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ありす☆らぶ  作者: 湖森姫綺
18/156

no.18

 ******



「今夜は早く寝るんだからね。寝不足は美容の敵だよ」

「はいはい。わざわざ送ってくれてありがとう。沙耶」


「じゃ、また明日ね」

「うん、またね」


 自分で鍵を開けて入る家。

 お帰りを言ってくれるママがいない。

 しんと静まり返って、なんだか家じゃないみたい。

 私は部屋に入って着替えを済ませた。


 昼間寝ちゃったせいか、余計眠気が抜けない感じ。

 少し寝ちゃおう。


 2時間くらい寝たのかな。

 気がついたら外はもう暗くなっていた。


 今夜はなに、食べようかな。

 昨夜は用意していってくれた食事をしたけれど、今日は自分でなにか作らなくちゃ。


 でも今まで料理なんてしたことないんだよね。

 なにか買ってきて食べようかな。


 そのほうが安全かも。

 ママにも言われたし。


 私は財布を持つと外に出た。

 すると門のところに誰か立っている。

 街灯がその向こうにあって顔が見えない。


「おいっ、俺だ。いたのかよ。電気ついてないからいないのかと思った」

「宮川先輩?」


「ああ。ほれ、食いもん、買って来たぞ。今日もお母さん、いないんだろ」

「う、うん」


 袋を手渡された。


「そこのコロッケ、結構うまいんだよ」

 前髪を掻きあげる宮川。


「ありがとう。ご飯はあるんです。先輩も食べていきますか?」


 抱えた袋から暖かさが伝わってきた。

 嬉しくて思わず言っちゃったけど、他になにもないんだよねぇ。

 どうしよう。


「そんじゃ、俺も食う」

 あははっ、やっぱり。


「どうぞ」

 困った、困ったぁ。


 宮川をリビングに待たせて、私はキッチンに入った。

 さて、どうしよう。


 まずはコロッケ買って来てくれたんだから、キャベツでも刻んで乗せればいいのかな。

 冷蔵庫から出したキャベツを刻み始めた。

 焦ってるから余計思うように刻めない。


 学校じゃ、すました顔して調理実習とかしてるけど、実は家じゃやったことがない。

 というか、実習の前に自分が担当するところだけママに教えてもらっていたんだ。


 どうも料理だけは努力しても、うまくいかないらしい。

 それでも中学のとき、実習だけは完璧にこなしてたんだよね。


 いっいたっ!


 カチ~ン!!


 ほ、包丁が落ちたぁ~~~!

 足は痛くないもんね。

 だ、大丈夫だ。

 ほっとして座りこんだ。


「おい、なにやってるんだよ!」

 飛びこんできた宮川が慌てて私の腕をつかんだ。


「切ったのか?」

「うっ、うん。い、痛い……」


 なんかこのシチュエーション、前にもあったよね。

 恥ずかしい。


「ったく、ほれっ」

 ぱくっと切れた左の人差し指をくわえた。


 ぎゃーーーっ、またぁ!!


 私の指をくわえたまま、落ちている包丁を流し台に置いた。

 

 体ががくがくする。

 震えがとまらない。

 離して……。

 息ができないよ。


「救急箱はどこだ……こらっ、救急箱!」

「うっ、リビングのサイドボードの上……」


「立てるか?」

「うん」


 立ったとたん、また指をくわえられて、力抜けてヘナヘナ座りこんでしまった。


「なに、やってんだよ」

 だって指、指……。

「よっと」


 ぎゃ~~~っ。

 だから抱っこも嫌だぁ~~~!!


「こらっ、指、ひっぱるな」

 指くわえられて、抱っこされて……もうくらくらする……。


 ソファーに下ろされても心臓バクバク。

 息切れて、眩暈がする。


「よしっ、じっとしてろよ」


 血が止まらない指をティッシュでくるんで押さえる。

 痛い。

 じんじんする。


「しばらく押さえてろ」


 宮川は、救急箱を持ってくるとしばらく出血の様子を見ていた。

 出血が収まってきたのを見て、テッシュを広げてその上に私の手を置いた。

 マキロンを出して私の手を押さえたまま、シュッシュッ。


 びぇ~~~っ、し、しみる!!


「がまんしろ。すぐすむ!」

「い、いちゃい、い~~~! やだぁ~~~っ。離して、離してぇ~~~! いちゃ~~~っ!! ぎゃ~~~!!」


 わからないことを喚いているうちに包帯まで巻いてくれた。


「バカ。もう終わったよ」

 宮川は、ドサッと右隣に座って大きく息を吐いた。


 でも、ジンジン痛い。

 ふぇっ、ふぇっ……。

 痛いのも実はものすごく苦手だったりするのだ。


「ほら、かしてみろ」


 左手を取るとそっと胸に当ててくれた。

 引っ張られたから体までしっかり傾いちゃって、なんか苦しい体制。


 肩を抱いて引き寄せてくれた。

「このほうが楽だろ」


 確かに。

 寄りかかっている感じで体は楽。

 

 でも楽だけど楽だけど……きゃ~~~っ。

 私ってば、むちゃくちゃ恥ずかしい。


「バカだな。こんなに切るなよ。指先だから結構痛むだろ」

「う、うん」


「でもいちゃいか、ははっ。かっわいい奴」

「わ、笑わなくてもいい、じゃないですか……」

「かわいいっていってんだよ。すぐふくれるな」


 言葉が途切れるとドキドキが激しくなる。

 ど、どうしよう。

 こんなのやっぱり恥ずかしいよ。


「も、もう大丈夫で、す」

「もう少しこうしててやるよ。黙ってろ」


 黙ってると心臓の音まで聞こえちゃいそうなんだもん。

 でも宮川の胸に押し当てられた頬から宮川の心臓の音も伝わってくる。

 ドキドキしてる。

 

 ごめんなさい。

 大騒ぎして……。


 恥ずかしくてドキドキが苦しかったはずなのに、いつのまにか収まってた。

 なんだかあったかくて落ち着く。

 不思議な感覚。


 私の頭を抱えている宮川の腕に力が入った。


 なに?

 ふわっと頭の上になにか触れた。


 な、なに?

 ドキドキ再熱!!


「よっと、仕方ない。俺が飯、作るか」

 いきなり立ちあがってキッチンに入っていく宮川。


「手、心臓より上にあげとけよ。そのほうが痛みがない」

 振り返りもしないでそう言って、キッチンに入ってしまった。


 手を上げとけばいいのか。


 でもさっきのなんだったのかな。

 ドキドキ、また苦しくなっちゃったよ。

 ほぇ~~~っ。

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