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ありす☆らぶ  作者: 湖森姫綺
125/156

no.125

 ******



 翌日学校に行くと沙耶が飛んできた。

「アリス、昨日、どうだった?」


「うん、もうドキドキだったよぉ。めちゃくちゃ場違いって感じだったし。でも失敗もなくなんとか無事にね、終わった」


「そっかぁ。でもホントすごいよ。アリスの書いた話が本になっちゃうんだねぇ。あっ、そうだ。お土産ありがとうね。可愛いお財布。大切に使うね」

「うん!」


「それにしてもめまぐるしいね。新婚旅行から帰ってきたらすぐ授賞式だもんね」

「今度は出版の準備で色々あるみたい。今週中に金倉さんのところに行かなくちゃならないの」


「ふ~ん。でもそれで本になるんだからね。私、絶対買っちゃう! 宣伝もしちゃうよ」

「やめてよ、沙耶。恥ずかしいから」


「だ~め。もう恥ずかしいなんて言ってられないのよ。これで童話作家なんだからね」

「童話作家って、ちょっと待ってよ。そんなんじゃないんだから」


「夢は大きくだよ、アリス!」

 夢は大きくって言われても。


 これが私の夢なのかな。

 なんだかあれ、あれって感じで気持ちが追いついていかない。

 嬉しいんだけど。


 

 ******



 その日の夜、金倉から電話があった。

『ごめんなさいね。明日来てもらいたいの。いいもの見せてあげるから、ね』

 だって。


「なんだろうな、いいものって」

「う~ん、なんだろう?」


 そんなわけで、翌日学校が終わってから基樹と一緒に出版社へ行くことになった。

 でもその前に寄りたいところがある。


 大切な用事。

 二人で一緒に。


「これで本当の夫婦ってわけだな」

「うん!」


「今日から宮川アリスだぞ」

「えへへっ、なんかくすぐったい感じ」


 私達は区役所にいた。

 ちょっと恥ずかしい感じ。

 でも幸せ。


 婚姻届をカウンターに出す。

 係りの人は事務的だったけれど、私達にとって記念すべき日になった。


 区役所を後にして、出版社へ行った。

「アリスちゃん、いらっしゃい。あら、今日も彼ご同伴? さては一人じゃ嫌だぁとか言って着いてきてもらったのね」


 あははっ、バレバレだぁ。

 区役所に一緒に行くのは決まっていたけれど、出版社は私が一緒に着いていってって頼んだのだ。


「さぁ、こっちに座って」


 たくさんの机が並んだ横に、衝立で仕切られた奥にソファセットがあった。

 そちらに案内される。


 コーヒーを出されて会釈して。

 金倉さんが封筒をいくつか持ってきた。

 それをテーブルに置く。


「この中からあなたの気に入った絵を選んでほしいの」

 そう言って封筒から出されたのは、5枚の絵だった。


 3枚はかわいい漫画っぽいイラスト。

 色も鮮やかで似た感じ。

 1枚は鉛筆で描かれたもので写実的。


 最後に出された1枚。

 私はそれに釘付けになった。


 ウェーブかかった髪の少女の後姿、大きな木の下にちょこんと立つうさぎ。

 うさぎの手には青い玉が……。

 透明感があって、まるで本当にそこに少女とうさぎがいるみたいで、吸いこまれそう。


「どれがいい? 正直に答えて」

「これ……です」


 私は目を引いた1枚を指差した。


「やっぱりね。じゃ、これで決まり。あなたの童話の挿絵になるのよ。これは表紙。この絵を描いた大道寺先生はね、いつもはすっごく時間がかかるのよ。だから普通時間をかけて作成する本の時しか頼まないの。でも今回、先生のほうから申し出があって、描いてもらったのよ。しかもあっという間に描きあげてくれたわ」


 大道寺先生……知ってる。

 私の持ってる童話にもこの先生が描いたものがあった。

 そんな有名な先生の絵が私の本の挿絵になるの?


「1枚に半年くらいかかるときもあるのよぉ。でも余程気に入ったのね。あなたのお話。集中して描くからやらせてくれって言われたのよ。私も大道寺先生の絵は好きだし、あなたも気に入ると思って」


「はい。素敵です。夢みたい」


「でしょ? すごいことなのよぉ。私も力入っちゃう。じゃ、大道寺先生にお願いするってことで決まりね。話のほうなんだけど、対象年齢に合わせて言葉なんかもひらがなにしたり、こちらで修正していくわね。また修正が終わったら確認のために見て欲しいの。その時は連絡するわ」


「ありがとうございます」


 それにしても今日の金倉さん、パーティーのときとは雰囲気が全然違う。

 ジーンズにシャツ。

 飾り気もない。


 やっぱり仕事のときはこういうのなんだぁ。


「それにしてもいつも一緒なの?」

「えっ?」


「彼と……」

「あっ、はい」


「やだぁ、そんなにはっきりと。でもいいわね、若いって」

 基樹が横で前髪を掻きあげた。


「ペンネームは宮川アリスちゃんでOKかしら? 出版するとこの名前で出まわるわけだから、学校とかで問題にならない?」

「大丈夫です。問題ありません」


 基樹がすかさず答えた。

 そんなはっきりと……。


「もしかしてもうあなた達が付き合ってるのはみ~んな知ってるとか?」

「学校公認です」


「あらら、そうなの。それじゃ、全然問題なしってことね」

 私は二人の話を聞いていて恥ずかしくなってしまった。


 学校での二人のこととか、デートは?

 なんて話までして、やっと開放されたのは外がすっかり暗くなってからだった。


 金倉さんっておしゃべり好きなんだなぁ。

 楽しい人。

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