no.28
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「あら、宮川君、気がついたの。大丈夫?」
「すみません」
「いえいえ、あら、アリスったら寝ちゃったの?」
「はい。さっき俺が目覚ましたら、泣いてて、そのまま……」
「ごめんなさい。重いでしょ」
「あっ、いいですよ。このままで」
「でも……この体制だと結構苦しいと思うわよ」
「ははっ、そうですね。すみませんが、脚のほうもベットの上に乗せてやってもらえますか?」
「だけど、それじゃ重くて……」
「いいんです。多分、こいつ目覚ましたらまた泣くから……」
クスッ。
「おはよう、気分はどうだい?」
「あっ、アリスのパパよ。今は大学の教授なんてやってるけど、元はお医者さんだから」
「すみません。ご迷惑かけて……まだちょっと体に力が入らないんです」
「そりゃそうだろう」
「あっ、パパ、ちょっとアリスの体、ベッドにちゃんと乗せてあげてくれない。このままじゃ、目が覚めたとき、体動かなくなっちゃうわ」
立膝でベッドにうつぶせているような格好で眠っていた。
「なんてやつだ。ほら、しっかりしろ」
ふわと体が中に浮いた。
「行くぞ」
「あっ、パパ。連れてっちゃダメよ。ここに寝かせておいて。目が覚めたとき、宮川君が見えなかったら怖がるわ」
「すみません。わがまま言うようですが、お願いします」
「わかった。ただし、こいつは君の布団の上だ。君達はまだ高校生なんだからね」
「……はい……」
「じゃ、ママ、アリスに布団持ってきて掛けてやりなさい。それと君はちょっと熱測ってくれ」
……霧がかかったあちら側の出来事のように先輩とママとパパの姿が見えていた。
その後はもう何も見えなくなった。
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「アリス……アリス……」
う~ん……。
誰、私のこと呼んでるのは。
「アリス……そろそろ起きろよ」
う~ん……。まだ眠いよ。
ここ、気持ちよくて、寝心地いいの。
もうちょっと寝かせてよ……。
なんだか先輩の声やママの声が聞こえて、それも気持ちいいの。
「ダメみたいですよ。もう少しこのまま寝かせといてやりましょうよ、お母さん」
「でもね、丸1日よ。あなたがこんなに元気になったっていうのに。シーツも取り替えられないわ。それにパパがどんな気持ちでいるか。そろそろキレるわよ。怖いんだからっ」
「あの、そんなに怖いんですか?」
「やっと二人のこと納得したのに、こんなことしてたらもう嫁にはやら~んとか言いそうよ」
コホンッ。
「きゃっ、パパ!」
「いいから寝かせときなさい。二晩も一人で留守番したんだ。その疲れもあるだろうし」
「そうだけど……」
「それに指の傷、結構深いな。こいつ死ぬ騒ぎだっただろ。君も大変だっただろうな。目に浮かぶよ」
「いや、あははっ。驚きましたけど。かえってこっちが冷静になれましたよ」
「百年の恋もさめたんじゃないか?」
「……いえ、その逆です……」
優しく私の髪、なでてくれてる。
気持ちいい。
フフッ。
「やだ、アリスったら笑ってる。まったく能天気なんだから。女の子って自覚全然ないわね」
「そりゃいいね。まっ、気がつくまで寝かせとけばいいさ。君もまだ横になってたほうがいいぞ。こいつに付き合ってるとまた熱がぶりかえす」
「はい」
みんな楽しそうに笑ってる。
いいなぁ。
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「う~ん……」
「アリス、目が覚めた?」
「うん?」
目を擦って顔を上げた。
宮川の微笑んでいる顔がある。
えっ、なに、なんで?!
「やっと覚めたようだね、眠り姫は」
「えっ、せ、先輩、ね、熱は、熱はぁ?」
ガバッと起きあがると宮川の顔をじっと見つめた。
「もう全然平気だ。おまえが寝てるうちにふっ飛んじまった」
「えっ、なんで、なんで?」
「おまえ、一日半以上ここで寝てたの。俺が着替えても、往診の医者に診察されてても、おまえここで寝てたんだぜ」
うっうっそ~~~~~っ。
「パパとママは?」
「お父さんは仕事に出かけた。お母さんは買い物に行ったよ」
う、浦島太郎の気分……。
「でも、でも、なんでもいい。先輩、本当にもう元気なの?」
「見たらわかるだろ。おまえが体拭いてくれたり、一緒に寝ててくれたから、ね。早く治った」
カ~~~ッ!!
体の水分蒸発しちゃいそうだよぉ。
「アリス、ごめんな、心配かけて」
髪をなでられた。




