no.153
RRRRR……。
また電話がなった。
今度はスマホ。
玲菜からだった。
『アリス、暇してるんでしょ~。遊びにおいでよ』
「えっ、でも玲菜、バスケでしょ?」
『うん。そうだけど。練習見においでよ。少しは外に出ないとダメだよ』
「うん、わかった。じゃ、行くね」
私は、昼食を済ませてから、学校に行った。
体育館では、バスケ部の練習が行われていた。
そっと入っていくと、ボールの入った籠の横に立っていた玲菜が手招きをした。
私は手を上げて、玲菜のもとへと行った。
「気晴らしになるでしょ。外に出ると」
「うん、ありがとう」
二人で壁を背に座った。
練習している彼らの熱気が伝わってくる。
「童話のほう、どう?」
「う~ん、そう思うようにはいかないかな」
「だよね。童話を勧めた私としては、力になりたいけど。私にできることある?」
「う~ん。こうして外に連れ出してくれることで、十分だよ」
沙耶の優しい笑顔が嬉しかった。
沙耶になら、相談できるかな。
「私でできることなら、力になるから。言ってね」
「ありがと。一つ、相談してもいい?」
「何?」
「えっとね……」
言葉を探す。
どう話したらいいのかな。
「大道寺先生のことなんだけどね」
私は赤城から話されたことを玲菜に話した。
「あのさぁ、それって、向こうの都合だよね。アリスは優しいから、悩んじゃうんだろうけど、速攻断るべし!」
玲菜は、厳しい視線を私に向けた。
私は言葉が継げない。
もちろん赤城の言うように大道寺の側にいることなんてできないのはわかっていたけれど。
「アリスはお兄ちゃんと結婚してるわけでしょ?」
「うん」
「大道寺先生がアリスに好意をもったとしても、それは受け入れられないことでしょ?」
「うん」
「だったら、距離を保つべきだと思うな。アリスがモデルになることは、まぁ、仕事のお手伝いとしてしてもいいかもしれないけど、それ以上のことは、できないってことは、ちゃんと明白にしておかなくちゃいけないと思うよ」
「うん」
「話しちゃったら。お兄ちゃんと結婚してるってこと」
「えっ?」
「編集社の、何って言ったっけ? ああ、金倉さん。この人にも話しちゃった方がいいんじゃない? 内緒にする意味ないと思うよ」
「そっかな」
基樹と話をして、まだ高校生だし、内緒にしようって話にはなったけど。
「とりあえず金倉さんに話してみて、公表するかどうするか決めればいいじゃん。信頼できる人なんでしょ?」
「それはもちろん」
「だったら、黙ってないで話しちゃいなよ。それと大道寺先生にも信頼できる人なんでしょ?」
「うん」
「じゃ、大道寺先生にも話していいんじゃない?」
「う~ん」
金倉には話しても問題ないかもしれない。
でも大道寺に話すのは、躊躇われた。
傷つけてしまうのではないか。
個展の為にモデルを頼まれたのに、それに支障が出たりはしないだろうか。
「大道寺先生って、ナイーブなんだよね。話したら、傷つけちゃうんじゃないかって、思えて」
「アリスもナイーブだよ。いい。大道寺先生はいい大人だよ」
「そうだけど」
「アリスを大切に考えてくれてるんだったら、アリスが悲しむようなことはしないって。それが本当の大人でしょ」
ピーっ。
そこでホイッスルがなって、バスケの練習のほうが休憩に入った。
玲菜は、手を上げて、皆のもとに行ってしまった。
タオルを手渡したり、ドリンクの用意をしたり、忙しそう。
頑張ってる皆の汗がキラキラ輝いて見えた。
皆、今、バスケのことだけ考えているんだよね。
だからこんな風に輝いて見えるんだ。
私も童話で頑張ろうと思ったんだよね。
だったら、童話のことだけ、考えていたいな。
15分の休憩が終わって、皆はまたコートに出て行った。
沙耶が戻ってくる。
「ごめんね、忙しくて」
「ううん、皆、いい顔してるね」
「バスケ馬鹿の集まりだもん」
そう言って、玲菜は笑った。
「私も一つの事だけ考えていたいな」
「うん?」
「童話の事だけ、考えていたい」
「なら、行動するのみよ」
玲菜に話してよかった。
ここに来てよかった。
皆がまっすぐ同じ方向を見ているから、輝いて見えるんだよね。
私も童話を書いていくって決めたなら、それに力を注ぎたい。
しばらく玲菜と雑談して、私は家に帰ってきた。