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ありす☆らぶ  作者: 湖森姫綺
124/156

no.124

「アリスさん、お祝いの花束ですって」

 壇の下から金倉さんの声がした。


 そちらに視線を落とすと基樹が豪華な花束を持って立っていた。

 前髪を掻きあげる。

 久々に見た照れたしぐさ。


 でも花束なんていつ?


「宮川さん、受け取ってください」

 司会者が言う。


 私は基樹から花束を受け取った。

 もう両手が一杯。

 落ちないかな。


「アリス、今の気持ちを素直に言葉にしろよ。それでいいんだ」

 両手の中のものを落ちないように直してくれながら基樹が言った。


「う、うん。わかった」

「じゃ、改めて受賞の喜びをどうぞ」


 マイクが口元に差し出された。


「あの……本当に信じられません。書いているときはただこれが本になって小さな子供がワクワクしながら読んでくれたらなって思っていただけで。本当にすばらしい賞をありがとうございました」


 涙が溢れてきた。

 花束で顔を隠す。

 恥ずかしいよ。


 あとは壇上から降りて、皆で立食パーティーとなった。


 私は基樹のところに戻るとやっとほっとできた。

 力が抜けそうになってふらついて、基樹に腕を掴まれた。


「大丈夫かよ?」

「えへへっ、めちゃくちゃきんちょー」


「ばっかだな。ほら、しゃんとしろ」

「うん」


「アリスちゃん、改めておめでとう。ドキドキしちゃった? 飲んで、宮川君も」

「は、はい」


 金倉さんが飲み物を持ってきてくれた。

 私が持っていたものをすべて基樹が持ってくれて、私は金倉さんからジュースを受け取った。


「優しいのね、彼」

 耳打ちされた。


「えっ、あ、あの……」

 やだなぁ。

 顔が熱いよぉ。


「あっ、そうだ。花束効いたでしょ?」

「えっ?」


「う~ん。高校生ってことだったし、きっと上がっちゃうかなぁと思って、用意しといたの。適当なところで渡してなにか言ってあげれば緊張もとけるかなって。でも彼が付き添いでよかったわ。彼の言葉が一番だものね」


 なるほど。

 そういうことだったのか……。


「ちょっと来て。編集長紹介するわ」

 それからは出版社の偉い人達に挨拶をして歩いた。

 誰が誰なのか全然覚えられないよ。


 パーティーが終わって、ホテルのロビーに出て、金倉を待つ。


「お待たせ。パーティーの間、引っ張りまわしちゃったから、あなたたち何も食べてないでしょ。これ、ホテルのほうで用意してもらったの。持っていって」


 そう言ってケーキが入っているような箱を渡された。


「あっ、それとコーヒー券もらってきたわ。ラウンジで飲んでいくといいわ」

「ありがとうございます」


 基樹が受け取ってお礼を言う。


「今日はお疲れ様でした。これからは出版社のほうに来ていただくことになるわ。これ、名刺の後ろに地図書いておいたから。来週中に一度来てもらいたいの。出版の前の打ち合わせ、いろいろあるから。学校の帰りでいいわ」


「あ、あの……出版って?」

「あら、ちゃんと応募要綱に書いてあったでしょ。大賞受賞作品は出版されるのよ」


「え、え~~~~~っ」

「やぁね、知らなかったの?」


「知りませんでした……いてっ」

 基樹にポカリと頭をこずかれた。


「ふふふっ、ホント、仲いいのね。とにかくそういうことだから待ってるわね。じゃ、帰り気をつけてね」

「今日はありがとうございました」


 私達はラウンジに行ってコーヒーを飲んだ。

 喉カラカラだもんね。


「はーっ」

「なんだよ、ため息なんてついて」


「だって、出版だよ。本になっちゃうんだよ。どうしよう」

「どうしようって、本になるんだから嬉しいことじゃないのかよ」


「えっ、そ、そうだね。嬉しいことだよね。で、でもなんだか恥ずかしいよ」

「おまえっていつもそうだな。ヘンに考えないで嬉しいって思えばいーんだよ。ごちゃごちゃ考えるから疲れんだぞっ」


 そうか、いろいろ考えちゃいけないのか。

 嬉しいって思っちゃえばいいのか。


「おまえが書いた話が本になって小さい子供がそれを開いて、ワクワクしなから読む。ページをめくるたび、子供の目が輝く……だろ?」


「う、うん!」


 そうだね。

 そう!!


 コーヒーに口をつける。


「げっ、にがっ」

「バカ。砂糖とミルク入れ忘れてるぞ。ほらっ」


 そう言って基樹が砂糖とミルクを入れてくれた。


「おいしっ」

「ドジ」

「も~っ」

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