no.22
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保健室について……。
「おや、また大胆な格好でお出ましですな。どうした?」
「こいつ、昨夜包丁で指切ってさ。そん時手当てはしたけど、一応見てもらえるかな」
「はい。じゃ、そこに座って」
うっうっ、やっぱり嫌だ。
触られたら痛い。
「や、や……やだぁ」
「こら、往生際が悪いぞ、アリス。座れ、こらっ」
肩から降ろされて、慌てて逃げようとしたけれど、しっかり捕まってしまった。
「これはこれはお姫様は随分弱虫ですな。じゃ、旦那、しっかり押さえ込んでてくださいよ」
「ぎゃ~~~、やだ、やだ」
「ほれ、もう喚こうが叫ぼうが終わりだ。観念しろ」
しっかり抱きかかえられて腕まで押さえられちゃった。
「触んないで……怖いよ。痛いから触っちゃやだよ。痛い、痛いってば、やめてよ~~~。ぎゃ~~~~っ!!!」
喉がかれるほど叫び続けて、それでもジンジン指先の痛みが伝わってくる。
「痛いよ、痛い……やだよ……」
「ほら、もう終わってるよ」
ふっと押さえつけていた腕が離れていった。
「よっと」
椅子に座った宮川に抱っこされるような形で座らされた。
私は左手を右手で包むようにして痛みを堪えてた。
「終わりだよ、お姫様。それにしてもここまで臆病だとはねぇ。小学生以下! はじめて見たよ、こんな患者。旦那も大変だ」
あっはははっ。
医務の先生は豪快に笑った。
しっかり抱きかかえてくれてる宮川も息が切れているのがわかった。
苦しそう。
でも怖かったんだよ。
いやだって言ったのに。
「傷は大したことないな。そのうち肉もついちゃうよ」
「肉、なんて生生しい言い方しないでください!!」
吠えるようにして叫ぶ。
「ほぉほぉ、かわいいお姫様。いつまでも怒ってないの。かわいいのが台無しだよ。旦那に感謝するんだよ。怪我してすぐ手当てしてもらったんだろ」
「世話掛けたな、センセ」
「いやいや、ほんとだ。もう怪我なんかさせないでほしいね。消毒は朝晩したほうがいいな」
ぎょっ!!
「ほら、立てるか。授業始まるから行くぞ」
震える足で必死に立った。
これ以上醜態をさらして、また笑われるのは嫌だ。
けど足、がくがくだよぉ。
よれよれになりながら、それでも教室まで戻ってきた。
といっても腕を宮川に支えられてなんだけど。
「おーっ、ご帰還だぞ」
教室中の視線が集まった。
もう教壇には担任の姿がある。
ポイッと教室に入れられて、後ろでドアが締った。
「どうした、桐原」
「あっ、あの、ちょっと指切っちゃって。ほ、保健室に」
痛みを和らげるために上げている手をひらひらっとさせた。
「大丈夫なのか。さっさと席につけ」
「は、はい」
そそっと席に座った。
みんなの視線が痛いよぉ。
指もまだ痛いよぉ。
涙にじんできそう。
「大丈夫、アリス」
沙耶が小声で言った。
「う、うん」
先生がホームルームの続きをはじめたけれど、それは長く続かなかった。
プッ!
一人が吹き出した。
「なんだ、刈谷」
「センセー、俺、もう我慢できねー、がはははっ」
「あっあたしもぉー、きゃははははっ」
ぎゃははは、わはははっ、がははははっ……。
教室中が笑いの渦になった。
穴があったら入りたいよぉ。
「沙耶まで笑わなくてもいいじゃない……」
「だって、仕方ないよぉ。許して。これはちょっとやっぱり我慢できない」
涙堪えてまで笑ってる。
「でも桐原ってほんっと変わってるよな。おもしれーよな」
「ほんっとによー」
「一体なんなんだ、おまえたちは!」
「あっ、センセー、俺が説明します。俺が」
説明なんてしなくていい!
耳打ちされた先生の表情が見る見るうちに変わっていく。
「なんだ。それじゃ、さっき職員室の外で大騒ぎしてたのは桐原だったのか。保健室からもすっごい叫び声聞こえてたぞ」
「そうそう、ここまで聞こえたもんな。学校中に響き渡ってたぜ」
もう、やめてよぉ。
「ほらぁ、泣かないでよ。みんなアリスがかわいくて笑ってるんだから、ね」
嘘ばっかり。
おもしろがってるんじゃないよ。
くすん。
その日一日、私は学校中の生徒の視線を集めてしまった。
「副会長が……指の包帯かえるのに泣き喚いて……」
そこここから聞こえてきた。
副会長ってことで誰にでもわかっちゃうところがまた悲しくもあった。




