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ありす☆らぶ  作者: 湖森姫綺
140/156

no.140

 ******



 家の前に車が停まった。


「また何かあったら僕を頼ってもらえますか?」

「えっ?」


「いや、何もなくても会いに来てもらいたいですね。君といる時間がとても楽しいから。こういうの始めてなんですよ。不謹慎ですね。君はきっと何か辛い思いをしているというのに……」


「いいえ。先生のお蔭で私、本当に救われました。世の中には辛いこともあるけど、楽しいこともあるって。今度は笑って」


 大道寺の手が頬に触れる。

 顔が近づいてくるような……うわぁ、まずい。


「あ、あの、本当にありがとうございました」


 私は頬にあった手を握って、握手!

 な、なんか避けたの、バレバレかな……。


「失礼します」

 そう言って慌てて車を降りた。


 窓が開いて、

「待っていますよ。きっと……」

 大道寺はそう言って車を発進させた。


 先生のことは大好きです。

 でも楽しい話をしたりする以上のことは無理なんです。

 ごめんなさい。


 車が見えなくなって、私は家の二階を見上げた。

 既にカーテンが開いている。


 基樹、いるんだよね。

 あそこに。


「ただいま」

 玄関を入るとママがリビングから飛び出してきた。


「ちょっとアリスちゃん、こっちっ」

 小声で私を呼ぶとリビングに引っ張り込んだ。


「なによ、ママ」

「あなたね、一体なにしてるの? 昨夜、基樹君、雨の中、ずっと捜してくれてたのよ。大道寺先生のところに泊まるなんて。そんなことママ、基樹君に言えないじゃない。だから沙耶ちゃんのところに泊まったことにしてあるから、いい? わかった?」


「ママ、もう遅いと思うよ。そんな嘘ついても……」

 私は慌てふためいてるママを置いて部屋に行った。


 基樹は起きていた。

 多分、あの窓から私が帰ってきたのを見ていたはず。


 雨の中を探しまわっていたなら、私が帰ってくるのをずっと窓から見て待っていたはず。

 そしてあの車が大道寺先生の車だってことも知っているはずだから。


「ただいま」

 私はタンスから着替えを出した。


「アリス……」

 基樹の声が突き刺さるようで辛い。

 責めているような言い方じゃないけれど、自分のやったことが後ろめたいから。


「茜のことだけど……」

 なんでそんな話するの?


「今、聞きたくないから」

「なんでだよ。あんな風に逃げられて、何もなかったようにできるかよっ!」


 なんで基樹が怒るのよっ!!


「逃げたくなるようなことしてるからじゃない! なんで、なんであの人と一緒にいるのよ。あんなことされたら逃げたくなるよ。逃げなくちゃいられないよ。基樹のバカ!!」


 私は机にあったバックと携帯を掴むと部屋を出た。

 バスルームで着替えて、ママに沙耶のところに行ってくると言って家を出た。


 携帯で沙耶に連絡をとる。


『アリス!! 今、どこにいるの?』

「沙耶の家に向かってるとこ」


『なにしてるのよぉ、もう。心配したんだからね』

「あっ、そうだ。沙耶、今日は練習試合の日だったよね」


『そんなの行けるわけないでしょ。家にいるからすぐ来て!!』

「うん」


 沙耶の家に行くと沙耶はもう外に出て待っていた。

 いきなり抱き着いてくる。


「沙耶?」

「アリスのバカ。なんで私のところに来ないのよ。ホントにもう」


「ご、ごめん……」

「とにかく上がって」


 沙耶の部屋に通された。

 沙耶はペットボトルのウーロン茶を持ってくるとひとつ、私に押しつけるようにして渡した。


 自分で持っているのをクイッと開けてごくごくっと飲む。

「はーっ、喉渇いちゃったわよ。まったく」


「あの、ごめんね。なんか心配かけちゃって」

「謝るくらいなら最初から家に来なさいよ。で、大道寺って誰よ。そんな先生、うちの学校にいないわよ」


「あ、あのね、出版される本の挿絵を描いてくれてる先生なの」

「なんだ、絵を描いてる先生か。えっ、でも、じゃ、なんでお兄ちゃんに言えないのよ。おば様、お兄ちゃんにこんなこと言えないから私のところに泊まってることにしてって言ってたんだよ」


「だって男の一人暮しだもん」

「ええ~~~~~っ!! ちょ、ちょっと女じゃないの、その先生」


「だから男だってばっ」

 沙耶はまたウーロン茶をゴクゴクッと飲むと話し出した。


「と、とにかくまず最初から話すと、昨日の夕方、お兄ちゃんから電話があって、アリスが来てないかって。それも何度も何度も。いないのかってこっちから聞くと何でもないプツッだもんね。夜になっておば様から電話があって、今度はアリスが家に泊まってることにして欲しいって。大道寺先生のところに泊まるって連絡あったけど、そんなことお兄ちゃんに言えないって言うし」


 あははっ、ママなりに気を遣ったってことかな。


「こそこそって話して、お兄ちゃんが帰ってきたからって電話いきなり切られちゃうし。そのすぐあとお兄ちゃんから電話があって、本当にそっちにいるんだなって怒鳴るし。仕方ないから体育祭で疲れてるから寝せちゃったって嘘ついてさ。もう焦りまくってたんだからね」


「ご、ごめん……」

「で、なんで家出なんかしてんのよ」


「家出ってそんな……」

「じゃ、なによ」


「はい。すみません」

「謝るのはもういいの。理由を聞いてるの。何かあったんでしょ?」


 ウーロン茶を一口飲んで溜め息。

 沙耶には話すしかないよね。


 昨日の夕方、公園で見たことをすべて話した。

「それで……気がついたら先生の家に行ってて……」


「またあのケバい女なんだ。そうじゃないかと思った。お兄ちゃんも何も言わないし。いるのわかっても迎えに来ないし。で、キスしてたって?」

「うん。しっかり見ちゃった」


「まったくお兄ちゃんもお兄ちゃんよね。そんな強引な女、ガツンと一発やっちゃったっていいのに」

「沙耶……結構過激……」


「なに言ってんのよ。そんなだからつけこまれるのよ!!」

 そんなこと言われても……。


「今更出てきてなんだっていうんだろうね。昔のことは昔のことじゃない。ずうずうしいったら。お兄ちゃんにはもうアリスっていうれっきとした奥さんがいるのに」


「はぁ」

「はぁ、じゃないわよ。もっとアリスもしっかりしなさいよ。私が奥さんよって顔して堂々としてたらいいのに」


「だって……」

「だってじゃない。大体、なによ。なんで男の一人暮しのとこなんかに逃げるのよ! ムカツク」


「だから、それはごめんってばぁ。私も気がついたら行ってたんだから」

「何もなかったんでしょうね」


「ヘンなこと言わないでよ。先生はずっと大人だし、私なんか。それに先生の友達も泊まってたし。先生はアトリエで仕事してたし」

 なんか言い訳がましい気もするけど、事実だもんね。


「まっ、何もないならいいけど。アリスもフラフラしてないんだよ」

「はい」


「で、これからどうなっちゃうのよぉ~」

「どうなっちゃうんでしょう……」


 二人で溜め息。

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