no.20
「く、苦しい」
「わ、わりぃ」
前髪を掻きあげる宮川の顔が真上にあった。
なんか真っ赤だよ。
「そんなに見てんなよ。わかったか、俺の言ったこと」
「へっ?」
「ったく。そんな顔して見上げんじゃねーよ」
宮川の膝についていた切ったほうの手が今になって痛くなった。
「い、いちゃ……」
フーフー。
息吹きかけて治るものでもないかな。
でも無意識にそうしてた。
「痛いのか?」
そっぽを向いていた宮川が振り返って手を押さえた。
「上にあげてろ、すぐ楽になる」
「う、うん」
痛いのと訳のわかんない気持ちとなんだか、めちゃくちゃだ。
ぐすん。
「すぐ収まる……」
「うん」
切った左手を上に押さえられて、宮川の体が私の目の前にあった。
それがすーっと近づいて、そっと頭を抱え込まれた。
後ろにソファの背があって身動きが取れない。
ドキドキが苦しくなって、手の痛みを忘れられる。
ホントにすぐに痛くなくなっちゃったよ。
でも今度は胸が苦しいよ。
「アリス……」
「うん?」
顔を上げると目の前に宮川の顔。
ドキドキがどんどん激しくなって……。
近づいてくる顔に……。
うわぁ~~~っ、先輩の前髪、触れてるよ。せ、せんぱい~~~。
唇が触れた。
キっ、キスしてる!
しちゃってる!
うわぁ、うわぁ。
焦ってる心とは裏腹で体はなんだかとろけてしまいそう……。
で、でももう離して。
息ができない。
く、苦しい~~~っ。
「うっ」
やっと離れて抱きしめられた。
「アリス……好きだから側にいたいんだよ……わかったか」
耳元で囁かれた。
くすぐったい。
「わかったか?」
「うん、うん」
抱きしめられてなんだか壊れそう。
でも涙が出てきた。
わぁわぁ出てきて止まらなくなった。
「私も先輩が好き。好き……」
頭の中で考えるより先に言葉が口から出ていた。
好きだからドキドキが苦しくて辛かった。
二人きりだったのが苦しかった。
恥ずかしいことがたくさんあった。
知られたくないことがたくさんあった。
でも側にいたかった。
いつも声を聞いていたかった。
いつの間に好きになったのか、自分でもわからない。
でもいつからか一緒にいたいって思うようになった。
ドキドキして苦しくなるのに一緒にいたいって思ってた。
先輩が好きだから……。
溢れて止まらなかった涙が、いつのまにか止まっていた。
宮川の鼓動を感じて、静かな時間が流れていた。
「そろそろ離してくれるか。遅くなったし、帰らないとな」
きゃ~~~っ、いつのまにかしっかり抱き着いてたりして。
は、恥ずかしい~~~!!
慌てて離れて顔を覆った。
ふう~~~~~っ。
宮川は大きく息を吐きながら、前髪を掻きあげた。
「あっち~。その分ならもう痛くないな。俺、帰るから。大丈夫だろ?」
なんだか随分暑そう。
「うん」
「じゃ、明日も来るから。俺が出たら玄関の鍵かけろ。いいな。もう余計なことしないで寝ろよ」
「うん」
靴を掃いている後ろに立って頷くばかり。
言うこときかなくちゃ。
もう迷惑かけたくない。
立ちあがった宮川が振り返る。
玄関と廊下の段差がかなりあるのに、まだ宮川のほうが背が高い。
上目で宮川を見つめて
「大丈夫です」
その一言を言うのが精一杯だった。
「アリス……」
ドキン。
なんだか名前を呼ばれるだけでもドキドキ。
「おやすみ」
耳元で聞こえたかと思うとそっと耳にキスされた。
きゃっ、くすぐったい。
パタン。
やだ、おやすみ言えなかった。
あっ、鍵、鍵。
ガチャッ。
これでいいんだよね。
えっとあとは余計なことしないで寝るっと。
じゃ、シャワー浴びて寝よう。
うん。
シャワーだ。
……と歩き出そうとして、がくがくした足がもつれた。
頭の中を必死で別のことに集中させようと思っても、やっぱりダメみたい。
嬉しいよぉ~、でも力入んないよぉ~。
ふぇ、ふぇ……。




