no.25
な、なんだか熱い。
ドキドキがまた始まった。
抱え込んだ私の頭に乗せてる額。
ちょっと荒くて熱い息が耳まで届く。
少し怖い……。
部屋に入ってドアを閉めた途端、宮川が私を抱きしめた。
い、痛いよ、先輩。
どうしたの?
「先輩……」
宮川の重みで二人して床に倒れた。
咄嗟に宮川が私の頭をかばったから、どこも床に打ちつけずにすんだ。
けれど宮川はどこかぶつけたんじゃないだろうか。
「せ、先輩。どこもぶつけなかった。ね、大丈夫?!」
「いいから黙ってろ」
えっ、先輩……。
唇が首筋に触れる。
熱い吐息が降りかかる。
怖い……。
「せ、せん、ぱ、い……」
どうしちゃったの。
こんなこといきなりして、先輩!!
唇がゆっくりと移動する。
しっかり両肩を掴まれて動けない。
でも怖い。
「や、やだ……先輩……やっ!!」
思いっきり宮川の胸を両手で突いた。
やっと離れた宮川は、私の目の前で仰向けになったまま、荒い息をしている。
ヘンだよ、先輩……。
「ア、リ……ス……」
ハァハァ。
「先輩、ね、先輩!!」
宮川の体に触って、改めてその熱さに気付く。
なに、もしかして熱があるんじゃっ!!
慌てて額に手を置いた。
ものすごく熱い。
「やだ、先輩。しっかりして、ね!」
ど、どうしよう。
と、とにかくこのままじゃダメだよね。
寝かせなくちゃ。
「先輩、お願い、立って。ベッド、ここにあるからそっちに動いて、お願い」
腕を引っ張って上半身を起こすと、ふらついた宮川をなんとかベッドに登らせた。
「先輩、ちょっと布団……」
体の下になってしまっている布団を引っ張り抜く。
宮川の体をごろんとやって中央に仰向けにした。
「やった、寝られた。えっとあとは……」
「わりぃ、アリス……。昨日、帰りに雨に濡れて……すぐシャワーあび、て……着替えればよかったん、だけど……のまま……」
苦しそうに息を繰り返す宮川。
「苦しいの、先輩。あっ、制服のままじゃ、苦しいよね。……で、でも……えっととりあえずベルトだけ外すね」
震える指でなんとかベルトを抜き取った。
「あとは私じゃ、できないよ。どうしよう。ごめんね、先輩」
とりあえず布団を掛ける。
そして下に駆け下りた。
まず凍り枕、タオルに包んで。
それから体温計。
テーブルの上に出したままになっていた救急箱から、それをとると走りあがる。
「先輩、ちょっとごめんね」
そう言って頭をあげて凍り枕を頭の下に置いた。
えっと熱測らなくちゃ。
震える手を叩いてから宮川のシャツのボタンを外した。
なんとか脇の下に挟んで、また階段を駆け下りる。
洗面器に水を入れてタオルも持って今度は静かにあがる。
「これで冷やすからね。ちょっと待ってて」
ぎゅっと絞ったタオルを額にそっと置いた。
ピピッピピッ。
電子音がして、脇の下からそっと体温計を引き抜く。
39度8分。
どうしよう、すごい熱。
汗もすごいよ。
このままじゃ、濡れててだめなんだよね。
でも着替えは……。
パパ、ママ、早く帰ってきてよ。
祈るようにして、ベッドに着いていた。
******
長い長い時間だった。
玄関のドアが開く音がして、私は駆け出した。
「ママ、パパ、助けて。先輩が死んじゃう!!」
「なに、言ってるんだ」
「先輩が死んじゃうよぉ~~~っ」
「おいっ、しっかりしなさい。どうしたんだ!」
「宮川君がどうしたの、アリスちゃん!!」
「すごい熱で……どうしよう、ねぇ、どうしよう」
「二階かっ」
「うん」
駆け上がっていくパパの足音が背中に響いた。
「アリスちゃん、いらっしゃい」
「うん」
私はママに支えられて部屋に入った。
「こりゃ、またすごいな。アリス、熱は測ったのか」
「うん。39度8分だった。でもそれからもっと上がったような気がする。苦しそうなんだもん」
「落ち着け。ママ、このままじゃダメだ。僕の新しいパジャマと下着。アリスは洗面器にあったかいお湯とタオル!」
「はい! ほら、アリスちゃん、しっかりして。パパももとはお医者さんなんだから、大丈夫よ。パパの言うとおりにしましょう」
「うん」
下に下りて、洗面器をお風呂場から持ってきた。
タオルも出した。
だけどあったかいお湯って、どのくらいあったかければいいの?
「ママ、ママぁ~~~」
「なに?」
パジャマを抱えたママが飛んできた。
「お湯ってどのくらいあったかければいいの? わかんないよ」
「貸して」
お湯の加減をしてから、ママはパジャマを持って走り出した。
「半分よりちょっと上くらいになったら止めて持っていらっしゃい」
「うん」
さすがにもと看護婦。
いつもオロオロしてるママでもこういうときは違う。
そして……。
なんて頼りない私。




