表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ありす☆らぶ  作者: 湖森姫綺
151/156

no.151

 ****** 



 家に帰ってみると基樹はまだ帰っていなかった。

 いつもは夕方には帰ってくる。


 基樹は夏のゼミをわざわざ昼間だけでこなせるところを探したのだ。

 私が夜一人にならないために。

 だからいつも夕食の用意をするころには帰ってきて、結局は基樹が食事の用意をする毎日だった。


 それなのに今日はもう9時を過ぎているというのに帰っていない。

 どうしたのだろう。


 不安になった。

 こんなことは始めてだった。


 でもしばらくして激しい音を立てて、玄関のドアが開いた。

 私は慌ててリビングを出た。


「アリス! なにかあったのか?!」

 飛びこんできた基樹は息を切らして言った。

 どうも走って帰ってきたらしい。


「アリス?!」

 両肩を捕まれて、怖い顔が目の前に近づいた。

 あまりのことで訳がわからない。


「な、な……」

「なにがあったんだ?」


「あっ、えっ?」

 基樹は一体、何を言っているんだろう。

 何をそんなに慌てているんだろう。


「アリス?」

「ど、どう、したの? なに?」


「何じゃないよ。いくら電話しても出ないし、こっちも急用があって帰れなかったから。どこにいたんだ。家に電話しても出ないし。なにかあったんじゃないかって、急いで帰ってきたんだぞ!」


「えっ? 別になにもない、よ……」

 なんだかこっちがすまないといった気分になってしまう。


 基樹は私の答えを聞いて、力が抜けたのかソファにドサッと座った。

 私のほうも力が抜けて基樹の隣に座る。


「何もないって……スマホ持ってなかったのかよ。出かけてるみたいだから、何度もかけたんだぞ」

「持ってたけど……あーーーっ、そうだ。マナーモードにしたままバックの中に入れっぱなし!」


 そう。

 大道寺の車に乗るのにマナーモードにしたんだった。

 こんなに帰りが遅くなると思っていなかったし。


「なにやってんだよ、まったく。こっちは生きた心地しなかったんだぞ!」

 コツンと頭を叩かれた。


「ご、ごめんなさい……」

 基樹は大きく「はーっ」と息を吐くと、私の頭を抱え込んだ。


「それで、遅くまでどこ行ってたんだよ」

「えっ、あ、うん。大道寺先生と会ってた。えっとね、お話に詰まってるって金倉さんが話したらしくて。それで気晴らしするようにって」


 大道寺の名前が出て、基樹の腕に微かだけれど力が入ったのがわかった。

 これからもお話を書いていけって言ってはいても、やっぱり大道寺のことは気にしているようだった。


「で、どこに行ったんだ」

「えっと、大道寺先生の別荘。海の……」


「豪勢なことで。まったく。こっちは用事もそこそこに飛んで帰ってきたんだぞ。これからは出かけるときはその前に連絡しとけよ」


「でもスマホならせないでしょ。授業中は」

「あほっ! なんのためのメールだよ」


「あっ、そっか」

 その手があったか。

 気付かなかった。

 えへへっと笑ってごまかした。


「ったく、アリスには本当に振りまわされるな。食事は食べたの?」


 私が上目遣いで頷くと

「あ~っ、汗掻いた。風呂、入る」

 とリビングを出ていってしまった。


 まずかったかなぁ。

 大道寺先生と出かけたこと。

 それにやっぱり告白されたこともあるし、なんとなく後ろめたい気がした。


 それでもモデルをやるということは話さないわけにはいかないだろうなぁ。

 でもなんて切りだそう。


 お話を書く上で大道寺との繋がりができるのは仕方のないこと。

 でもモデルはまた別の話だし……。

 う~ん、困った。


 結局この日、私はその話を切り出せないまま、翌日は大道寺の家に行くこととなった。




 ******




 ところが大道寺の家に行くと、赤城が出てきて、大道寺は寝こんでいるというのだ。


「昨日、ちょっとお疲れになったんでしょう。とにかくお顔を見ていってやってください」


 そう言って私を寝室に連れていってくれた。

 大道寺は思ったより元気そうに見えた。


「すまないね。わざわざ来てもらったのに、こんな状態で。今日はドクターストップだそうでね、参ってしまうな」

 長い指を目に当てて済まなそうにしている。


「あの、昨日、遠出して疲れてしまったんじゃないですか? どうしよう、私のせい……」

 だって、私がお話に煮詰まっていたから連れ出してくれたわけで……。


「いけないなぁ、そういう考え方は。君のせいでもなんでもないんですよ。単に僕の体が弱いだけですよ。情けない」

 そんな風に言って溜め息をついた。


「あ、あの、今日はゆっくり休んでください。体、よくなったらご連絡いただければすぐに来ます。夏休みに入って、今は特に用もないし……」


 なんだかとてもがっかりしているようだったけれど、どう慰めていいのやら困ってしまって、私は早々に帰ろうと思ってしまった。


「そうだね。君も用がないなんて、お話を書かなくちゃいけないでしょう」

「あっ、そうだった!」


「忘れてもらっては困りますよ。金倉さんに僕が怒られてしまう」

「そ、そうですね。気晴らしまで先生にお願いしているのに私が書けなかったら大変です!!」


「あははっ、まぁ、焦らなくてもいいとは思いますけど、がんばってください」

「はい。あの、それじゃ、お大事にしてください」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ