no.24
「はい。コーヒー入り……入ったよ」
さっきからずっとそうして外眺めて、なに考えてるの?
どうしちゃったの?
「サンキュ。救急箱持って来いよ」
ドッキ~ン!!
やっぱりやるの?
やだなぁ、と救急箱を持ってきても、まだ往生際の悪い私。
「コーヒー、ちょっとそっちにやっといたほうがいい」
「えっ、やだ、もうあんなに暴れないよ」
じーっと見つめてる疑いの目。
「はい。じゃ一度、キッチンに戻しま~す」
私はひとつずつカップを持って、キッチンを往復した。
「ここに座れ」
宮川の正面に座る。
「あの、夜でもいいかなと思うんだけど、ダメですか」
「ダメ! 早く済ませちまわないとおまえを押さえきれなくなりそうだ」
へっ?
「ほら、手!」
「は、はい!!」
あっ、叱られる、と思ったけど、返事に気付いてないみたい。
差し出した手が震え出した。
やっぱり結構怖い。
思いっきり目をつぶって、膝の上に握りこぶし。
「怖いのか?」
私は頭を思いっきり振った。
「怖いなら怖いって言っていいんだぞ。もう誰も見てないんだ」
大きな手が頭にポンと乗せられた。
我慢してたのに涙溢れちゃったじゃないよ。
優しい言葉なんか掛けるから。
「それじゃ辛いだろ。ほらっ」
顔を上げると大きな背中が目の前にあった。
「俺にしがみ付け」
「え?」
「右腕でしっかりしがみ付け。どれだけ力入れたっていいし、叫んでもいいぞ。ただし、左手だけはいいと言うまで動かすな」
「……うん」
宮川は私の左腕を脇の下から前に出した。
「いいか?」
「……うん」
私は右腕を精一杯広げて、宮川の背中に抱きついた。
そっと包帯が外されていくのが感触でわかる。
痛くない、痛くない。
先輩がやってくれてるんだから、痛くない。
「い~~~~~っ!!」
「我慢しろ、早く終わらせるから」
「う゛~~~~~っ」
歯を食いしばって右腕に力を込める。
痛くない、痛くない。
繰り返しおまじないのように言い聞かせて。
「く~~~~~~っ!!」
「よし、薬つけ終わったからあとは包帯巻くだけだからな。よくがんばったな」
「でもまだ痛いよ~~~~っ」
「ああ、すぐ巻き終わるから、ちょっと待ってろ」
もう終わる。
もう終わる。
「ほら、終わったぞ。よくがんばった。ご褒美」
顎にすーっと手が差し伸べられて、ゆっくり顔を上げられる。
クスッ。
うっ、また泣き虫の顔、見られた……。
「ご褒美の痛くなくなるおまじない……」
そういってそっとキスをくれた。
うっうっ……。
今頃になって涙がどわっと溢れてきた。
「今頃、泣く奴があるかよ」
「だって痛かったもん。本当は怖かったもん。嫌だったもん」
「わかったわかった」
そう言って抱きしめてくれた。
なんだかこの心地良さに味をしめちゃったみたい。
泣くと抱きしめてもらえるって、それでほっとできるって思えちゃう。
なんだか今日の先輩はすっごく優しいね。
そしてなんだか熱い……。
「あっ、コーヒー冷めちゃったかな」
「いいよ、それで」
「うん」
さっき入れたコーヒーを持ってくる。
テーブルの上に置いて手を引っ込めようとしたらいきなり掴まれた。
なに?
後ろに立っている私を、振り仰ぎながら宮川が呟いた。
「おまえの部屋に行きたい」
えっ?!
「おまえの部屋に行きたい」
どうしちゃったの?
先輩。
振り仰いでる表情がなんだか虚ろで妙な感じ。
「おまえの部屋に行きたい」
「う、うん。いいけど……」
立ちあがった宮川がふらついた。
「大丈夫ですか、先輩。どこか具合でも……」
「なんでもねーよ。いいから……」
「う、うん」
宮川は左腕でしっかり私の頭を抱え込むようにして階段を上った。




