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ありす☆らぶ  作者: 湖森姫綺
132/156

no.132

******



 しばらくはなんとなく平穏に過ぎていった。


 体育祭が目の前になって、今年もペアの体育祭になるということでアンケートを出したり……。

 今年は参加する側なんだなぁ。


「アリス、参加種目決めた?」

「う~ん、100m走と借り物競争と……」


「あれ、二人三脚は出ないの?」

「あっ、私達身長差がありすぎてきついかなぁって」


「そっかぁ」

「沙耶達は?」


「うん。まだはっきり決めてないの。体育祭のすぐ後に練習試合があるんだぁ。だからとりあえず怪我しないようにってことが先で……」


「試合あるんだ」

 沖野はレギュラーだからこういうとき、なにより試合が優先だもんねぇ。


「アリス、帰るぞぉ」

 教室のドアのところに基樹が現れた。


「じゃ、沙耶、部活がんばってね」

「あっ、アリス、もう大丈夫だよね?」


 小声で沙耶が言った。

 気にしててくれたんだ、沙耶。


「うん!」

 私はにっこり笑って見せた。


 もう大丈夫。

 あれからその話は全然出てないし、基樹も普通だし。


「よかった。じゃね」


 基樹と一緒に帰る。

 毎日のことだし、もう冷やかしの声もちらほらになっていた。

 ただ1年生の視線はまだあちこちで感じるかなぁ。


 体育祭の話をしながら歩く。

「他に何に出たい、アリス」


「う~ん、走るのばっかりだから、ちょっと違うのがいいかなぁ」

「そーだよな。あれ、なんか車停まってるぞ」


 家の前に赤いスポーツカーが停まっていた。

 見覚えがある。

 大道寺先生の車だ!


 運転席のドアが開いて、降りてきたのはやはり大道寺だった。

「大道寺先生……」


「やぁ、突然申し訳ないね。実は最後の1枚に煮詰まってしまってね。君の意見を聞きたいと思って」

 サラサラと髪が揺れている。

 陽の光に色素の薄い髪が赤く見えた。


「こちらはお兄さん?」

 大道寺は基樹を見て言った。


 そっか。

 会ったことないんだ。


 私達が結婚しているってことは公にしないってことで秘密にしなくちゃいけないんだよね。

 基樹と目が合う。


「は、はぁ」

 基樹は曖昧に返事をする。


「これから大丈夫だろうか。アトリエのほうに来てもらいたいんだけれど」

「は、はい。あの、じゃ、急いで着替えてきます」


「申し訳ないね」

「いいえ」


 私は基樹と一緒に家に入った。

 急いで着替えをする。


 ブラウスに長めのスカート。

 姿見で見て、なんかヘン。


「基樹、これでヘンじゃない?」

「いいんじゃねーか」


 見もしないでいい加減な答えをしないでほしい。


「待たせてんだ。さっさと行けよ」

「う、うん。じゃ、行って来ます」


 私はバックを掴むと飛び出した。

 大道寺の車に乗る。


「連絡入れてから来たほうがよかったかな。思うように仕上らなくてね。ちょっとフラッと出掛けたものだから」

「は、いえ」


「君に会えたらと思ってね。来てしまったんだ」


 優しく微笑みかける大道寺の瞳。やっぱり青いよね。

 私がじっと見つめていると。


「気になりますか? 僕の目の色」

「えっ、あ、あの……」


「いいんですよ。母がね、イギリス人なんです。だから」

 やっぱりハーフだったんだ。


「もっとも随分小さな時に亡くなってしまったから、僕自身はあまり記憶がなくてね。写真はありますよ。今度、見せてあげましょう」


 綺麗な人なんだろうな。

 大道寺の横顔を見て、思った。


「そうそう、君はパフェは嫌いかな?」

「は?」


「この近くにね、パフェのおいしいお店があるんですよ。僕自身は甘いものは苦手なんだけれど、君はどう?」

「はい。好きです」


「よかった。じゃ、今日突然誘ってしまったからお詫びに」

「えっ、そんな」


 でも、なぜか断れない。

 車を近くの駐車場に入れて来ると言って、私はカフェの前で降ろされた。


「ちょっと待っていてください」

 そう言って走り去る車。


「よく会うわね」

 後ろから声を掛けられて振り向くと、ボンッと目の前に大きな胸?


 見上げると茜だった。


「こんなところで何ぼーっとしてるのかしら?」

 腕を組んできつい視線を送ってくる。


 私は視線を落とす。

 厚底のブーツが目に入った。


 そっか、これのせいでいつもより背が高く見えたんだ。


「私とは話もしたくないって顔ね。ホントお子様なんだから。あんたの顔を見てるとイライラする。いつもおどおどして。どうしてこんな子がいいのか、理解できないわね。ちょっと聞いてるの?」


 グイッと顎を掴まれて顔を上げさせられた。

 視線は合わせたくない。


「あんたのようなお子様に基樹はもったいないのよ。中坊だったあいつを大人にしてやったのはこのあたし。いきがってたあいつのほうがずっとカッコよかったわよ」


 なにが言いたいんだ、と思わず睨み返してしまった。


「あらぁ、怒ったの。ふっ。なにも言えないようなあんたに基樹は渡せない。返してもらうわよ。私もあいつを忘れられないの。他の男なんてゴミよ」


「君、なにをしているんだい!」

 走ってきた大道寺が叫んだ。

 なんだか息を切らせている姿が不似合い。


「離しなさい。アリスくん、大丈夫か?」

 大道寺は私の顎を掴んでいた茜の手をパシッと払いのけて私を抱きしめた。


「あら、いやだ。なぁに、お子様かと思ってたら、こ~んなことして。信じられないわ。いい、あたしがさっき言ったこと忘れないで、本気よ。じゃ、お楽しみあそばせ」


「なんて失礼な人だ。アリスくんの知り合い?」

 私は首を振って、大道寺から離れた。


 なんだろう。

 とってもいい香りがした。

 くらくらしてきそうで、怖くなった。


「そう。じゃ、パフェ食べに行きましょう」


 パフェは本当においしかった。

 作った笑顔を見せるけれど、心の中はここにあらず。

 茜の言ったことが気になって仕方なかった。


 あの人はまだ基樹を諦めていない。

 ちゃんと話をしたって言ってたのに。

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