no.141
沙耶のママが用意してくれたお昼を食べて、また沙耶の部屋に戻ると溜め息ばかり。
時間ばかりが過ぎていく。
「あ~~~っ、もう。お兄ちゃんがいけないのよ!」
いきなり沙耶が叫んで、その声に重なるように私のバックから電子音。
私は慌ててスマホを取り出した。
「もしもし」
『アリス?』
「はい」
「ねっ、お兄ちゃんからなの? ね!」
横で聞いてくる沙耶にコクンコクンと頭を下げた。
「なに?」
『夕方、6時にコーションっていうライブハウスに来い。来るまで待ってるから』
そこでいきなり電話は切れた。
「ちょっ、ちょっとなによ。私、なにも返事してないよ」
スマホに向かって叫んでも仕方ないか。
ふーっ。
「お兄ちゃん、なんだって?」
「6時にコーションっていうライブハウスに来いって」
「なんですってぇ~っ。なんでコーションなのよ!! あんな危ないとこ!」
そういえばコーションってどこよ?
「沙耶、知ってるの?」
「えっ、あ、いや、その……」
なんでそこで焦ってるわけ?
「知ってるなら教えて。私、知らないから行けないよ」
「行かなくていい、行かなくて」
「でも行くまで待ってるって言ってたよ」
「え~っ、なんでよぉ。そんなとこアリス一人で行かせられないよぉ」
一体どーゆーところよ!
それからずっと教えないとブツブツ文句を言っていた沙耶だったけれど、結局6時近くなって立ちあがった。
「行くわよ」
「えっ?」
「コーションよ」
「あの、場所教えてくれれば自分で行くよ」
「アリス一人行かせられるような場所じゃないのよ。私が連れて行くから黙って着いてきて」
「はい」
なんか今日の沙耶、怖い。
黙って着いていくしかなさそう。
でも、黙ってついてきたものの、駅を通り越して反対側。
こっちっていわゆる歓楽街なんじゃ……。
ヤバイよぉ。
こんなとこで先生に掴まったらただじゃすまないよぉ。
私は沙耶の腕を掴んだ。
「ねぇ、どこまで行くの?」
「だからコーションだってば」
それはわかってるんだけど……この辺飲み屋とホテルしかないんじゃ……。
いきなり沙耶が立ち止まった。
ビルを目の前にして怖い顔してる。
「沙耶……」
「ここよ」
指差したほうを見るとビルの地下に通じる階段。
うっそ~~~っ。
ここ、降りるの?
「ここまで来てビビッてんじゃないわよ」
やっぱり沙耶怖い……。
引っ張られるようにして、階段を降りる。
壁にスプレーでいたずら描きまである。
階段を降りると木のドアがあって沙耶は躊躇することもなく、そのドアを開けた。
中は薄暗くてなんだか煙たい。
ずんずん中に入っていく沙耶に引っ張られて、もうドキドキ。
「あれ、また珍しいお客さん。沙耶ちゃんじゃねーの?」
えっ、沙耶のこと知ってる人がいるの?
こんなとこに?
「今日は懐かしいお客が来るねぇ、ホント」
なんだか派手な格好をした男の人ばかり。
革ジャンなんか着て、ジャラジャラネックレスやブレスレットしてたり、よく見ると指輪までしてるよぉ。
私は沙耶にしがみ付いた。
「おやぁ、かわいい子じゃないの。沙耶ちゃんのダチ?」
「触んじゃないわよ。手、出したら殺すっ」
きゃ~~~っ、沙耶が一番怖い!!
なんなの、なんなの!?
「はいはい。触りませんよ。沙耶ちゃんに逆らったら基樹にぶっ殺されるもんな」
そう言ってまとわり着いていた男達が離れていった。
はぁー。
こわっ。
「いた!」
えっ?
沙耶がすたすたと歩き出した。
一番奥のテーブルまで来るとテーブルをバンッと平手打ち。
「こんなところにアリスを呼ぶなんて、なに考えてんのよ!!」
私はそっと沙耶の後ろから顔を出した。
基樹!!
基樹がいた。
ブランデーの入ったグラスを持ってる。
タバコも吸ってる。
いつもの普通のカッコじゃない。
周りに溶けこんでしまいそうな服。
どこにこんなの持ってたんだろう。
「おまえがどーせ着いてくると思ったよ。一緒なのわかってたから」
「ふざけないでよ! 一緒じゃなかったらどうすんのよ」
「スマホの向こうからおまえの声、聞こえてたよ」
「まったく信じられない。なんの真似?」
「おまえはもう帰ってよし。アリス、置いてけ」
「ばっかなこと言わないで。アリス一人置いてけないわよ」
二人でなんだか喧嘩してるけど、なんで?
「アリス一人くらい守れるぜ。ここにいる連中なんてへでもねー。おまえなんかいなくってもいーの」
「そういうこと言ってんじゃないわよ」
私、全然会話に入る隙がないんですけど……。
沙耶がいきなり基樹の隣の椅子に私を座らせた。
そして自分も私の隣にドカッと座る。
丸いテーブルを囲んで座ったけど……。
今度は会話が途切れた。