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ありす☆らぶ  作者: 湖森姫綺
19/156

no.19

 ******



 リズミカルに包丁の音がする。

 お皿を出す音。

 水が流れる音。

 なんだかママがいるみたい。


 RRRRR……。


「はい、桐原です」

『あっ、アリスちゃん、今朝はごめんなさいね。電話し忘れちゃった』


「マ、ママ~~~っ」

『ど、どうしたの?』


「指、包丁で切っちゃった」

『え~~~っ、で、大丈夫なの。だからお料理しないで買ってきなさいって言ったじゃない。ね、大丈夫なの?』


「うん、宮川先輩が手当てしてくれた」

『えっ、宮川君、来てるの?』


「うん。コロッケ持ってきてくれた」

『もしかしてお料理、宮川君にやってもらってるの?』


「だって、痛い」

『仕方ないわねぇ。宮川君に代わって』


「うん」

 私はキッチンに行った。


「あの、ママから電話なんですけど、先輩に代わって欲しいって。大丈夫ですか?」

「おう、わかった」

 手を拭いた宮川に電話を渡した。


「もしもし、すみません。勝手に……いえ、俺のほうは全然……はい、はい……はい、わかりました。それじゃ、帰り気をつけて」


 なにを話したのかな……。

 電話を渡されて、私はリビングに戻りつつ……。


「もしもし」

『あっ、アリスちゃん。帰り明日ね、遅くなるから。明日も宮川君に頼んだから、あなたは包丁触らないで。これ以上怪我されたらママ、落ち着いていられないもの』


「ちょっ、ちょっとママ、またそんなこと言って。迷惑だってばっ!」

『OKしてくれたわよ。まったく危ないったら。とにかく明日、夜遅くなっちゃうから先に寝てなさいね。じゃ、くれぐれも包丁触らないでね』


「ママ、ママ!」


 ツーツー。


 まったく勝手なんだからぁ。

 私は電話を置いて、キッチンに行った。


「すみません、またママがなにか言ったみたいで」

「いや、俺も料理しに来たほうが落ち着く」


「先輩までひどい!」

「いいから座れ。できたぞ」

「う、うん」


 ちゃんとお皿に千キャベツが乗ってて、プチトマトも飾ってある。

 コロッケが二つ乗ってて、それも食べやすい大きさに切ってある。


「お味噌汁まで作ったの?」

「勝手に使って悪かったな。ワカメあったしよ」


「すごいです」

「別にすごくないと思うよ、俺」


 呆れた顔をして、ご飯を分けてくれた。


「ほら、食え。ソースかけるぞ」

「うん、いただきます」


 ソースまで掛けてもらった。

 なんか至れり尽せりって、こういうこと言うんだよね。


「手、もう痛くないか」

「うん、もう大丈夫みたいです」


「そっか」

 なんかぶっきらぼうな言い方だけど、心配してくれたんだよね。


「心配かけちゃって、すみません」

「謝ることはないけどね」


「おいしい、これ」

「だろ、冷めてもうまいんだよ、このコロッケ」


「あ、あの、お味噌汁もおいしい、です」

 なんか自分が恥ずかしくなっちゃった。


「うまいと思ったら素直に食え。余計なこと考えるな」

 なんで見透かされちゃうんだろ。



 ******



 食事が終わって、片付けはいいというのにキッチンから追い出されて、リビングにポツリン。

 水の音がしてて、片付けまでやってくれてるのがわかる。

 どんどん落ち込んじゃうよ。


「終わりっと。勝手にコーヒー入れてきた。ほれ」

「あっ、ありがとうございます。すみません。何から何まで」

「だから謝ることないって。怪我されるよりいい」


ぐすん。


「どれ、見せてみろ」

 包帯が巻かれた指をまじまじと見る。


「大丈夫そうだな。血もにじんでないし、止まったみたいだ」

 コーヒーを一口飲むとまたドサッと私の右隣に座った。


「明日も来てやるから、包丁触んなよ」

「やだ、ママと同じ事言ってますよ」


「おまえがドジるからだろ。また怪我されちゃ、こっちの身が持たないよ」

「ごめんなさい」

「だから謝んなくていいって」


 いきなり頭を抱え込まれた。

 い、息、苦しいですよぉ~~~。


「おまえと飯が食えた。それだけでいい。怪我したとこにいて本当によかったって、ほっとしてる。かわいい泣きべそかいてるおまえを見られて、よかったと思ってる。わかったか」


 それってなに?

 よくわかんないよ。

 私は「うん」って返事すればいいの?

 なんて返事すればいいの?


 で、苦しいんだってばぁ……。

 じたばたしたら抱きしめてた腕が解けた。

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