no.128
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数日が過ぎて、なんとなくぎこちないままの二人の間だった。
「ねぇ、アリス。なんだかこのところ元気ないみたいだけど、どうしたの?」
沙耶に言われて、お箸でつまんだミートボールを取り落とした。
「な、なんでもないよ」
とは言ったものの、バレバレだったようだった。
「話しするまでお預けよっ!」
いきなりお弁当を取られてしまった。
こんなことされても……。
大体、基樹が昔付き合ってた女性に会ったってだけのことだし。
それをこんなに気にしてる私もバカだと思うし。
「私にはなんでも話してよ。アリスが悩んでるんなら私も一緒に悩みたい。そんな顔されてるのに平気でいられないよ。たまらないじゃないっ」
じわっ。
「ご、ごめんね……」
涙にじんできちゃったよ。
「アリス……お兄ちゃん、なにかしたの?」
私は大きく首を振った。
「じゃ、どうしたの?」
私はポツリポツリと話をした。
「昔の女かぁ……確かに付き合ってた女がいたって不思議じゃないけどね」
「昔のことだし、忘れようって思うんだけど、気になって……」
「お兄ちゃんはなんて言ってるの?」
「なにも……」
「え~っ、なにも言わないの?」
「うん……」
「そっか。どういう付き合いだったのか、聞いちゃったほうがすっきりするような……でも怖いって気もするような。なんとも言えないよね」
沙耶はため息を着いた。
私のお弁当を戻して。
「とにかく落ち込んでても仕方ないし、今日帰りに久々にどこか行こうか? 女同士でさ」
「でも、部活は?」
「うん、沖野君に言っとくから」
「ありがと、沙耶」
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私達は一緒に教室を出た。
「どこ、行こっか?」
「とりあえずブラブラ。気になるお店があったら入ろう」
「そうだね」
話ながら校門まできて、私は固まってしまった。
「どうしたの、アリス?」
校門のところに今一番会いたくない人が立っていた。
なんで、この人がここにいるの?!
「あらっ、あなた。この前基樹と一緒だったお子様ね。やっばりここでビンゴだったのね」
今日も派手な格好。
アニマル柄のぴったりワンピ。
体のラインがはっきりし過ぎで怖いくらい。
「アリスに何かご用ですか?」
沙耶が私を隠すように立つと言った。
「いいえ、お子様には用はないのよ。ふふっ」
嫌な笑い。
完璧にバカにされてる。
「おーいっ、アリス!」
背中から基樹の声がした。
いやだ、今、来ないでよ!
「ヤバイよ、お兄ちゃん……」
沙耶が振りかえりながら言ったけど、もう遅かった。
あっという間に基樹がすぐ後ろに来ている。
「基樹~っ!!」
彼女のその声と同時に私は沙耶に抱きしめられていた。
な、なに?!
「なにやってんだよ、こんなとこで」
「ご挨拶ね。会いに来たのに決まってるでしょ。今夜あいてるのよ。だから誘いにきたの」
震えが止まらなくなった。
「かまうなって言ったろ。帰れよ、あかね」
「いやぁよ~、やっと見つけたのに」
「しつこいわよ、あんた! お兄ちゃん、嫌がってんじゃない。さっさと帰りなさいよ!」
沙耶の声がビンビン響いた。
「あんた、妹なの? かわいらしい顔してきついこと言うわね。まっ、基樹の妹なら、そっか。でもあんたに関係ないことよ。さっ、基樹いこっ」
私はそろそろ立っているのも限界だった。
「……沙耶……沙耶……」
沙耶の腕の中で名前を呼ぶのがやっと。
「アリス?」
「……ここに……いたく……ない……」
搾り出して言えた言葉はそれだけだった。
「わかった。行こう、アリス。お兄ちゃん、そのけばけばしてる女とちゃんとケリつけてよね」
沙耶が私を抱きかかえるようにして歩き出した。
足がもつれそうになるけど、沙耶にすがっていくしかなかった。
「アリス!」
基樹が呼ぶ声がした。
でも振りかえれなかった。
しばらく沙耶は黙って私を抱いて歩いてくれた。