に、首に……キスの嵐。
どこかに吹き飛ばされそう……。
ぎゅっと抱きしめられる。
フーッ。
「まだ力でないな……」
大きく息を吐き出して宮川は言った。
「ごめんな、もっとキスしてやりたいけど……」
な、なに、言ってんの!
はっはずかしいよ。
「いい。こうして抱いててくれればそれでいい。だからもう少しこうしてていい?」
「いつまでもどうぞっ」
耳元でまた囁かれて……。
コンコン。
コホンッ。
ドアをノックする音と重なるようにして、技とらしい咳。
「おわっ!」
宮川がいきなり逮捕するぞの瞬間の、犯人みたいに両手を上げた。
「どうしたの?」
宮川は、私の後方に釘付けになっている。
ま、まさか今の「コホンッ」は……パパ?
恐る恐る後ろに視線をやる。
「久々の抱擁なのに悪いが、風邪がうつるんじゃないかね」
ぎゃ~~~~~っ、やっぱりパパ!!
私は慌ててベッドから出ようとして、布団に絡まって顔から床に落ちてしまった。
「い、いったぁ~~~~~い!!」
「おっおい、大丈夫か、アリス!」
「アリス!!」
大丈夫じゃないよぉ。
は、鼻が痛いよお~~~~~っ。
ぐひっ。
「まったく、ほら、起きられるか?」
パパに腕を掴まれて、なんとか立ちあがった。
「い、痛い、鼻が、い、痛い……」
「悪い、悪い。脅かして悪かったよ、アリス。大丈夫か」
パパの大きな手が頭の上に置かれた。
「うん、うん」
プッ!
後ろで宮川が吹き出した。
振りかえると本当におかしそうに笑っている。
「どうした、なにがおかしい」
「いえ、おかしいんじゃなくて、わかったんですよ。意味が」
「なんの、意味だね」
「実は俺もアリスが泣いたとき、最初どうしていいかわからなくて、手を頭に置いたんですよ。そしたら子供扱いしてるってものすごく怒って……だからこれかって」
えっ?!
頭の上にはパパの手……。
いきなり髪をぐちゃぐちゃっとする。
「これは俺の癖だから。君らは別のにしなさい」
照れたようにそっぽを向いたパパがかわいく見えた。
ありがとうね、パパ。




