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ありす☆らぶ  作者: 湖森姫綺
129/156

no.129

 チャリンという音がして喫茶店に入った。

「座って。コーヒーでも飲もう」


 窓際に座って、沙耶がコーヒー二つ、オーダーした。

 ずっと俯いたまま、顔が上げられない。


「ごめんね、沙耶……」

「アリスが謝ることないよ。なんなのよ、あのケバい女。あったまくる!」


 どうして今頃、現れたんだろう。

 昔付き合ってたってだけなら、そんなことどうでもよかったのかもしれない。


 でも目の前に現れて、あんな風にされたら苦しいよ。

 基樹を信じないわけじゃないけど、すごく不安になる。


 結局、沙耶と二人で1時間くらい喫茶店で時間をつぶした。

 それからブラブラしているうちに暗くなってしまった。


「そろそろ帰ろう、アリス。家まで送るから」

「うん」


 私達は何も話さなかった。

 家まで送ってもらう。


「アリス、辛かったら私のとこにおいで、ね」

「ありがとう、沙耶」

 

 ガチャッ。

 玄関のドアが開いて、基樹が飛び出してきた。


「アリス、どこ行ってたんだよ。こんな時間まで」


「どこ行ってたじゃないよ。アリス、こんなに苦しめて。泣かせたら承知しないって言ったでしょ。ちゃんとケリつけてきたんでしょうね!」


「ああ、ちゃんと話してきたよ。昔のことだ。もうかんけーねーよ」

「じゃ、アリスをこんなに不安にさせないで! ちゃんと守ってあげてよ」


「沙耶、もういいよ。ありがとう。ごめんね」

「アリス……」


「明日、また学校でね」

「う、うん」


 沙耶は帰っていった。

 私は基樹に促されて家に入った。

 着替えを済ませて食事をする。


「沙耶ちゃんとショッピングでもしてきたの? 遅くなるなら連絡くらいしなくちゃ、アリスちゃん」

 ママは食事をしながら言った。


「ごめんなさい。これからはちゃんと連絡いれるから。ご馳走様」

「えっ、もういいの?」


「うん。沙耶とちょっと食べてきちゃったからお腹いっぱいだし」

「そ、そう……」


 私は部屋に戻る。

 しばらくしてコーヒーを持って基樹が部屋に入ってきた。


 テーブルにマグカップを置くと、前に座る。

「アリス、悪かったな。嫌な思いさせて」


 私は首を振った。

 別に基樹が悪いわけじゃない。


 たまたま昔付き合ってた女にばったり出会ってしまっただけのことなのだ。

 そう思うことにしなくちゃ。


 私はソファのクッションを抱きしめた。

「気にしてないよ」

 そう言葉にしているのに笑えないのはどうしてかな。


「昔のことなんだ。今、俺にとって一番大切なのはアリスだから。どんなことがあってもそれは変わらないから」

「わかってる」


「おまえが嫌だと思う過去なんて消えちまえばいいのになっ」

 そんなことできるわけないのに……。


「私、お風呂入って来るね」

 基樹が辛い顔をしているのも嫌だった。


 過去のことなんてこだわる必要ないよね。

 さっぱりして忘れよう。


 下に下りるとママに声をかけられた。

「アリス、金倉さんがね、明日学校が終わったら来てくださいって夕方連絡があったのよ」


「明日?」

「うん。えっと大道寺先生に会いに行くとかなんとか……」


 大道寺先生に会えるんだ。

 なんだかすごい。


 でも思ったほどうきうきしない。

 こんなときだから。


 お風呂に入ってさっぱりしたつもり。

 もう笑っていつも通りにしなくちゃ。

 髪を乾かしながら、鏡に写る自分に言い聞かせる。


「笑って、アリス……」

 にぃ~っ。

 どうもヘンだけど、仕方ないか。


 部屋に戻る。

 ドアを開ける前に気合を入れなおした。


『もとのアリスに戻れ!』

 ドアを開けて入る。


「あ~っ、さっぱりした。基樹も入ってきちゃったら?」

「あ、ああ」


「ちょうどいい。コーヒー冷めたかな?」

 私はソファにポスッと座って、さっき基樹が持ってきてくれたコーヒーを飲む。


 基樹が部屋を出ていった。

 ふーっ。


 しっかりしろ、アリス。

 私が元気にしてなかったら、基樹が苦しむんだからね。


 私は鏡台の上にあるオルゴールつきのアクセサリーボックスの蓋を開ける。

 そこに輝いているのは二つの指輪。


 私と基樹が愛を誓い合った証。

 並んでこうして光っててくれる。

 だから不安になんてならなくていい。


 階段を上がってくる足音がして私は慌ててアクセサリーボックスの蓋を閉めた。

 髪をとかす。


 ガチャ。


「気持ちよかったー」

 そう言いながら基樹が入ってきて、ソファに座った。


「あーっ、また髪濡れたまま」

 私は基樹の後ろに回って、肩にかけたタオルを引っ張った。


「ちゃんと乾かさないとだめだよぉ」

 そう言いながら基樹の髪をくしゃくしゃと拭いた。


「ああ、気持ちいい」

「なにが気持ちいいよっ」


 人の気も知らないで。

 何かしてなくちゃいられないんだから。


「勉強進んでる?」

「まぁな」


「特進クラスは大変なんでしょ?」

「今までと気迫が違うかもな。俺は特別かわらねーけど、周りが怖いって気がする時もあるしよ」


「そうなんだぁ。医学部いく人、他にいるの?」

「ああ、5人」


「えっ、たった5人なの?」

 私はタオルを置いて、基樹のくしゃくしゃになった髪を手で整えた。


「サンキュ。医学部はほとんど他から受ける奴らなんだ。うちから行くのはそんなもんらしいよ」

「ふ~ん」


 本当に大変なんだなあ。

 他のことにかまけてる場合じゃないよね。


 向かい側に座って、コーヒーの残りを飲み干した。


「勉強するの?」

「いや、今日はもうしない。アリスは?」


「うん。沙耶とたくさん歩いて疲れちゃったからもう寝るね。明日は出版社行ってくる。金倉さんから連絡あったから」

「一緒に行くか?」


「ううん。大丈夫。一人で。基樹は勉強して」

「あ、ああ」

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