no.14
「お母さんさぁ、おまえのことかわいくて仕方ねーんじゃない? だからかわいいカッコさせたいし、誰からもかわいいって思われたいし、苦手なもんも食えるようになったらとか思うわけだろ?」
「そんなことわかってます。私がはじめて可愛い服は絶対に着ないって言った時、ママは泣いたんだもん。嫌な思いさせてごめんねって泣いたんだもん」
大きな手が私の頭に置かれた。
「それ、やめてください」
「なんで」
「だって子供みたいな気がする」
「へっ?!」
「大人が子供にしてるみたいな感じで嫌です!!」
自分で言ってて、なに言ってんだろって思えた。
でももう止まらない。
勢いついて、なに言い出すかわからない。
「そんなことないと思うけど、嫌か? 俺、おまえの髪、触るの気持ちいい……」
きゃ~~~っ。
「あっ、いや、なんか言い方、ヘンだったか」
宮川は慌てて手を上げた。
ヘンだよ。
ヘン!
「わりぃ」
私は頭をぶんぶん振った。
嫌なんじゃない。
でもなんだかよくわからない。
「じゃ、これならいいか」
そっと手が伸びて、ふわっと頭の後ろに触れた。
すーっと力が入って、私の顔は宮川の胸にあたった。
や、やだ……は、恥ずかしいよ、こんなの。
「これならいいだろ」
いいわけない。
だってこんなこと、恋人同士がすることだよ。
……心が必死に叫んでるのに体は動かなかった。
両腕で頭を抱え込まれるような格好になってる。
心臓が壊れそうなくらいドキドキして、どうしていいのかわからなくなった。
もう頭の中もまっしろ。
どのくらい経ったのか、時間の感覚もなくなっていた。
「落ち着いた?」
そっと解かれていく腕。
あったかかった胸が離れていく。
私、ヘンだ。
「大丈夫か?」
体から力が抜けて、ふらっとするのを宮川が腕を掴んだ。
「お、おい」
「だ、だ、……」
大丈夫って言いたいだけ、なのに。
体にも力入いんない。
「よっと」
ひゃ~~~っ、なにすんの。
抱き上げられて、焦っても言葉がでない。
「ほら、今日は疲れたんだよ。俺ももう帰るから、このまま寝ろ」
ベッドにそっと置かれた。
「じゃな、ゆっくり休めよ」
顔にかかった髪をよけてくれて、
「お母さんにちゃんと謝るんだぞ。おやすみ」
そう言ってリュックを持つと部屋を出ていった。
下で慌ててるママの声がして、玄関のドアが締る音がした。
私は震えがとまらない体を動かして、布団の中にもぐりこんだ。
コンコン。
部屋のドアが静かに開いた。
「ごめんね、アリスちゃん。あの、ママ、ちょっとはしゃぎすぎだったと思うの。ごめんなさい」
ベッドの横にママが立っている気配がした。
私の返事を待ってるのもわかっていた。
だけど言葉がでない。
「ごめんなさい。おやすみ」
出て行っちゃう。
「ママ……ありがとう。ごめんね」
やっと搾り出した言葉。
「ううん、おやすみなさい」
パタン。
ママのスリッパの音が遠ざかっていった。
またママを傷つけてしまったんだよね。
少女趣味でかわいいママ。
そんなかわいいママが好きだと言っているパパ。
私だってママが嫌いなんじゃない。
でも自分が傷つけられたことをママのせいにしたりして、逃げていただけ。
ごめんね、ママ。
ドキドキがやっと収まってきた。
体の熱が少しずつ引いていくような感覚。
でも、ふっと思い出した宮川のぬくもりがまた体を熱くした。
なんであんなことするんだろう。
沙耶は優しいって言ってた。
こういうことかな。
それともたくさんの女の子と付き合ったから、こんなこと平気でできるのかな。
嫌だ、なんだかとっても嫌だ。
そんなこと考えたくない。
もう忘れて寝よう。
訳のわからないことなんて大嫌い。
だから……。